妻は危機感が薄い

ふる里みやこ@受賞作家

うん。




「美奈はさ」

「うん?」

「危機感が薄いと思うんだよ」

「うん……うん?」

「わかってない顔してるね。もう子供だって居るんだからしっかりしなきゃ」

「それはそうね」

「この間だって知らない男に声かけられてたでしょ。見てたんだよ!」

「あれは立花さんのところの旦那さんよ。お互い子育て大変ですねって話してたの」

「いや! あれは美奈に気がある顔だったよ! 浮気はしないでよ? と言っても、させる気は無いけどね」

「イケメンムーブ……」

「俺は美奈の前だけのイケメンだからね」

「……うん?」

「あ、ひどいなぁ。くそう。今度はちゃんと認めてもらえるようなイケメンでいるからね」

「うん? ……うん」

「またわかってない。はぁ……ま、そこが美奈の魅力でもあるんだけどね」

「……うん」

「そうだ。この際ついでだから言うけど、昨日も家の鍵かけずに出ていったでしょ。俺が閉めておいたから良かったものの、泥棒とかがアレ見てたら1発アウトだったよ?」

「気をつけるようにはしてるんですけどつい……戸締りチェックありがとうございます」

「良いよ。美奈のそんなところもあるってわかった上で好きにしてるんだから。でも、危機感は持ってね」

「はい」

「ところで、今日はこれからどうするの? 俺はもうすぐ昼休憩終わって仕事だけど」

「もう少しゆっくりしてから帰ろうかなって」

「そっか。じゃ、気をつけて帰ってね。俺だって美奈と子供の為に、酒もタバコも止めたんだから」

「すごい。ねー。ユカの為に色々やってくれてるんだってー。ねー。すごいねー。よしよし」

「やっぱり子供も可愛いなぁ。勿論、美奈の方がずっと可愛いけど」

「あら、嬉しい」

「こっちももっと褒めてくれても良いんだよ?」

「交換条件なんていやらしい……でも気分が良いのも確かだし……素晴らしい。ビューティフル。ジャンボ!」

「なんか違う気がする……まあ良いや。じゃ、仕事戻るよ。愛してるよ」

「……うん?」

「最後までそれかよ……」




───────────────




「ただいま彩奈。はい。お茶買ってきたよ」

「ありがとう。正樹さん。あ、冷たーい」

「さっきの人は?」

「知らない人」

「え……なんて言われたの……?」

「私の事を美奈って人と勘違いしてたみたいで、危機感が無いだとか、立花さんの旦那さんが私に気がある気がするとか、私とユカの為にお酒とタバコを止めたとか」

「え、おま……」

「良い人だよねー。見ず知らずの人にそこまで出来るなんて」

「……あのな、彩奈……大事な話がある」

「うん?」

「引っ越そう」




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