第17話 最長片道切符の旅17日目(かみのやま温泉~柳原)

 朝から温泉に入るリッチなスタートである。というのも館内には昨晩のとは別の温泉があり、それには朝しか入れないとのこと。大幅に予算オーバーした宿代を少しでも回収しようとわざわざ6時前に起きて堪能した。8時前の電車に乗る予定なので7時半ごろに宿を出る。昨晩の道中に気になっていた上山城に少々寄り道をすることを考えてあえて早めに出る。この城は特に有名な人が居たり、戦いで名を挙げたという歴史がないためあまり有名ではないと宿の女将から聞いた。なるほど最近建てられた新しい城らしい。遠めに見ると立派だが、近くで見るとその新しさがどうも嘘っぽい。


 無事に列車に乗り込み、山形を通過して少々ルートから外れ仙山線、山寺駅に行く。ここはかの芭蕉が読んだ「静けさや岩に染み入る蝉の声」という句があまりにも有名な場所である。山寺aka立石寺という。文字通り山にこびりつくように建てられている。展望台からの絶景と奥の院に行くため階段を千段ほど上る見込みである。8時半ごろに着き、まだ店などは閉まっていたが参道に出向くものは割といた。300円を払い、往復二千段の参拝にでる。私の荷物は登山家よろしく大きなリュックにショルダーバックやらビニール袋やらを持っている。それでもずんずんと上り展望台へ。駅の看板には駅から往復で2時間の見学時間を要すると書いてあったが30分ほどで頂上に着く。そのままゆっくり下ってもまだ時間があった。途中、悶絶するものを何人も見たが彼らはあまりにも体力がないのか。それとも毎日の旅で私が異常な健脚を手に入れたのか。時間をつぶすために登山口の入り口にある茶屋をのぞく。一串100円のたまこんにゃくがあったので買ってみる。なんの面白いこともないただの玉こんにゃくだった。


 山形駅に10時半ごろに着く。ここでの目的は昨日もらったクーポンで食料品を買いだめすることだ。観光案内所にてその旨を伝えるが、どうも飲食店でしか使えないらしい。想定外だったが文翔館などを見学する道中で使えそうな店を探していたら、クーポンが使えるファミリーマートを発見。2008円分の買い物をし左手には食料の入った大袋、右手には昼に食べるためのあつあつのハンバーグ弁当を持ち30分ほど駅までの道中で不審者を見るような目で見られる。無事に腹ごしらえも済ませ、新庄に向かう。


 腹も満たされ、歩き続けた疲れを意識する。目を覚ましたら新庄に到着。本日は土曜日なので面白そうな車が陸羽東線を走るらしい。快速ゆけむり号である。まだ指定席券はあるらしいが、私が乗るのは秋田行き普通電車である。特段、新庄でも1時間ほどの待ち時間で周りに何か見るものもなければ、疲れているのか見ようという気にもならない。駅構内で鉄道ギャラリーが催されていたので冷やかし半分で見る。それでも時間が余ったので、来週あたりに利用できそうな安宿に唾を付ける。電車が入線してきたので乗り込む、ぼーっとしていると横田に着く。秋田で食べそびれた横手焼そばを楽しみにしていたのだが、都合上待ち時間が30分もない。


 北上線に乗車。まだ、外は夕暮れ時ではあるが北上線の乗車率は1両編成でも芳しくない。私だけがほっとゆだで途中下車。ここは駅と温泉がつながっているという何ともユニークな駅なのだ。それに加えて、隣接の温泉も入湯料が440円と良心的である。ここでは休憩室もあるので、占めて2時間半ほどの時間を取っていた。しかし、休憩室が地方議員の遊説のため使えなかった。時間をつぶすために人生で初めて2時間以上も風呂屋にいた。


 風呂で疲れが取れたのかどうかすらわからなくなったが、とにかく北上線に乗車。さらに40分ほど乗れば本日の目的地柳原駅に着く。ここは北上線で北上駅の1つ手前の駅である。近くにネットカフェがあるのでここが都合がよい。わざわざ風呂屋で時間をつぶしたのも料金加重制のネットカフェでできる限り遅くに到着するためだ。さらに風呂も済ませてあるので軽く腹ごしらえも済ませればあとは寝るだけである。完璧な作戦だった。

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