第11話 自動翻訳

 図書館に向かうと入口でシア・レが立っていた。


 今日から日常に必要な会話と文字の勉強をする。

 最初にエベツト語で書かれた子供に読ませる本を渡され、驚いた。

 題名が大文字のアルファベットで書かれており、中の文字も大文字のアルファベットで書かれいる。

 よく知っている英語の綴りが大きく違い、英語はアルファベットが26文字あるのに対して23文字と少ない。

 発音は学校で習った巻き舌もなく、カタカナ読みで発音しても理解される。

 勉強は中学校時代に英語の先生が教えてくれた事と同じ事を習っている。


「ケンゾさん、学習能力が高いですね。

 発音は問題ないですので、文字をいっぱい覚えましょう」


 46歳になっても褒められる事は嬉しかった。

 1年間でコミュニケーションだけは取れる様になりそうな気がして、少し気が楽になっている。


「では、スキルの初歩が書かれた本を持ってきますね。

 ケンゾさんは風の神と相性がいいので、風の神のスキルが書かれた本も持ってきます」


 シア・レは3冊の本を持ってきた。

 1冊目はスキルの基礎が書かれた薄い本を渡してきた。


「スキルの基礎が書かれた本です。

 これがトトス神の事が書かれた本と風の神の事が書かれた本です」


 この本は俺が知りたかった事が書いてあると期待したが表紙の文字から読めない。

 なので、こんな時の為に今日は携帯電話を持ってきている。

 写真に撮れば部屋でも勉強ができるし、ここでノートに書き写す時間がもったいないと思っていた。

 携帯電話をカメラモードにして、本にかざす。


 え、文字が日本語になっている。


 カメラの画面に“スキルの基礎”の文字が現れた。

 次のページを開くとエベツト語が日本語に翻訳されて、携帯電話の画面に映し出されている。


「それ、便利ですね。

 エベツト語が勇者語に変換されています」


 自分の後ろからシア・レが覗き込んでいる。


 動画の撮影モードにして、本のページを1枚1枚撮影した。

 直ぐに終わると、2冊目にトトス神の事に書かれた分厚い本を出してきたがトトス神が与えるスキルの部分だけ動画を撮った。

 3冊目の風の神に書かれた本も同様にスキルの部分だけ動画を撮るとシア・レを見た。


「スキルの基礎から教えて下さい」


「スキルについては同じ事を言うかもしれませんが、順序良く説明させて下さい。


 スキルは“勇者スキル”と“一般スキル”、“レアスキル”の3種類があります。

 勇者だけが持つ“勇者スキル”は記録されていますが、この国の限られた方以外は見る事は出来ません。

  “一般スキル”は神から与えられたスキルで神の神託のみでしか授かる事は出来ません。

 “レアスキル”はダンジョンのアイテムの中に魔導書があり、その本からしかスキルを授かる事はありません。

 “一般スキル”と“レアスキル”は分かっている範囲で各神の書に記載されています。


 スキルは神託を受ける時に文字が光り、クラスアップができる事を知らせます。

 クラスアップすると星が付き、星は5個まで付きます。


 スキルは攻撃系、守備系、身体強化系、回復系、感知系、生産系の6種類に分類されます。

 説明をしなくても分かりますか?」


 なんとなく、スキルの種類はゲームの世界感と同じで分かる気がしている。

 シア・レの説明からスキルにもレベルがある事は分かっているのだろうか?


「スキルにレベルはないのですか?」


「スキルにレベルがあると過去の勇者の記録で読みましたが、この世界の人は身分証の内容以外は分かりません。

 見た事がありませんが7代目の勇者様が書いた伝承書で読みました。」


 伝承書の存在が気になった。

 勇者が書き、後世の勇者の為の本なはずだと思う。

 読みたいけど、今は基礎を学ばないと理解が出来ないかもしれない。


「トトス神について教えて下さい」


 2冊目の本を目の前に出すと最初のページを開く。


「読んでいきますね」


 シア・レはゆっくりとした口調で読み始める。

 この異世界でトトス神が降臨した時の話だったが長かったので、要約します。


“昔、この世界は3種族が個々の大陸を有して、お互いを干渉が少なく、戦争もない平和な世界だった。

 真っ黒な扉が現れ、7人の魔王が降り立つと地下に潜り、洞窟を作った。

 数年後に洞窟から見た事のないモンスターが大量に現れ、人々や村、街を襲った。

 人々は魔王が原因として、ダンジョンにいる魔王を倒したが数年後に魔王は復活した。

 復活すると同時に洞窟からモンスターが溢れ出た。


 その戦い後にトトス神へお祈りを捧げると白い扉が現れ、勇者が降り立った。

 勇者が魔王を倒すと、魔王は復活する事はなかった。

 人々は喜んでトトス神に貢物を捧げ、トトス神を平和の神として崇めた。


 しかし、数年後に再び真っ黒な扉が現れると魔王が出現した。


 その後、魔王と勇者の戦いは長い間で続いたが、魔王も勇者と一緒で定期的に出現するから勇者が魔王を倒しても洞窟は無くならなかった。

 勇者が死んでも、魔王を倒してもまた現れてくるので勇者と魔王はいなくならなずに戦いが繰り返されている。”


