第19話 最長片道切符の旅19日目(石巻~舘越)

 みどりの窓口にいる駅員さんには我々鉄道マニアは大きな敬意を払わなければならない。一関駅の駅員さんはプロであった。来週あたりに乗る予定の観光列車の指定席券の日付変更やら発行やらをとてもスムーズにやってくれた。素晴らしい。


 さて、今朝は列車に乗る前に石巻駅の駅員さんにも一仕事を頼もう。一関駅でやってもらったことと同じ要領で日付の変更と座席の空席確認を求めた。20代後半から30代くらいの男性の駅員さんだろう。無愛想ではあるが、仕事ができそうな雰囲気がある。雰囲気だけだった。どうやら観光列車の切符の取り方がわからないらしく、白髪のベテラン駅員さんが応援に来た。慣れた手さばきで、満席ですねと一言。そうですかと私は潔く窓口を後にして7時半の仙台行き電車に乗り込む。車内でえきねっとにて空席状況を見たら一席空いていた。


 仙石線、松島海岸駅にて途中下車。8時半過ぎ頃から本格的に店が開くためまだ駅前は閑散としているが、観光客はちらほらとみられる。私は店で使う金は持たない主義のため景勝地としての松島を楽しむことにする。松島海岸駅から徒歩にて15分ほどの高台から松島の景色が一望できるところを知っていたため、まずはそこに行く。穴場であった。誰もおらず一人静かに展望台から景色を堪能することができた。さらに沿線には仙石線に加え東北線も走っているため、時々聞こえるガタンゴトンという音が旅情を掻き立てる。しばらくして高台を降りるとずいぶんと賑やかになっていた。遊覧船が1000円ととてもお値打ちだった。しかし福浦橋を渡る300円ですら惜しいと感じた私には高すぎた。通常の1.5倍ほど福浦島を堪能して海沿いをのんびり歩きながら松島を後にする。


 松島の次は多賀城に寄る。多賀城駅にて下車印をもらおうと試みる。ベテランの雰囲気を出した駅員さんは私の切符を見てすぐさまに最長片道切符を判断した。さすがである。しかし、下車印の場所を律儀にも行き先に被らないように押すようにしていた。自分で押すように下車印を渡す駅員さんもいるのだから、下車印の押し方ひとつ取っても性格が出るものである。さて仙石線多賀城駅の近くよりも東北本線国府多賀城のほうが多賀城市の古跡観光には適しているらしい。しかし、なんとか歩いて多賀城跡まで足を延ばしへとへとになりながら意地でも多賀城跡を観光してやった。多賀城跡に感動はないが、それをしてやったという達成感はあった。


 多賀城駅から仙台駅まで車内は久々の混雑具合であった。それは仙台がどれほど大きな町かを示唆しているようだった。仙台駅の観光案内所で金のかからない観光を聞く。近くの展望台やら、商店街をぶらぶらしたり、市場を歩くのがよいとの助言。しかし、どこを歩いても貧乏人には使う金のないため面白いとは思わなんだ。展望台からの眺望は良かったが、この程度の景色では感動しなくなってしまうのがこの旅の悲しいところである。ずいぶんと金のないくせに我儘な旅になってしまった。大荷物を背負いながら1時間も大都会を歩いたが、都会だなあというそれだけである。しかし、平日なのに多くの人が街に出ている。大荷物を背負いながら仏頂面で闊歩する私はさぞかし奇怪に見えるだろう。私も一人ぼっちで知らない街にいると、たまに自分が何者でこれからどこへ向かうのかを忘れかけることがある。いずれにせよ私のような貧乏人には仙台の都会っぷりは合わなかった。


 時間はまだあるが、やや疲れが見えたので早めに駅に戻る。次は新幹線にて福島に向かう。そのため、新幹線のリッチな待合室で居眠りやら腹ごしらえやらをして時間をつぶすことに。今日の目的地いわきに早めについたところで昨晩と同じようにネットカフェ周辺を徘徊することになるのだから。仙台駅の新幹線待合室は昼過ぎは混雑していたが、夕方ごろになると落ち着いてきた。


 私も16時25分発のやまびこ号にて福島に向かうことにする。福島に着いた時には夕方だったが、一応観光案内所で情報収集を試みる。タイミングの良いことに歩いて30分ほどの公園で夜桜のライトアップが行われ出店なども少々出るらしい。特段、夜桜見物に興じようなどという趣の心を持つ余裕はないのだが、いわきに行くまでの暇つぶしにでもしよう。信夫山公園という地元民しか行かないであろう、その規模感とゆるさがたまらない。ひとり異なる者が地元民から不可思議な目で見られることに快感すら覚えるようになっていた。思ったよりも心地よく、ふと時刻表で予定を確認していたらいわきまでの普通電車の終電は過ぎていた。別に狼狽えることはなかった。岩沼駅から一駅ルート外にはみ出した東北本線館腰駅から徒歩10分の所に快活クラブが見つかったからだ。例のごとく、次の日はその遅れを取り戻すように始発で出発することを心に決めていたため、またもや福島駅にて時間をつぶすことになった。そうと決まれば信夫山公園での夜桜見物を飽きるまで堪能しよう。


 20時前の電車で福島を出て、館腰には20時半を少し過ぎたくらいに着く。明日の始発5時47分の電車に乗るためには5時ころに清算を済ませればよい。さてもネットカフェのフルフラットで夜を明かすが、館腰のは他の快活クラブに比べて少々サービスが悪いように感じた。が働く側からしたら働きやすいのであろう。

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