第4話 ジャガーイーモと、もう一人の囚人

(JuggerPotoooooooo and another lifer.)



 ジャガーイーモ一行が歩いていると、なにやら両足が出たまま地面に突き刺さっている人を見つけました。


「旦那ぁ、ありゃなんですかね」


「うーむ、困っているのかもしれない。助けてみようか」


 ジャガーイーモは両足を引っ張り、すっぽーんと抜いてみせました。


 クロップクロウは、その姿を見て疑問に思いました。


(こいつの身体、ブロッコリー、いや、全身がカリフラワーで出来ているのか)


「げほっえほっげぇーっほ! おほっ、ああ、ありがとうございます、げほっ、わたくし、数百年はこうなっていたものですから、ああ、何と申しあげたら良いか」


 “数百年”という言葉に少しばかり気を取られながらも、ジャガーイーモは優しく接しました。


「ははっ、よく生きていたものだな。ほら、水を――」


 言いかけたその時、助けた人は目を丸くして、同時に大いに泣き始めました。


「ああ、あんた、そんな、ああそうか、そんなことが、いや、ありえるものか、そうか、あ、ああ」


「ど、どうした。そんなにわんわん哭いて」


 彼は喜びに打ち震えながら、ジャガーイーモに啼きつきました。


「ポテイツァー! 生きていたのか!」


「ぽていつぁ?」


 二人は顔を見合わせ困惑しました。とにかく落ち着かせる為、ひとまずここでキャンプをすることにしました。


「ああポテイツァー、よく無事で、本当に、本当に、良かった。もしかしたら、もう死んでしまったかと思ったよ」


「あの、すまないが、誰かと勘違いしちゃいないかい。僕の名はジャガーイーモ。こっちはクロップクロウと、キャロップだ」


 何もわかっていなさそうなジャガーイーモに、彼は目を丸くしました。


「なん、だと……。お前まさか記憶が、いや、ありえない話ではない。あれから恐らく数千年は経っているだろうからな」


「さっきから一体、何を言ってるんだ」


 何故か、ジャガーイーモの心臓が冷たく、静かに、しかし強く鳴り始めました。


「ポテイツ――いや、ジャガーイーモ。私の名はカリフリーグ。私と君は、数千年前に一緒に戦った、同士だよ」


 その話を、聞くことにしました。



 彼によると、数千年前に一度人類が滅びたのだと言いました。ジャガーイーモ達の人類は、薬によってその肉体を変化させた人類でした。初めは葉緑体を体に持ち、水と太陽さえあれば生きていけるようにするものでした。


 最初にこの薬を飲んだ人類はそれだけの効果しか現れませんでしたが、人類の子孫にもその影響が現れることが分かりました。それにあわせて薬も変わり、徐々に研究と進化が進むにつれて、副次的な効果として自分の身体が食べられるようになりました。しかも、人によって違う肉体に変化したのです。


 ある人は人参の見た目、味、身に似た体を持ち、またある人はジャガイモのそれとなりました。完全に元々存在している野菜になった訳ではないため、正確には“人参の身体”とは言い難いのですが、そう言っても間違いとは言えない程、その特性は酷似していきました。


 人間の細胞であることに変わりはないため、痛覚の神経もあり、傷も治ります。本来成長の遅い野菜ですが、次々と新しい農薬を摂取していったことで傷の治りが早くなるよう進化していきました。そういったことを繰り返した結果、人類は不老不死となったのです。


 痛みを感じる神経が無くなった頃になると、五感が欠けた人が増えました。人々はようやく、自分たちが自分たちでなくなり始めていることに気が付いたのです。色々な農薬を試したけれど、少なくとも自分たちの世代ではどうにもならないということが分かりました。


 やがて感情すらも消えかけ始めていた頃、子供は生まれなくなりました。いいえ正確には、産まれてくる子供は皆ただの野菜だったのです。意識はなく、動きも感じもしない、ほんの僅かばかり人間の細胞の残った野菜。新しい人間は、もう生まれなくなりました。


「そんな時、ジャガーイーモ。あんたは立ち上がった」


 カリフリーグの目は、英雄を見ていました。




つづく


―――――――――――


設定飼糧


ポテイツァーPotaczar

モチーフ:potatoポテト+czar責任者



カリフリーグColifleague

モチーフ:cauliflowerカリフラワー+colleague同僚

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