第14話 最長片道切符の旅13日目(弘前~羽後牛島)
今日の朝はいつもより余裕がある。というのも五能線が弘前を出るのは10時23分で、ホテルからは歩いて30分ほどである。近くの弘前城公園を見学した後でも十分に間に合う。して、天候にも恵まれ弘前城本丸からの景色は絶景だった。地元民が快晴の中よく見える岩木山を写真に収めていたので、めったに見られない景色なのだろう。
弘前駅に10時頃着く。本来ならば五能線と言えばリゾートしらかみ号なのだが、土日祝にしかダイヤが設定されていない。そのため、景色は普通列車のボックス席から眺めることになる。さらに、普通列車では途中深浦での2時間ほどの待ち時間があり、これまた何もない街なので難所である。弘前駅観光案内所でも目ぼしい情報が得られない。駅中のマツキヨで食料を買い残りの地域クーポンを使い切ったところで五能線電車に乗り込む。途中五所川原駅までは通常の地域交通の要を担っているという様相だが、しばらくすると車内の雰囲気は変わり、終点深浦に近づくにつれて寂しくなる。2両編成車内には4名ほどしか乗っていない。しかし、どうも眠気が襲って景色に集中できない。崖の横をこびりつきながら海沿いをひた走る列車から見る景色。しかもなかなか良い席なのに体が言うことを聞かない。
深浦に着くころには虚ろ虚ろとしていた。前述したとおり何もない街ではあるが、駅の近くに役場や道の駅、それに資料館がある。一番近くにある資料館によってみる。街の歴史を知ることで、多少は何も知らない街でも興味を持つことになる。入館料は300円といっちょ前に取る。しかし資料館は期待外れであった。歴史についてはあまり触れられておらず、骨とう品が所狭しと並べられているのと古地図が少々あるだけだった。美術館とやらも併設されているが、これら二つの見物はとるに足らないものだった。道の駅に行くも、思ったよりも小さい。海の眺めこそよいがそれを活かしきれていないような気が。再度、駅のほうに戻る。まだ時間があったので、駅の裏道から階段で急斜面を登ってみる。登り切ったところで、50代ほどの地元の女性に話しかけられた。私の風貌がいかにも旅人風なのだから興味を惹いたのだろう。近くの展望台に案内してもらった。これがなかなか良い。深浦を一望できた。観光案内所よりも地元民の情報のほうがよっぽど有益であった。
頃合いに駅に戻り、電車は五能線を上っていく。ここからの区間は少し海沿いを行った後は白神山地などを通る。しかし、やはり眠気が襲ってくる。ただ、眠気眼で見た景色でさえも絶景だった。東能代駅で秋田行き奥羽本線に乗り換える。3分の乗り換え時間で下車印をもらい、すぐに乗る。30分ほど乗車した後、気が向いたので八郎潟駅で降りてみる。その名の通り、日本最大の干拓地八郎潟を拝められると思ったらただの田舎街で面食らってしまった。これこそが本当の駅名詐欺なのではないか。しかし、15分後に八郎潟発、秋田行き電車が出ているので問題はない。
夕日が沈みかけた頃に秋田駅に着く。今夜の宿であるネットカフェは一つ隣の羽越後牛島駅からのほうが近いが、まだ早いので少々観光を試みる。しかし、この時間ではほとんどの施設も閉まっており街をぶらつくくらいしかできないのだが。どうやら久保田城址公園が歩くにはうってつけらしい。何もしないよりはましなので、1時間ほど城址公園周辺を巡って外が完全に暗くなったころに秋田駅に戻る。秋田駅では友人に薦められたバター餅なるものを入手。さらに秋田駅併設のビル内の横手焼そばが食べられる店があるとの情報を事前に入手していたので行ってみることに。しかし臨時休業中だった。ただ、横手には明後日立ち寄るので特段落ち込むことはなかった。駅構内のラウンジの居心地がなかなか良いのは秋田駅の良いところだ。
秋田から一駅、羽後牛島近くの快活クラブにて夜を明かす。カップそばに湯を入れようとしていたら一人の中年に話しかけられる。ネットカフェは他人に関心を持つことがタブーのような雰囲気があるのだが。私もその中年男性に興味を持ち、少し話しているとどうやら私がフライトジャケットを着ており同じ趣味だと思ったらしい。それは良いのだが、途中から自信を成功者だと吹聴し始めた。この手の話をするのはネズミ講か本当の成功者くらいである。詳しく話を聞くと、20年間営業で必死に稼いだ金があるから10歳の娘の養育費を抜いても働く必要がないらしい。毎晩キャバクラに行く余裕があり、服にも金をかけているという。さらに詳しく話を聞くと、娘と妻が半別居状態で家にいてもやることがないからネットカフェで時間をつぶす日々らしい。どうやら本当の成功者だった。
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