第4話 家族

 世話役は後ろに立ったままだった。


「どうしたらいいですか?」


 ユウキは真剣な目をしている。

 今は友好的に見える生活をする事が有効な方法だとしか考えつかない。


「カナさんか怯えているので部屋に行って、ゆっくりしなさい。


 今日は私以外の人との交流を極力避けて、食べ物もあるから部屋から出ない様にしなさい。

 間違っても、世話役に逆らって、問題を起こす事は無駄だと思います」


 カナがユウキの腕を掴んで、顔を覗き込んでいる。

 カナの行動が少し演技がかっている感じがするのが、気になる。

 危険な感じしかしないから高校生達とも距離を取ろう。


「ユウキ、私もそう思う。

 あの人達は怖い」


 カナがユウキの腕を強めに引っ張り、ユウキはカナの顔を覗き込んでいる。


「ケンゾウさんのいう事も分かりますので、今日は部屋にいます。


 カナ、部屋に行こう」


 ユウキとカナが部屋を出ると50歳代の男性が近くに寄ってきた。

 男性から深刻そうな感じはせずに少しニタニタした感じが不気味だった。

 この人はこんな感じで生きてきたんだろう。


「みんなおかしいですよね。

 どう思います。


 この年で戦いをするなんて、無理じゃないですか。

 30分も走れないし、言葉すら分からないんですよ。

 俺は戦わないで行きようと思っているんです。

 世話役に頼んで1年後もお城で働けるように話すつもりです。


 あなたはどうするんですか?」


 戦わないで生きるって、この世界の事も分からないのに何を言っているんだろう。

 それ以上にこの男性に戦わなくてもお金を稼ぐ力があるのだろうか?

 ダンジョンがあるからゲームの世界を考えるとモンスターの討伐が事として考えられる。

 他にも体を使った仕事が多いと思う。


「そうですか。

 自分はまだ考えていません」


「同じ位の歳なんだから仲良くしませんか?」


 男性は嬉しそうに隣の席に近くに座ってくると扉が開き、連れらされた女性が入ってきた。

 自分で歩いて入ってきて、もう1人の女性の横に座る。


 1人で歩いて来ている姿と首輪がされていない事を見て、少し安心した。

 直ぐに立ち上がると、女性の前に座る。


「大丈夫ですか?」


 女性は泣き疲れた顔をしており、2人とも強く手を握っていた。


「コンビニで冷蔵と冷凍の商品を取ってきました。

 この世界の食べ物が最初は食べれないかもしれないので、みんなで分けましょう」


 話を変える事で少しでも落ち着かせたかった。

 ビジネスバックからマジックポーチを取り出して、中に入っている物を机の上に出すと山盛りになった。


 50歳代の男性が歩み寄って来るといち早くお弁当やおにぎりに手をかけた。

 自分の好きな物だけを取ろうとする行動に怒りよりも悲しみを覚えた。


「これしかないのでみんなで平等に分けましょう。

 高校生達には先に渡してあります」


 そういうと女性達は均等になる様にお願いした。

 手際よく、みんなの前に山が4つ出来た。


「さっきは取り乱してすいません。

 まだ、理解が出来ていなくて」


 叫んでいた雰囲気とは真逆の少し震えているが落ち着いた口調で話している。

 初めて冷静な姿を見ると異常行動者ではない思う。


「自分もこの世界の事を理解できていないし、これからなんて考えていません。

 ただ、今できるのは冷静でいる事だと思います。

 1年後にこの城から出され、自分達で生活を行わないといけません。

 その間に出来る事は全てしませんか?


 あと、シェルエティアさんに2人で一緒にいれる様にお願いしておきました。

 2人で力を合わせて下さい。」


 女性達はお互いに見合うとシェルエティアの話を聞いていた女性が頷き、また泣き出す。

 女性の行動に耐えられなくなった男性は分けられた食品と飲み物を持って、部屋を出て行った。

 男性が出ていった事は好都合で、一番恐れていた男性と女性達が団結して、反抗的な言動や行動を起こす可能性が減った。


「今はここのルールで生活をましょう。

 この世界の人間を信用した訳ではないですが、抵抗や反抗は得策ではないと思います」



「帰りたいんです。

 子供が家で待っています。


 子供は小学2年生で私がまだ必要なんです」


 抗議をしていた女性が泣きながら、震える声で話をしている。


「お願いです。

 私も帰してもらえる様にお願いはしてもらえませんか?


 私にも小学2年生の息子と幼稚園の息子がいます。

 母親が必要な時期なんです」


 横に座っている女性もお話をしてくる。

 シェルエティアにお願いしても無駄だと分かっているし、帰る方法がダンジョンにあると聞いてしまったからどうする事も出来ない。

 どこにあるか分からない帰る為のゲートの話をして、彼女達に絶望を与える事はしたくない。


 自分は独身で次男だったからなのか、1人暮らしに憧れて大学から親元を離れていたなのか家族の思いは出てこなかった。

 特に兄が両親と住んでくれているから家に戻らなくても心配はする事がなかった。

 女性達は違い、子供がいる主婦だったんだと気付いた。

 家族がある彼女達を返す方法はあるのだろうか?


「自分も両親がおり、帰りたいと思っています。

 だから、帰る方法を探さないといけないから今は悪い印象は持たれない様にしましょう。

 お願いします」


 “帰りたい”と言った事に罪悪感はなく、彼女達の思いに共感をみせた。

 彼女達の帰れない今後の未来を優先すると悪い印象を持たれる事はさせたくなかった。

 自分は彼女達と違って、妻も子供もいないし、家族を残してきていない。

 元の世界に何も残してきていない事が大きな違いで立ち入れない境界線がそこにある気がした。


 自分は本当に元の世界に帰りたいのだろうか?


 この世界に少し惹かれているのではないか?

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