第3話 左手の印
見たことのない道を歩いているから王広間と反対の方へ進んでいる。
赤い扉の部屋に入ると長い机と丸椅子が並んだ食堂の様な場所でコンビニ店員と50歳代の男性が座っている。
「遅れました」
社会人の挨拶をしたつもりだけど、王広間で抗議をしていたコンビニ店員の女性は髪を激しくいじっているので苛立っている。
なので、扉の近くの空いている席に座ると横へ高校生達が座る様に指示をした。
「これから、受託の議を行ってから説明を行います」
世話役が目の前に皮で模様の書かれた紙状の物が置く。
その模様はアルファベットと図形が組み合わされており、ゲームの中の魔法陣を思わる。
「羊紙の上に手を置いて下さい」
シェルエティアが言うと素直に左手を置く。
ゲームやアニメなら奴隷印か、監視する為の印を手に付ける儀式と感じているが、抵抗すればこの状況を悪くする事はシア・レから聞いていたから従おうと思う。
この場をやり過ごす事しか選択肢がない事も分かっている。
「どうして、こんな事をしなければならないのですか?」
コンビニ店員の女性が先程と同じ様に反論している。
「あなた達の言う事を聞く必要もないし、従うつもりはありません」
その瞬間、彼女の抗議は意味をなさなかった。
後ろに立っている世話役が強制的に手を掴み、羊紙の上に乗せると女性の顔は固まったまま動いていない。
その光景は呼吸を忘れるほどの異様な光景で何に対する恐怖なのか分からない恐怖を感じている。
抗議をしていたコンビニ店員の顔は固まったまま動かず、置き物の様に固まっている。
視線をずらす事さえできず、体中から汗が出ている。
「エスタリシエルトレデスダリア」
シェルエティアがいきなり呟くと羊紙が光り、手の甲が光ると同じ紋様が現れた。
思っていた通りに奴隷印か監視の印を刻まれ、印を見た他の人は叫んでいた。
唯一叫んでいなかったのは自分と抑えらえている女性だけだった。
抗議をした女性は朦朧とした状態で世話役に支えられながら、入ってきた所と別な扉から連れ出された。
カナはユウキの腕を掴んだまま声を押し殺すように泣いている。
「受託の議が終了しました。
ここから今後の流れを説明します」
何事もなかった様にシェルエティアは話している。
シア・レと同様に何十回と他の勇者と会っているから驚きもしない。
首輪をして、管理をした勇者がいたのだからこんな事は経験済みだろう。
「質問はいいですか?」
手を挙げるとシェルエティアは頷いた。
「この印はなんですか?」
左手に刻まれた印をシェルエティアに向けた。
「それは居場所を示す印で強制的に何かをさせる事はないです。
勇者はこの国の宝で魔王の侵略時に戦う義務があります。
なので、居場所の把握は必要となります」
最もな理由である事は分かるが、強制的に印を入れられた事で説得力を感じない。
でも、穏便に過ごす事が最善に決まっている。
「分かりました。
でも、今後は先に説明をして欲しい。
我が世界では信用は大切な物ですから」
「すいませんでした。
でも、私に直接質問をする時は気を付けた方がいい。
あなたは友好的な人と認めいますので、今後は説明をさせて頂きます」
シェルエティアの話し方に威圧感があり、身分の違いを感じさせている。
名前のある貴族だから、力を示していない勇者が対等に話す事を不愉快に思ったのだろうか?
相手が不利益になる質問はこの1年間はシェルエティアにしないでおこう。
「これから1年間はこの城で冒険に必要な事を教えます。
強制でないので習うか、習わないかは自分で決めていいですが、1年後に“旅立ちの儀”を行い、城を出てもらいますので習った方がいいと思います。
旅立ちの儀で冒険に必要な装備とある程度の生活費をお渡ししますので、それで生活を行ってください。
城にいる時の食事や居住空間の提供は行い、他に欲しい物があれば自分で稼いで下さい。
基礎知識は世話役が指導して、魔法や武術に関しては近衛兵団が努めます。
世話役にしたい事を伝えれば、世話役がスケジュールを決めます。
管理を行いますので問題が起きないように世話役と話し合って過ごして下さい。
注意をしておきます。
1年間は城の外で生活をする事は禁止なのと、国家に反逆する行為を行った者に関しては罪を問います。」
シェルエティアがここまで話すとユウキの世話役の男性が変わりに話し始めた。
「食事は1日2回の朝と晩にあり、鐘が鳴ると食事の時間で1時間以内にこの部屋に来て下さい。
1時間以内に食事を配り、食べ終わったらあの位置に置かれた箱の中に食器を入れて下さい。
部屋は1人1部屋で用意をさせて頂いております。
部屋は最低限度の物を用意しており、必要な物があれば商人が城に来た時に購入して下さい。
明日は礼拝堂に行き神託を受けます。
神託を受ける事により、この世界で必要な身分証の作成とスキルの授与が行われます。
身分証がないとこの世界では働く事も出来ないので、絶対に受けてもらいます。
ご理解、頂けましたか?」
この世話役も無表情で淡々と話すから人間味がない。
「あの、何もしなくてもいいのですか?」
50歳代の男性が弱弱しい声で質問をした。
「はい。
勇者様に全てをお任せしておりますが、1年後に自力で生活をして頂きます。
それまでにどう生活するか決めて下さい」
確認したい事があり、時間が決められていると困るので手を挙げた。
「勇者間の交流は可能なのか?
私の世界では食事は3回だったがお昼に食事をする事は可能ですか?」
「勇者間の交流は食事の時以外は基本的に認めていません。
勇者様が集まり、国家の反逆行為を起こされても困りますのでご了承下さい。
昼の食事は携帯食を用意します」
世話役が1人づつに付いたので、思った通りに勇者間の交流は認めていない。
勇者間の交流を禁止している理由は反逆行為以外にないんだろうか?
「俺たちは一緒の部屋で過ごしたい」
ユウキの質問に世話役はシェルエティアを見ている。
勇者間の交流を禁じているので一緒に生活をさせる事は当たり前の様に禁じるつもりだろう。
「友好的な人だと認めて頂いたから、特例を認めて欲しい。
この2人と先ほど出て行った2人は同室でお願いしたい。
この話し合いが終わったら、先ほど出て行った女性と話をさせて下さい」
シェルエティアの変わらない表情が絶対に同室が認めないと感じ、話の中に割って入った。
そして、交渉条件を出した。
女性を説得する事で特例を認めさせ、シェルエティアの特になる事を与える。
「あなたは本当に友好的だ。
それに賢いので特例を認めましょう。
あと2時間位で食事になりますので、それまでの間はここを使う事を許可します。
明日は食事後に礼拝堂で問題なく神託を受けてもらいます」
シェルエティアが嬉しそうな顔で話をし終えるとと部屋から出ていく。
世話役達は礼をして、シェルエティアが出ていく事を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます