第10話 魔力切れ

 寝る前に覚えた魔法と魔力切れを経験しておきたかった。

 魔法のレベル上げで魔力切れは避けて通れない問題だし、魔法に興味しかなかった。


「魔力回復」


 何も変化がない。

 体や感情に違いがないし、魔力自体の感覚も分からない。

 神託の儀で魔法を唱えた時も魔力は減ったけど、何も感じなかった。

 【魔力回復】の魔法だから特に分からないのかもしれないから、【身体強化】なら少しは違いが分かるかもしれない。


「身体強化」


 この魔法もやはり何も感じない…

 感じなさ過ぎて、魔法が発動しているか分からない。


「身体強化」


 何回も連続で唱えているが身体的な変化はない。

 魔力切れが起きないって事は同じ魔法を重複してかけられないのかもしれない。

 魔力切れを経験したい目的があるから魔法を唱え続けると目の前が歪んで見えて、頭が痛くなった。

 頭の痛みは誰かに頭を握られている感じがしているから魔力切れを起こしている事が分かった。

 本当に動くのが辛くて、そのままベットで横になる。


 何分経ったか分からなかったが、壁の一点を見ていると頭の痛いのがいきなり取れる。

 魔力が回復すると何もなかった様に元に戻り、立ち上がる事も出来る様になっている。

 死なない事は分かったが、魔力切れの間の頭の痛さは辛い。

 でも、死ない事が分かると悪魔の実験を始めたくなる。

 魔力切れで起こる頭痛を経験し続けると耐える事ができるかやってみたい。


 【魔力回復】と唱えると、目の前が歪んで見えて、先程と同じ頭の痛さと共に動けなくなった。

 30分掛からずに頭痛が取れたから同じように唱えると変わりない強さの頭痛が襲ってくる。



 朝日で目覚めると、ベットの上で倒れこむ様に寝ていた。

 魔法を唱えている最中に寝た事は分かっているので、どれくらいの経験値が貯まっているか気になっている。


 そのまま礼拝堂に向かうと入口近くにいる司祭に一礼をし、トトスの神に身分証を置く。

 すると、昨日と同じ様にステータス画面が開いた。


 魔力値は6割程度の回復をしており、魔法を唱えている時に腕時計が12時を過ぎていたから今の時間で5時間半で5時半経っていたとする。

 魔力が5分に1回復するとしたら、6割程度の回復になるので計算が合う。


 【身体強化 1/6p】と【魔法回復 0/7p】の経験値が上がり、【身体強化】のレベルが0から1になっていた。

 10回の使用でレベルが上がるとしたら、23回使用の魔法の使用になる。

 そして、魔力切れになってから4回目までは覚えているから魔力値92を19回で割って考えるとたぶん1回の魔法で魔力5を消費する計算になる。

 これは大きな進展だし、唱えた数よりも使用回数が少ないから同じ魔法は重複で使えないんだと思う。


 【身体強化】を触ると【1分間の身体能力を10%上昇】となっており、5%から10%になっているからゲームの知識と一緒だった事で違和感なく進められそうな気がしている。



 鐘の音が響いた。

 食堂に行くと、ユウキとカナが待っていた。


「昨日はすいません。

 ユウキとも話したんですが、ユウミさんとメグミさんと一緒に行きたいと思います」


 珍しくカナが話しかけてきたが、なぜ謝るのだろうか。

 それよりもユウキは申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。


「気にしなくていいよ。

 交換日記はどうする?」


 ユウキは頭を下げるとノートを差し出す。


「それは続けさせて下さい。

 お願いします」


 罪悪感を感じさせない様に平常心で問題ない感を出して、ノートをユウキと交換する。

 ユウキの表情が少し和らいだ。


「気にしなくてもいいよ。

 何かあったら、話しかけて下さい」


 何事もなかった様に食事を受け取るとユウキとカナから離れた席に座る。

 ユウキとカナはユウミとメグミの近くの席に座り、楽しそうに話している。

 あの会話に加わりたいと思うが、今は1年間を有効に過ごす為に自分以外に時間を使いたくないと言い聞かせる。

 パンを口に運ぶとユウキから受け取ったノートを開く。


“ケンゾウさん、僕たちは戻る事に決めました。

 なので、ユウミさんとメグミさんと一緒に行動をする事にしました。

 すいません。”


 最初の一文を見て、胸が苦しくなった。

 どうしても長男の子供の隆くんを思い出す。


 自分は高校でサッカーをしていて、大学にスポーツ推薦で入学した。

 サッカーが上手い事を自慢していたし、一生懸命に練習もしたけど上手い人の中ではベンチを温める事しか出来なかった。

 大学3年生の春に監督に呼ばれると必死に守ってきたベンチ入りの座も失った。

 大学にいる意味もなくなったが、他にやる事もないから勉強を始めるとギリギリの成績で卒業をする事が出来た。

 普通に就職活動をしても見つかる訳もなく、大学のサッカー部の先輩の親の会社で営業兼配送の仕事についた。

 先輩と仲良くさせてもらっていたし、会社が経営難なのは知っており、先輩に貯金全部と借金をした300万円のお金を貸していた。

 お金を貸した2か月目にいきなり知らない人達が会社へ来て、会社が倒産した事実を知った。

 会社と倉庫の差押えが始まり、東京出張中の先輩と先輩の親である社長と連絡がつかなくなった。

 先輩と先輩の両親は夜逃げをして、会う事も話す事も出来ないままで借金が300万円残った。

 仕事がなくなったと同時に借金を返済する当てもなく、親にお金を借りて、返却をした。


 再就職の努力はしたが何の資格もない営業に興味を持つ会社はなく、履歴書を送っても面接すら受けられない日々が続いた。

 貯金もないし、誰にも会いたくないから借りていたアパートから外に出なくなった。

 親は心配で色々とアドバイスをしてくれるが、分かっている事を言われると反論も出来ずに落ち込んでいった。


 そんな時に学校帰りに会いに来たのが隆くんだった。

 自分の両親と一緒に生活をしているからたまに料理を運んでくれ、学校の話を聞かせてくれた。

 隆は歳が離れていたけど、上手く接する事が出来なかった兄の懸け橋もしてくれていた。

 そんな隆を自分の子供の様に可愛がり、友達の様な存在だった。

 居なくなった自分を心配しているのだろうか?

 


 ノートにユウキは火の神と風の神と相性が良く、カナは水の神と相性が良かった。

 元いた世界の戻り方を世話役に聞いて、同じだった事と過去に戻った勇者がいた事が書かれていた。

 新しい内容がなかったが、それでいいと思った。

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