第9話 最長片道切符の旅7日目(帯広~札幌)

 今日は帯広から札幌までと飛ばしていく。さて、6時51分発の新得行きに乗りたい。しかし、ホテルの6時半からの朝食も食べたい。ホテルから駅まで徒歩15分だ。大荷物に加え、連日の酷使された足では余裕を見て出発したい。日々の不足しがちな野菜を朝食にてしっかりと補給し、ホテルを発つ。タッチの差で電車には間に合ったが、こうギリギリのことが続いては旅はもたない。時間に余裕を持たなくてはと再三にわたり反省する。


 車内で揺られながらうとうとしてると新得に着いた。新得―東鹿越間はいつかの大雨により不通となり代行バス区間となっている。このバスの本数がなかなか少なく、6時51分帯広発を逃すと次のバスは14時57分のおおぞら12号に接続しているものしかない。この区間もまもなく廃止される見通しである。初めて新得からの代行バスに乗ったが、バスからの車窓もまた乙なものである。新得からの乗客は皆帯広からの乗り換え客で私と同じ一人旅の若者二人に高校卒業したての女学生3人組のみだった。まだ残雪がある路肩にいる鹿を横目に十勝岳を眺める。バスは険しい峠道を行く。峠に敷かれていたであろうレール跡を見ると復旧をしないのも頷ける。バスはだらだらと国道38号を走り狩勝峠を超える。後部座席が騒がしい。若い女性が3人も集まると話題は尽きないものだなあ。


 さて、東鹿越からは旧型のキハ40系に乗り富良野に到着。北海道の「へそ」らしいが、それよりもスキー場やラベンダー畑などで北海道の観光地としての地位を築いてきた。1時間半ほど時間を取り市内観光を試みる。紹介されたワイン工場がうってつけらしい。同じ風貌の旅人も目的地は同じらしい。しかし、歩けども歩けども一向につかない。10キロ弱のリュックに加えて、カンカンに日差しが照り付けて汗ばむ。少し先を行った件の旅人が引き返してきた。意気地なしだと思い先を行こうと思ったが、遥か丘の上にワイン工場が見えて踵を返す。列車の時刻には間に合いそうないと判断した。観光案内所も名所を紹介する掲示板も当てにならないものである。美瑛でも少々歩く予定があるので駅周辺を散策して体力を温存する。シーズン外だが、駅前には中国人観光客が目立つ。隣接するスキー客向けのバスターミナルの効果だろう。


 目的の普通列車が来たので乗り込むが、やはり乗車率は高い。大型のバックパックを持った若者が目立つ。早めに改札を通りボックス席を確保する。ここでも中国人が目立つが彼らの分までのボックス席は用意されていなかった。車内から十勝岳を眺めながら美馬牛に到着。美瑛の1つ前の駅だが、今の時期はレンタサイクルがシーズンオフのため美馬牛から歩いていける観光地に行く。その道程は徒歩にて30分ほどであるが、道中の景色は丘の町の名に相応しい素晴らしいものである。溶けかけの雪ではあるが、小高い丘から見下ろす美瑛の雪景色は感動ものである。そのうち色彩の丘という、丘を一望できる道の駅のような観光施設に着いた。シーズンオフのため客は私一人だったが、ラベンダーの咲き誇る時期にはたくさんの人が訪れる。まだ雪が残る足元の中、景色を楽しむ。どうやら800円でスノーモービルに引っ張られるボートに乗れるらしい。4人乗りのところを貸切る。スリルがあり景色も楽しめてなかなかのものだった。しかし、雪が解けてしまっているためスピードはほどんど出さなかったようだ。雪がたくさんある時期ならもっとスリルがあるらしいと聞きやや残念。しかし、そのような時期に徒歩で30分もかけてくることはできるのか謎。


 美瑛を堪能した後は旭川行き普通列車に乗る。北海道第二の都市、旭川へ再訪。さしてやることはないため、今後寄る街の情報収集などをして30分後の特急カムイに乗り込む。北海道最大の都市札幌と結ぶ特急であるため乗車率は悪くないようだ。深川駅を通過する。留萌本線からの乗り換え客で賑わっていたホームが記憶に新しい。この列車では留萌本線との接続が悪いことに加え、今日は平日なのでさほど乗ってくる客はいない。


 岩見沢にて途中下車。今日の目的地は札幌であり、あと30分ほど特急カムイに乗れば着く。しかし、この旅では最長を行くのでわざわざVの字に迂回して苫小牧のほうから札幌に回り込む。馬鹿馬鹿しいと思われるだろうが、本人は大真面目なのである。余計に3時間半をかけるために岩見沢から普通列車で室蘭本線に乗り、苫小牧に向かう。本来は沼ノ端までだが、接続が悪いので苫小牧までの往復乗車券580円をはたいて40分ほど街をうろつき18時41分発の列車で札幌に向かう。1時間と20分ほどロングシートの通勤型列車に揺られることになるがどうせ夜で何も見えないので構わない。


 札幌に20時3分に到着。ホテルまでは徒歩で15分ほど。チェックインを済ませた後、クーポンが使えたのでテレビ塔から大通りの夜景を望む。なるほど、碁盤の目のように綺麗に縦横が交わるさまが一望できる。明治時代から本格的な街づくりがはじまった計画都市は圧巻である。すすきのなどを散策して宿へ帰る。カプセルホテルのような狭く質素な内装だが、大浴場がついてるのと値段の手ごろさが決め手になった。

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