第5話 最長片道切符の旅3日目(稚内~旭川)

 しまった!そう思った時には玄関のオートロックは閉じていた。始発の電車に乗るために、身の回りの物を確認して5時15分に宿の外に出た。スリッパのままで。足元がやけに寒いと気づいたときには遅かった。汽笛の音を聞きながら宿から出てくる人を待つ。30分ほど待ちぼうけを食らった後に、同部屋の大阪の男がちょうど出てきたので宿に入れてもらった。


 1本目の電車から乗り遅れるという幸先の悪いスタートである。特急列車にて遅れを取り戻すための予定外の支出である。稚内から特急サロベツ2号に乗車。5両編成ではあるが、乗車率は低い。雪の中、天塩川沿いををひた走る列車ほど面白いものはない。途中駅で何人か客は入れ替わるが、基本的には旭川まで乗り通す客がほとんどだろう。音威子府から車内検札が来た。車掌は最長片道切符をしばらく見て、聞き覚えのないであろう新大村を確認してなるほどとつぶやき、去っていった。これは切符から私が鉄道マニアであることを確認したことに対しての「なるほど」に違いない。名寄で自由席の乗車率は倍増し、ようやく定員は適正になる。


 旭川に到着である。しかし、すぐに滝川行普通列車に乗車する。なお、ここからは葬式鉄として留萌本線の最後を見届ける18きっぷの旅である。留萌本線の始発駅、深川駅には10時半ごろにつき、すぐに留萌行きの普通列車に接続できる。しかし、この列車に乗っても留萌駅では10分ほどしか時間がないためここは見送ることにした。普段はローカル線だが廃線となると日本中から鉄道マニアが押し寄せてくるため、座れない客が出るほどの乗車率だった。深川では無料の郷土資料館などで時間をつぶしたが、なかなかに退屈だった。さて、次に列車がくる。先ほどの乗客が折り返しで帰ってくるのと、ホームで待つ第2陣が合流しその光景はさながらラッシュ時である。相席になった埼玉からの紳士と鉄道や地元の話で盛り上がり、留萌駅に到着。駅前の観光案内所でうろうろしていると、件の紳士から昼食の誘いを頂く。なんと2750円の寿司をごちそうになった。埼玉県は行田のほうに住んでいるらしく、近場なのでもし会ったらまた礼を言おう。


 さて、留萌本線の葬式を済ませて旭川に19時ごろに戻る。チェックインを済ませ、疲れをとるため近くの銭湯に行く。閉店の時間だったが無理を言って入れてもらった。カラスの行水だったが良い湯だった。適当に割引になった惣菜とパックご飯で食事を済ませて明日の旭山動物園に備える。明日の朝はゆっくりの予定だがだいぶん歩くことになるだろう。

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