第8話 シンディー

 鑑定のスキルが勇者のみの勇者スキルだった事は分かった。

 だとすると、鑑定のない世界は自分がいた世界と一緒なのだろうか?


「何のスキルを取得したか、分かっていますか?」


 シア・レは不思議そうな顔をしている。

 そんなに不思議な質問ではないと思うが、そんな事を聞いた勇者はいなかったのだろう。


「知りません。

 先程も申しましたが、旅立ちの儀に勇者を名簿に記載するまでは分かりません。

 記載は身分証に書かれた内容になりますので、その時に取得したスキルが分かります」


 マジックポーチの中に入れていた身分証を出て、シア・レに見せた。


「これは名前、年齢。

 職業、レベル、スキルです」


 証明書の左上から指を指して、教えてくれたがスキルの部分で指が止まった。


「ケンゾさんの勇者スキルは【強奪】ですね。

 【強盗】のスキルは聞いた事もありません。」


 シア・レは取得したスキルについて、知らないと思ってもいいと感じた。

 話の中で【強奪】のスキルを聞いた事がないと言ったから色々なスキルを知っている事に気付いた。


「スキルは分かっているの?」


「過去の勇者様の勇者スキルは特級者と王族が管理しているので分かりませんが、一般スキルやレアスキルについては図書館で見れます。

 ギルドに報告があった星3以上の冒険者のスキルに限られますが、旅立ちの儀の後に新しいスキルは追加されます。

 最新版は城にある図書館館で見れますが、は持ち出し禁止されております」


 スキルは自分で調べないと分からないと思っていたから大きな進展に思える。

 一般スキルとレアスキルが分かるだけでも時間とスキルポイントを大きくロスする事が減ったが凄く後悔をしている。

 【言語理解】のスキルを持っていないので本が読めないかも…


「シア・レの身分証を見たい。

 レベルと職業、スキルを教えてほしい」


 シア・レは抵抗なく、マジックバックから身分証を取り出した。

 身分証は自分が貰ったカードと同じ銀色をしている。


「先に注意をしておきます。

 私の情報は他人に言ってはいけません。


 この城の中でも世話役以外に身分証は他人へ見せない様にして下さい。

 規則で旅立ちの儀に王族と貴族に証明書の内容が発表されますが、その前に情報が洩れますと貴族が無理やりでも主従関係の契約を結ばせようとしてくる事があります。

 勇者スキルは強力で貴族の中に自分の地位向上の為に利用しようと思う人が多いと思って下さい。


 私のレベルは737、職業は魔法使いです。

 スキルは言語理解★★、魔法理解★、魔力回復★★、ウォーターアロー★★★、ウォーターランス★★、ウォーターウォール★、アシッドレイン、ポイズンミスト、水龍の息★★、生命の水★★です」


 レベル700台に驚いた。

 それよりもスキルに星が付いていて、クラスアップで星が付く意味が分かる。

 それと自分が思ったよりもスキルの数が少なく、このレベルだとスキルはこの倍あってもいい感じがする。


「魔力がなくなると死ぬの?」


「勇者様から聞いた話ですが、魔力がなくなっても死なないみたいです。

 ケンゾさんに似た種族の勇者様が魔力値が1割を切ると倒れると話していました。

 貧血みたいだったと言っていたのを覚えています。

 でも、1割以上回復すると普通に戻りますが少しフラフラしていると話していました。


 勇者やこの世界の人は腕や足がなくなったり、目や耳がつぶれた場合はもとに戻りませんし、死んでしまったら生き返る事がないので気を付けて下さい。

 深い傷を負っても死んでいなければ、薬や魔法で治す事が出来ます。

 勇者様だけは神霊薬でなくなった手や足の再生が可能だと聞いていますが、神霊薬を見た事はありません」


 おかしな事を言っている。

 勇者から聞いたって、ステータスの自体を知らないのか?


「自分の魔力値や生命値の数値は知らないの?」


「過去の勇者様からも聞かれましたが、身分証に書かれたこと以外は分かりません。

 勇者様が見えているボードは見た事がありません。

 大司祭様も見た事がないと言っておりました」


 勇者以外はステータスを見れない事と【鑑定】のスキルが勇者スキルな事は大きな意味があると思う。

 過去の勇者は何を感じ取ったのだろう?


「自分と似た種族の勇者が言っていた事をもっと教えて欲しい」


「もう、35年前くらいに来た勇者様です。

 神の加護を持っている人を知っているか聞かれましたが、勇者様の伝承以外に聞いた事はありません。

 後は金星と神が作った物とか、魔王を倒した時の魔核はどうなるとか聞いていました。

 全部が分からなかったので、そのまま伝えると納得をされていました。

 勇者様が旅立ちの儀を終えてから調べてみましたがどこにも書いてありませんでした」


 過去の勇者も自分のいた世界に戻る事を夢見ていて、色々と調べていたんだと思う。

 “分からない”の回答で納得したって事は自分で調べても分からなかった事が考えられる。


「その勇者はどうなったの?」


「勇者様はこの世界に来て、12年目でダンジョン探索中に亡くなられました。

 あの方は優秀でお優しい方でした」


 もし、生きていたらゲート以外に別な帰る方法が分かったかも知れない。

 勇者は戻る為に生きた12年間に後悔はなかったのだろうか?


「あ、…

 どこにいるか分かりませんが、その時に一緒に来たお友達だと言っていた勇者様は生きております。

 居る場所は私には分かりませんが“シンディー”と言う女性です」


 シンディーを探せば何か知っているかもしれない。

 勇者から冒険の記録を貰っていれば、それが元の世界に戻る糸口になる。

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