第21話 最長片道切符の旅21日目(会津若松~長岡)

3時40分ごろにそろそろと動き出す。連日の長距離の移動の疲れはネットカフェでは完全に取れない。ましてや昨日は体を洗ってすらいない。しかし、5時28分新潟行きに乗らねばならない。駅まで徒歩50分。まだ町は眠っているが4時半を少し過ぎた頃に足早に宿を去る。しかし、乗車したところで磐越西線が5日前から前線復旧していたことに気づく。それならば6時発の電車にして少し会津若松を見学したのにと悔やむがもう遅い。このまま行けば今日の宿である長岡には途中の観光の時間を勘案しても昼過ぎについてしまう。それではあまりにも味気ないので、6時前ではあるが喜多方で途中下車。まだ早朝なので駅に人はほとんどいない。駅前の地図などを取って散策する。この町の情報はいつか福島駅で聞いた「倉の町」以外は何もない。しかし観光情報には日中線しだれ桜並木というものがあるらしく、さくらの名所らしい。この枝垂桜の並木は会津若松駅前のところから3キロも続く。これは日中線廃線跡を両側から枝垂桜で覆うような遊歩道に変えた有名な場所らしい。まだ、満開とは言えなかったが場所によっては十分にその美しさを堪能できた。しかし連日桜の名所ばかりを巡っているため、3分の2ほどで踵を返すことにする。まだ時計の針は6時半ごろをさすが、7時から店を開ける喜多方ラーメンの店が駅の近くにあるらしい。信じがたいが、7時前にもかかわらず10人ほどが店の前に行列をつくっていた。朝から750円のラーメンを堪能してしまった。しかし、今日は新幹線や特急に乗る予定はないため予算に少々の余裕はある。それにラーメンの味も悪くなかったし、早朝の冷えた体に温かいスープが染みた。引き続き8時34分喜多方発の磐越西線に乗る。乗車してすぐに眠りに落ち気づいたら終点湯沢についていた。この列車は磐越西線の終点新津ではなく湯沢どまりで1時間半後の新津行きに乗り換える必要がある。特に用事はないが下車印をもらった以上街をぶらつかなくては申し訳ない気持ちになる。駅から徒歩10分ほどの道の駅に行くが別に面白いものがあるわけでもない。駅に着いたら、今度は駅員のおばちゃんが道の駅とは反対側に花見山という小高い丘があると教えてくれた。正直、朝から歩きっぱなしで休みたかったが好意を無下にできないので往復30分、起伏にとんだ道程を楽しむ。気温も上がり汗ばむ陽気である。結局、駅で休む時間などなくすぐに電車が来る。またも眠気に襲われるが、なんとか耐えながらも車窓を楽しむ。ここらはばんえつ物語号というSLを走らせるいわば観光路線である。山の隙間を縫うようにトンネルをくぐりながら川沿いを走るその景色は見ものである。阿賀野川沿いが一番きれいな景色である。ただ、車内の乗客の大半は眠気眼であり車窓を楽しんでいるのは乗客の半数もいなかった。無論、その乗車率は非常に悪いが。12時29分、「お客様、お客様…」の声で気づく。終点新津。新津は鉄道の町である。ここまで転車台があったという歴史を歌い鉄道の町を僭称する街をいくつも見てきた。しかし、この町は現在も信越線に羽越本線、磐越西線が通る今もなお新津は本当の意味で鉄道の町だろう。駅名表示板には4本の路線がクロスしている。この町には用がある。かねてから鉄道資料館に行きたかった。駅から徒歩で30分。駅と資料館を結ぶ無料のシャトルバスは便が少ないので不便だ。やっとの思いで資料館に到着。大学生料金で200円。財布にやさしい。ここは大宮の鉄道博物館ほどの煌びやかさはないが、真摯に鉄道に向き合っている。無料のロッカーに荷物を預け見学するが、客は子供連れしかいない。子供に混ざって鉄道運転シミュレーターに並んだら、どこぞの母親から白い目で見られた。子供専用とは書いていないのに。この館のメインはやはり外の実車であろう。SL、C57は中にも入れる。この点では大宮の鉄道博物館に負けず劣らない。帰りは遠回りして少々新津車両工場に立ち寄っていく。写真の撮影を自粛するように求める札がどこか殺伐としている。製造された車両を通る専用の線路などは興味深い。ここを現役の山手線電車E235系なども走ったのだ。くたくたになりながら新津駅に到着。長岡と新潟を結ぶ信越線の間に位置する新津。列車の本数も多いため時間を気にする必要はない。4時半ごろに長岡に到着。今夜の宿はドミトリーではあるが、ネットカフェと違って時間を気にする必要がない。それに旅行支援が適応されるため1泊2400円だが2000円分のクーポンがもらえるため実質400円で泊まれる。この生活が向こう3日間も続くのは心にゆとりができる。久しぶりの布団も堪能できた。明日の目的地は新幹線で2駅の新潟である。ただ天気が悪いのが気になるところ。

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