第12話 剣と魔法
訓練所に行くとシア・レは白い衣装に胸の一部に鎧を付けた騎士と立っていた。
「近衛騎士団の特級騎士のアセトデスシルエデトです。
彼は風魔法、光魔法が使えます」
一礼して、アセトデスシルエデトに右手を指し出すと不思議そうな顔をしている。
アセトデスシルエデトは右手を左胸に当てて、一礼を返す。
「アセトデスシルエデトです。
し、指導します」
片言で話しかけてくれて、こちらからも話しかけやすいので嬉しかった。
「シア・レさん、シルエデトさんと呼んでもいいですか?
それと特級騎士は多いのですか?」
「呼ぶとすると、ルエデトさんです。
近衛騎士団は7つの騎士団に分かれていて、1つの騎士団に10~12人で構成されております。
全員が特級騎士で団長は聖級騎士です。
会話の取次ぎを行いますので、普通に話して下さい」
シア・レが通訳をしてくれる事は有難いが、敬意を払いたいと考えた。
そして、エベツト語が通じるか話したい。
「ルエデト シト ユグトダデタ(ルエデトさん、よろしくお願いします)」
「ユグトダデタ」
ルエデトは微笑んで、答えてくれる。
日本にいる時は勉強しても話す事がなかったが、この世界では自分の言葉が特殊だから恥ずかしさもない。
ルエデトは壁に置かれている鉄の剣を渡してきて、剣の握り方を見せている。
剣は両手で持つと5㎏の米袋よりも重く感じ、想像していたよりも腕の筋肉が震えている。
ルエデトが自分の剣を抜くと上から下、右から左、左から右に振るのを同じ様に繰り返し振り続ける。
振る度に剣に引っ張られる様に重心が動き、体全体から筋肉から汗がにじみ出ている。
何分間、振ったのだろう。
腕から背中にかけて筋肉が軽い痙攣を起こしている。
剣を上に上げようとした時にルエデトは手を掴んで、シア・レに何か言っている。
「ケンゾさん、剣は重たいですか?」
え、剣は重たくないの?
「はい。
筋肉がぷるぷるしております」
「ぷるぷるって、何ですか?」
シア・レが不思議そうな顔をしているので、知らない言葉もあるんだと思うと嬉しい。
「筋肉が痙攣しています」
シア・レとルエデトは二人で話し合いを始めると、ルエデトは大きな身振りで何かを表現している。
「斧と槍も考えていましたが、止めましょう。
明日は剣を短くした短剣を持ってくるので、それで訓練しましょう。
弓の練習はどうしますか?」
剣をルエデトに渡すと簡単に持ったので、自分が情けない気がする。
「お願いします」
ルエデト入口と反対側に輪になった的を用意し始め、戻ってくると右手に皮の手袋を付けてくれた。
木で出来た弓を右手で引く練習から始まると左手が動く事を注意された。
投射が始まるとルエデトの打つ矢は全部が的の輪の中に通るけど、自分が打つ矢は的の手前で落ち、的を支えている棒の横を矢が通り過ぎる様になると練習は終わった。
「魔法の練習をしましょう」
屋外の魔法練習所に着くとコンビニは壁の近くに移動されていた。
シア・レが右手首に白い石と赤い石の付いたブレスレットを巻く。
「これは冒険者が使う勇者様が開発した道具で赤い石が生命値を示し、白い石が魔力値を示します。
光ると数値が半分になった事を示し、点滅すると2割を切った事を示します。
魔法の練習は点滅が始まったら、終了します」
ステータスの確認が出来ないから勇者は自分の状態の確認を行える道具を作り出したのだろう。
自分で出来ない技術だと考えると代々の勇者は優秀に思える。
「両手をルエデトさんの目の前に出して、目をつぶって下さい」
両手を出して、目をつぶるとその手の上に手を置いた感じがする。
少しするとピリピリと軽い静電気が当たる様な感覚から手が温かくなる。
ルエデトの声がする。
「これで魔力開通を行いました。
風魔法が使えると思います」
シア・レの言葉に目を開けるとルエデトが前に立っている。
ルエデトは輪が付いた的の前に立ち、右手を前に出すと何かを言っている。
白い靄が長細くなり、的へ飛んで行くと輪の中で消える。
初めての魔法に驚きの感情も出てこなく、逆に大掛かりな動作や反応もない事に困っている。
【ウインドアロー】が地味なのか、他の魔法もこうなのか知りたい。
ルエデトは一礼をすると自分を呼び、ルエデトの立っていた場所に行く。
今度は自分が右手を出して、魔法を唱える。
「ウインドアロー」
ルエデトよりも多くの白い靄が集まると回転している事が分かった瞬間に的に向かって飛んで行き、回転している白い靄(風の矢)は的の輪の中に吸い込まれた。
2人から拍手されると少し照れ臭く、一礼をする。
ルエデトは的の代わりに木の人形を置くと叫ぶ。
「エルテ、エルテ」
多分、もう一回という意味だと思うから同じように呪文を唱える。
風の矢は人形に当たり、人形の頭部のヘルメットの様な部分が白く光る。
シア・レの方を見ると軽く頷かれ、魔法を唱えた終わった後に続けて唱えても風の矢は連続して出てきた。
全ての魔法が木の人形に当たっていて、気持ちが良くなっているとブレスレットの白い宝石が点滅している。
「ケンゾさん、ここに来て下さい。
今日はもう一つ勉強の為に魔力回復薬を飲みましょう」
シア・レは5cmくらいある細身の小瓶を渡して、飲む様に指示をしてくる。
それを一気に飲み干すと口の中が酸っぱさと草の青々強い香りで充満している。
飲み干すと白い宝石の点滅がなくなったが、体に変化がないので魔力値が回復している事に気が付かない。
「シア・レさん、これは美味しくないですね」
「そうですか。
生命値の回復薬はもっと美味しくないです。
今度は“ウインドガード”の練習をします」
冷静に美味しくないと言われると、生命値の回復薬はどれくらい美味しくないんだろうと考えただけで口の中に嫌な感じの唾液が溢れている。
「ウインドガード」
魔法を唱えると今度は左腕に白い靄が集まり、小さい盾状になる。
ルエデトは木剣で白い靄の盾を叩くと消えてなくなる。
「これが【ウインドガード】です。
その白い靄の部分へ攻撃された時にダメージの軽減か無効にします。
白い靄の部分以外は普通にダメージの軽減されないので、気を付けて下さい」
【ウインドガード】の練習は1回のみで【ウインドアロー】の練習を再開すると、人形の頭の光る時間が長くなっている事に気が付いた。
そして、再び宝石が点滅すると、魔法の練習を止めになった。
「ケンゾさん、今日の練習はここまでにしましょう。
明日もルエデトさんが指導して頂ける事になっています」
「エストデフリア(ありがとう)」
ルエデトに一礼をすると優しく手を振ってくれている。
「1人で練習は可能ですか?」
帰り道でふと聞いてみた。
「武術と魔法の練習は指導役がいないと行ってはいけません。
城の中なので反逆罪に問われる事があります。
でも、攻撃系の魔法以外は部屋で使用する分には大目に見ます。
部屋には結界が張っているので、害はないでしょう」
シア・レさんは部屋で魔法を使用していた事を知っていたみたいだ。
「分かっていたんですね」
「勉強熱心な方だと思っていたのと注意をしていなかったので止めませんでした。
でも、魔力切れを何回も起こす事はよくないと思います」
魔力切れも分かっていたんだと思うと、どうして分かったのかが気になる。
聞いても魔力切れを止める事を考えていなかったので、質問をしない。
部屋に着き、手首から宝石の付いたブレスレットを外して、シア・レに差し出した。
「それは旅立ちの儀に渡される物の一部です。
ケンゾさんが持っていていて下さい。
宝石が破損した場合は修理を行いますので言って下さい」
ブレスレットは冒険をする為に必要な物だから大切にする意味でマジックポーチに入れた。
「ダンジョンに行く基準はありますか?」
危険な場所なだと分かっていたが、目標が欲しかった。
「最低でも木の人形の光が赤色にならないとダンジョンに行く事を許可できません。
赤色になれば、星1のダンジョンであれば、倒せないモンスターはいなくなります。
魔法はもう少し練習すれば問題はないと思いますが、短剣の扱いは時間がかかると思います。
弓もモンスター大量発生時に有効な攻撃になりますので練習をしておいた方がいいと思いますが、どうしますか?」
漫画では城壁から矢を撃つ場面があるからそういう事なんだと感じている。
「お願いします。
明日の練習ですが魔法から短剣や弓の練習をして、魔法の練習に戻る事でお願いできますか?」
スキルは回数使うとレベルが上がる事は見当が付いているから使用回数を増やす方法で訓練をした方がいい。
シア・レはこの仕組みが分かっていないから自分から要望を出す事が一番いいと思う。
「分かりました。
その様にお話をしておきます。
明日は午前中が図書館で勉強をし、午後から訓練になります。
それと、勇者様が乗ってこられた物は明日の午後に燃やす事が決まりました。
必要な物は持ってきて下さい」
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