第8話 最長片道切符の旅6日目(釧路~根室~帯広)
鉄道マニアの朝は早い。今日は5時35分発の快速はなさきで根室まで寄り道をした後、帯広が目的地である。4時に起き、筋肉痛の足を気にしながら準備を整える。
18切符にて改札を済ませると、すでに鉄道マニアが5人ほど窓側の特等席を確保した後だった。釧路―根室間を結ぶ花咲線はキハ54系1両で運転されるローカル線であるが、利用客の大半は観光客である。この辺の事情は釧網本線と同じだろう。しかし、その車窓は異国情緒溢れるものであり唯一無二だった。当然のように線路を闊歩する鹿や美しい雪原、凍った川などを暖房のきいた車内から転換クロスシートに座り眺めるのは格別だった。残念なことに、始発から乗っているためほとんどの乗客は私含め眠気眼に虚ろ虚ろだったが。
目的地、根室駅ではバスに乗り換えて納沙布岬へ向かう。このバスは行きも帰りも花咲線の接続がとても良い。おおよそは日本最東端の地を目指す観光客向けのダイヤのなのだろう。1970円という納沙布岬までの往復のバスの運賃がそれを物語っていた。すぐにバスがやってくる。バスのほとんどの乗客は私と事情が同じで電車からの乗り換え客だった。40分ほどで納沙布岬につく。その道中では北方領土返還を求める看板が目に入る位置に置かれていた。政治色を色濃く感じる場所である。帰りのバスまで45分ほどある。ちょうどよい。日本最東端到達証明書を例のごとく頂き、岬から国後島などの北方領土を眺める。すると見覚えのある顔が私に写真を撮るように頼んできた。私と同い年ほどの彼は、昨晩の釧網本線から今朝の花咲線まで奇遇にも同じルートを辿っていた。そのため鉄道マニアにはありがちな妙な顔見知りになっていた。互いの素性を明かし、鉄道マニア同士で写真を撮り合う。バスが来てからも車内で世間話をしていると出身は埼玉の川越で明治大学の4年生らしい。やけに埼玉県民に縁がある。彼のジャンルは「撮り」らしいが私よりも数段鉄道には造詣が深くたいへん勉強になった。
日本最東端の駅、東根室駅から二人で再度乗車する。SNSを交換した後、私は厚岸で途中下車し彼とは別れる。厚岸では2時間半ほどの時間がある。厚岸には有名な道の駅「コンキリエ」があると昨晩、宿の人に聞いていた。件の道の駅は道内では有名らしく、よく賑わっていた。丘の上にあるため景色も抜群だ。道の駅といっても駅から徒歩5分ほどで行ける好立地である。そこから歩いて20分ほどの役場の隣の海事舘でプラネタリウムなどを見たり、ドラッグストアでショッピングなどをしていたらあっという間に列車の時刻が来た。
予定通りに釧路に戻り、最長片道切符の旅の再開である。釧路駅から乗り換える根室本線で帯広に向かう。この区間は奮発し特急券を購入する。しかし、駅は思ったよりも混んでいた。10分ほど前にSLが到着したのと、私の乗ってきた花咲線の客と、私が乗る予定の札幌行き特急「おおぞら10号」の乗客がかち合ったためだ。改札にはおおよそ釧路駅にはふさわしくない長蛇の列が出来上がっていた。無事、特急券を購入しあとは優雅に帯広まで行くだけだ。と思ったが後ろに座っていた中年男性のいびきによる不協和音がそれを許さなかった。帯広駅から徒歩15分ほどの格安ホテルはたばこ匂いがしてたまらなかった。
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