ざまあ番外編:ピンクブロンド令嬢の苦悩

「エレナ様、おやすみなさいませ」

「ええ、おやすみ」


 侍女を下がらせた後、思わずガッツポーズを取ってしまう。

 くふふ、やったわ!

 ついに邪魔なリディア・デービスを排除したわ!

 これでエドガー様は私のものね。


 大体いくらスクールの成績がいいからって、あの野暮ったい娘が太陽神のようなエドガー様の婚約者だったっていうのが間違っていたのよ。

 エドガー様に相応しいのは、私のような美貌の女だわ。

 エドガー様が簡単に私のウソを信じるとは思わなかったけど……。

 きっとエドガー様もあのリディアをお嫌いで、婚約を破棄する機会を窺っていらしたのね。

 それとも私が魅力的で伴侶にするに足ると思われたのか。

 エドガー様のおつむが悪……いえいえ、そんなことはないわ。


 侯爵令息と結ばれる未来への幸福感に包まれたまま、私は眠りに落ちた。


          ◇


「こんばんは」

「えっ……誰?」


 見慣れない場所?

 あっ、夢の中だこれ。


「私は魔法神よ」

「魔法神?」


 知性を湛えた瞳、どことなく厳かな雰囲気もある。

 なるほど、神なのかもしれません。

 でも知らない人(神)が夢に出るなんて初めてですね。

 所詮夢はそんなものでしょうけれども。


「神様が何の用かしら?」

「リディアちゃんは私の庇護下に入ったのよ。それでリディアちゃんを無実の罪に落としたあなたを許せなくて」

「それはおかしいわ。ウソを吐いたことは認めますけど、リディア・デービスを断罪したのは私じゃないわ」


 これは正論です。

 私冴えてる!


「それはそうなのだけれども、この件は元々恋愛神の管轄で」

「は?」


 恋愛神?

 そうね、婚約破棄に魔法神がしゃしゃり出てくるのはおかしいわね。


「恋愛神的にはこうした場合、ざまあするのがお約束だそうなのよ。それで慣例にしたがって私もざまあしに来たの」

「そうなのね」


 どうして恋愛神がざまあしに来ないのかしら?

 夢に整合性を求めても仕方ないですけれども。


「色々考えたのだけど、あなたの髪の毛が一時的に抜けてしまう呪いをかけようかと思って。どうかしら?」

「どうかしらと言われても」

「呪術は魔法神の管轄なのよ」


 そんなこと聞いてない。

 やっぱり夢はいい加減ね。


「じゃあそれで」

「文句はいいの? ざまあってこんなにアッサリでいいのかしら? 私も慣れないことなのでよくわからないの。ごめんなさいね」

「はあ」


 何を謝っているのだろう?

 夢のことなどどうでもいいのに。


「じゃあ明日の朝起きた時にはゴッソリ髪の毛が抜けてるから驚かないようにね。あ、その髪の毛は取っておいてカツラを作るといいわよ」

「はあ」

「もう一つ注意点ね。またリディアちゃんを虐めたら、今度は毛根が死滅する呪いをかけますから、覚えておいてください。毛根が死滅したら二度と髪の毛は生えませんよ。じゃあねー」


 自称魔法神が去って行った。

 おかしな夢ですこと。

 ぐう。


          ◇


「きゃああああああああああ!」

「どうされたのです、エレナお嬢様!」


 翌朝起きたら、髪の毛がゴッソリ抜け落ちているじゃない!

 侍女が呆れています。


「お嬢様どうしたのです? 髪の毛など剃って」

「剃ったのではないわ! 抜けたの! 起きたら抜けてたの!」


 思い当たるのは昨日の魔法神の夢。

 髪の毛が一時的に抜けてしまう呪いをかけるって言っていたわ。

 夢なのにやけにリアルに覚えてる。

 ほ、本当だったのね!


「お嬢様、頭の形がいいですね。可愛いです」

「そうかしら? 鏡を見せて」


 あら、なかなかキュートだわ。

 じゃなくて!

 貴族の娘がハゲでいいわけないじゃない!

 そうだ、ウィッグを作らないと!


「お父様が懇意にしているヅラ屋を急いで呼びなさい!」

「はいー!」


 お父様が薄毛でよかったわ。

 こんな時にもすぐ対応できますわ。

 じゃなくて!

 魔法神が言っていたセリフを思い出す。


『またリディアちゃんを虐めたら、今度は毛根が死滅する呪いをかけます』


 こ、怖い!

 せめてその呪いは、私じゃなくてお父様にかけてくれないかしら?

 もうエドガー様にもリディア・デービスにも近付かないから許してえ!

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