第10話 最長片道切符の旅8日目(札幌~函館)

 7時04分発小樽行きの電車は通勤型であり平日のため、立ち客まででる込み具合であった。列車内での立ち客は久々の光景だ。


 小樽に8時前に着く。この時間では、三角市場という駅前の魚市場くらいしか空いていないらしい。しかし、ここの商売っ気はあまり好かないのか買う気が失せた。どうせ明日の函館で朝市を堪能するならここパスをしよう。運河のほうに歩くが、街並みはやはり美しい。明治時代の街並みが残されており、欧州式の建築を取り入れ始めた当時としてはモダンな建物が並ぶさまは歩くだけで楽しい。北海道で最初に開通した小樽港からの荷物を札幌に運ぶための手宮鉄道の跡地などもしっかりと残されていた。小樽の代名詞である運河こそ、夜ではなかったため期待を超えることはなかったが1時間と少々を退屈しなかった。駅前のバーガーキングにて550円の朝食を済ませた。


 次は余市に向かう。ここから30分弱の道程である。10時3分着。先日予約したニッカウヰスキーの工場見学に5分遅れで合流する。酒を嗜まない私でも名前くらいは聞いたことのある有名な会社である。工場見学やら、ウイスキーの製造過程やらは見ごたえがあったが、やはりこの見学の醍醐味は最後の試飲だろう。無料で作りたてのウイスキーやジュースなどを飲める。これが目当てなのか、序盤の説明に上の空の者もちらほら見えた。この見学は70分ほどであり、工場も余市駅の目の前にある。飲酒が前提なので鉄道で容易にアクセスできるようにしたのだろう。また、序盤こそ遅れてしまったが、私が乗る列車の待ち時間が1時間30分ほどなのでこの旅にはうってつけである。


 余市からはほとんどノンストップで函館まで行く。途中、倶知安、長万部、森などで少々の列車の待ち合わせをして函館には17時37分に着く予定だ。余市を11時18分に出るので、これまたしばらく列車に揺られることになる。やや試飲した酒が回ってきたのか、うとうとしていると倶知安に着いていた。


 倶知安からは長万部行き普通列車に乗る。倶知安では少々乗り継ぎ列車の待ち時間があるのだが、何人かの鉄道マニアたちはすでにその列車を待つ体制に入っていた。無論、この区間は北海道新幹線の札幌延伸に伴って廃線になる予定なので見納めに来ているのだろう。そうでなくてもスキー客が利用していた。もう雪は降らないだろうに。倶知安で長万部行きを待つ人の列はなかなかであった。大荷物を持った外国人観光客に鉄道マニア、旅人、この3パターンが乗客の大半である。無論、先頭に陣取り景色を眺める鉄道マニアに混ざれない私は、早々に席を外国から観光に来た老女に譲った。山線というだけあり、山々を列車でのんびりと越えていく。初めこそ車窓から雪化粧をした羊蹄山や残雪の残る自然にくぎ付けになる乗客が多かったが、しばらくすると乗客のほとんどはそれに飽きていた。


 終点長万部では特急北斗号への乗り継ぎで30分ほど待つ。これまたほとんどの乗客が函館方面に乗り換えるためにホームは賑わっていた。先ほど席を譲った外国人が重そうな荷物を抱えて階段上っていたので手伝う。話の弾みに連絡先を交換し、彼らが故郷メルボルンに来るときは連絡する約束をした。


 平日だったことに加えて春めいた今の時期はスキー客が少ない。そのため、北斗号の自由席は思ったよりも空いていた。少ない乗客の外国人率は高く、どこかしこから異語が聞こえる。森までは海沿いの車窓を楽しみながら優雅な移動になる。


 森駅にて下車し次の列車は砂原支線経由で函館に行く。少々の迂回をして最長を目指すために本数の少ない支線で函館に行く。森では有名な駅前のイカ飯の駅弁を食べようとしていたが、時間も時間で15時半ごろだったため売り切れていた。ダメもとだったため大して惜しくはないが、やはり同じように聞くものが何人かいた。40分ほどある乗り換え時間で駅前をふらふらしているとイカ飯を探し求めていると勘違いされ、売り切れた旨を同じ列車の客に言われた。1つ下の広島から来た大学生だった。互いに一人旅で暇だったのでボックス席で相席をしていろいろと話した。私の地元の栃木のほうに親戚がいるらしく、思ったよりも話が盛り上がった。函館駅に着くも別れが名残惜しくなり、函館を二人で色々と歩いた後に連絡先を交換して別れた。彼とは妙に馬が合った。明日の予定は時間こそ余裕があるが、今日は3万歩ほど歩いたため早めに就寝する

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