愛を知らない男

karudom

カクヨム文芸部公式自主企画 恋愛ショートストーリー募集 テーマ「沼らせ男/沼らせ女」

「知ってるよ。」


「お前ってなんだかんだ知識だけはあるよな。」


「まあ、それが俺の売りだからな。」


「後は経験だけなんだけどなぁ。」


「うっせぇ、余計なお世話だ。」


俺はよく言われる、所謂お人好しって奴だ。そして同時に良い人止まりの、いざって時には別に頼られない立ち位置だ。つまり、恋人なんて産まれてこの方1人たりとも出来たことがない。

でも、良い人もとい好い人でもあるため、友達は一般の人よりは多いと自負している。思ったことはそれなりにハッキリ言うし、自分の意志がそれなりに通っているし知識だって多少あると思っている。だからか、人生相談やら恋愛相談をされることもある。

なんで経験のない俺にみんなはよく頼るのだろう?とは思う。だから聞いてみた。すると、どうやら聞き上手らしく、さらにどんな事でも真剣に返してくれるから話しやすいと言われた。

これを聞くまでは、シンプルにネットやら友達の友達やらと言った、遠い存在だからこそ話しやすい的な類だと思っていたため、みんなから俺に対しての感情なんて1ミリも気にしていなかったのだ。


話は少し飛ぶが、俺は恋愛もののアニメやら小説が好きだ。恋愛をした経験が全くないだけで、興味が無い訳では無いのだ。恋愛ものはいいものだ。お互いの気持ちを描写してくれるため、そのもどかしさと切なさが癖になる。

俺はきっとこういった客観視点が好きなのだろう。こういう系統を見てムカムカ、イライラしてしまう人は、器の問題とかではなく、シンプルにヤキモチみたいな感情が沸くのだろう。

俺(私)もこうなりたい。と。


しかしながら、こういうものを見るとどうしても過ぎってしまうものがある。それは恋愛ものでよく見かける1シーンが原因だろう。

それは、

相談しているうちに好きになる。

と言った類のものだ。

もちろん、これはフィクションであってリアルの経験がないから分からないのだけれども、こんな事は無いと思っている。否、思っていた。


最近、俺の友達が相談を聞いているうちに好きになられた事を俺に相談してきた。俺は驚きながらも、お前の気持ちは?と聞いて話を進め、無事2人は付き合うことになったそう。その後どうなったかは知らないが、少なくとも俺が観測している間は別れることは無かった。


冒頭の方に戻るが、俺はお人好しという類の者だ。誰かの事を恋愛的に好きにならないし、好きになられない。故に、男女分け隔てなく遊び、時には相談も受ける。泊まりにだって行く。それも男女関係なく。


そんなある日、俺にも所謂、アオハルもとい青春と呼ばれるものが訪れたのだ。それは、普段よく遊んでいるグループのうちの1人の女性から当然告げられた事から始まる。なぜ好きになったか聞くと、話しやすく、気配りが出来、何より優しいから、だそうだ。


不思議に思った。

普段遊んでいるグループ内にはもっとイケメンはいる。少なくとも顔面偏差値だけで言ったら、そのグループ内では俺は最下位だろう。ただ、自分で言うのもなんだが、このグループ外を見れば、所謂フツメンと呼ばれる類には少なくともいるとは自負している。そんな奴だ。これと言って突飛な発言やら行動やらはしておらず、かと言って空気が読めなくて馴染めてない訳でもない。

そんなごく普通のどこにでもいそうな素朴でなんの取り柄もない俺のことが好きだって?


俺はしばらく考えてたから答えた。恋愛感情というものを知らない今の俺には、恋愛感情を知らないまま付き合うのは申し訳ない。だから、俺が恋愛感情を知るまで待ってもらうか、今の時点ではごめんなさい。の2択であると。

そこからさらに続ける。

俺みたいなやつにいつまでも執着しているより、早く次行くのを今のうちにオススメしとくよ、と。恋愛感情はなくとも知識だけはあるため、それが出来ない人材もいるとは知っている。それでも言わざるを得なかったのだ。彼女からの思いを無下にするのも辛いという優しさという名の言い訳に、保身と罪悪感と期待を乗せて。


しかし驚いた。彼女は待つことを選択した。どうやら、彼女しか見れないくらいに俺を好きにさせるそうだ。何をするかは分からないが、とりあえずこの場はそれで済んだため一息つく。


それからというもの、彼女からのアピールもとい猛追が凄まじかった。

毎夜電話したいという、所謂寝落ち通話。隙あらば話しに来て微笑みかけてくる。

しかし、俺はいいよ。や、どうした?とほとんど全ての言動にそう答えてきた。別に彼女のことが嫌いな訳でもないし、かと言って好きかと聞かれると微妙だった。そもそも、執着するものや人が居なかったため、自分から誘わないことも相まって、長い目で見ず、その場限りの優しさを続けていた。


そして今日も。


「電話していい?」


「うん、いいよ。」


いつもと変わらない日常がまた始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛を知らない男 karudom @karudom

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る