 何回か聞いた話だから、驚きもしなかった。

 ここからの話が少し変わっていた。


 この世界の人が洞窟から出る宝石や鉱物を生活の一部に利用する様になると洞窟を“ダンジョン”と呼ぶようになり、ダンジョンからアイテムを取りに行く仕事をする人達を“冒険者”と呼ぶようになった。

 冒険者がダンジョンから色々な物を持ち帰るアイテムで人の生活が発展し、潤っていくとダンジョンが生活の一部となり、魔王の討伐が許可制になった。

 だけど、ダンジョンからモンスターが定期的に大量発生が起こる為に勇者がモンスターの討伐の任務を負う事になり、勇者は貴重な存在ではないけど必要な存在になった。

 勇者は魔王討伐の任務はなく、ダンジョンから発生する大量のモンスターの退治が任務に変わってしまった。


「シア・レさんにお願いがあります。

 【調薬】のスキルを教えて下さい」


「お金の神様のスキルですね。

 薬には【製薬】と【調薬】の2つのスキルが存在していて、薬を作るのが【製薬】のスキルで薬に色々な物を混ぜ合わせるのが【調薬】です。

 なぜ、【調薬】のスキルが知りたいのですか?」


「お金の神様で【調薬】のスキル以外は表示されなかったので、気になっていました」


 嘘を言うつもりもないし、そのまま伝えてみた。


「不思議ですね。

 お金の神は生活に必要なスキルと結びついていて、普通は10個以上のスキルが表示されるはずです。

 【調薬】の製造法が必要なら“製薬ギルド”にあります。

 製薬ギルドは薬に必要な材料や瓶等の販売もしており、所属すると製造法が書かれた購入可能です。

 後、製薬ギルドの証明書がないと薬の販売は行えません。」


 偽物や粗悪品が多いんだろうと思うから、そこら辺はなんとなく理解できる。



 昼食を取る為に食堂へ行くと、ユウキが居た。


「ケンゾウさん、朝は失礼しました。


 ノートを見ました。

 ケンゾウさんの言っている意味が分かりました」


 ユウキの顔が深刻そうなのも分かっている。

 足や腕を失ったり、深い傷を負った場合に元に戻す事が不可能な事を交換日記に書いたから現実が分かったんだと思う。

 これで慎重にこれから進んで欲しい。


「大丈夫だよ。

 カナさんは?」


「ユウミさんとメグミさんの部屋で一緒にいます」


 彼女達の事は嫌いでもないし、情報が伝わる事が嫌ではない。

 しかし、他人の言葉で今後を左右される事と彼女たちの本質を見極めるまでは一緒にいるのだけは避けたいだけだった。

 なので、ここに来ない事を聞いて安心した。


「世間話しましょう。


 勇者スキルは何をもらいましたか?

 自分は【強奪】で奪う事が出来るみたいです」


 ユウキは一瞬無言だった。


「私は【炎龍】で火系魔法の強化補助と炎龍系ブレスの魔法が使えます。

 カナは【神の涙】で勇者現限定の回復魔法です」


 シア・レの言葉を思い出していた。

 もしかしたら、カナのスキルは勇者の身体破損を治す事が出来るのではないかと感じている。

 なので、ユウキと一緒に行動をして欲しいと願う。


「身体強化のスキルだけですが、スキルは使えば使うほど経験値が上がり、強くなるりました。

 図書館で本を使った勉強をしましたが、携帯電話のカメラで撮影したら翻訳されました。

 本を読む時は携帯で撮影をするといいと思います」


「え、翻訳ですか」


 ユウキの方を見ると驚いた顔をしている。


「言語理解を取得した?」


「はい。

 カナと話して、今後の生活の為に言語理解は取得しました」


 普通は【言語理解】を取得する事が正解なのは分かっていたが、疑い深い性格が普通を嫌ったのだろう。


「本が読めると思うから図書館に色々な本があるから行ってみるといいと思う。

 これから武術と魔法の訓練に行ってくる」


 ユウキは勉強も出来そうなので、本を読めば色々と為になるのではないかと思い、付け加えた。

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