第16話 狩人
数日間は朝起きると体力増強の為に屋外魔法訓練所でランニングをして、礼拝堂でステータスの確認を行っている。
ステータスの身体的な数値は変わりがないが、【ウインドアロー】と【強奪】のスキルは順調に経験値が上がっている。
午前中はシア・レと言語学習と本を読んで、午後からはルエデトと武術と魔法の訓練をしている。
変わったところもなく、短剣や弓は木の人形を動かした状態で訓練し始めたが木の人形が逃げ回らずに攻撃をしてくる事にイライラしていた。
攻撃は手で叩かれる程度の痛さだったが、殴られ続けると本当に腹が立った。
避ける事も訓練だと言われるが、木の人形がやたらに強いし、攻撃しても怯まずに攻撃を続けてくる。
それよりも短剣の訓練で攻撃してくる事は仕方がないとしても、弓の訓練でも攻撃をしてくるのはおかしいと思う。
意見っていうか、抗議をしてみたが“ダンジョン内で攻撃してこないモンスターいない”と、無表情のシア・レの一言で撃沈した。
日常生活は簡単な会話もできる様になり、毎日夕食後の皿洗いのバイトで銅貨3枚をもらっている。
モンスターの解体をしていると調理場の女性に言われ、見にいくと内臓が取り除かれた鹿の様な体に小さな角が生えた牛の顔を持つ“ワイルド・カウ”の皮を剥いでいた。
王城専門の狩人がモンスターの解体をしている教えられ、肉が部位ごとに分けられていく工程は手品の様にしか見えない。
解体が終わると狩人に手を振られ、来る様にジェスチャーされた。
木箱に入った皮が付いた足の部分や顔を取り出すと皮の剥ぎ方を教えてくれた。
皮と肉の間にナイフを入れると思った以上に力がいて、力を入れ過ぎるとナイフが皮を突き破ってしまった。
最後に顔の皮を剥ぐと拍手を貰ったから、解体の勉強をしに来たのだと勘違いしていたのだと思う。
後日、シア・レと狩人に会いに行き、シェル族のムス・テデを紹介してもらった。
ムス・デテは王城で食事用の肉と従魔にしたモンスターや訓練用のモンスターの餌を捕っている。
モンスターは地下室にいるらしいが牢獄もあるので立ち入り禁止らしい。
シア・レにルエデトの訓練がない時に狩りに行きたいとお願いをすると許可申請を出した。
シア・レによるとダンジョンよりも狩りの方が安全らしく、狩人の同伴で【ウインドアロー】の使用のみ、星なしのモンスター限定の狩りで了承が下りた。
狩りに行く事よりも城の外へ行く事が嬉しい。
この世界は1週間は10日らしく、週に2日間は休みになる。
今日と明日はルエデトが休みなので、午後から狩りの予定になっている。
狩りに行く森は城から西に歩いて1時間位の所にあり、ムス・デテが狩りをしている南の森の3分の1の大きさもない小さな森になる。
小さな森と言っても、全長が狩りが慣れているムス・デテが歩くと2日はかかるらしい。
森に20種類以上のモンスターが確認されていて、今回は“ビック・マウス”、“コブ・ラビット”、“グリーン・フロック”、“クロック・バード”が星なしのモンスターで狩りの対象となっている。
絵を見せてもらっているがゲームの中のモンスターそのままなので緊張感がない。
ムス・デテが図書館に入ってきて、シア・レと話をしている。
シェル族特有なのか、二人ともあまり表情を変えずに淡々を話している。
「森に行った狩人の報告で異常が見られないので問題がないそうです。
着替えを用意しているので、着替えて行きましょう」
部屋に戻ると2人が一緒に入ってくる。
ムス・デテがマジックバックから麻布を柔らかくした服と皮で出来た靴、皮の鎧を取り出すと渡してくる。
麻布の服と靴を身に付けるとムス・デテが左腕と上半身、両足の順に皮で出来た鎧の付け方を教える。
最後にシア・レが短剣とマジックバックを渡してきて、腰に付けると結構な重量になった。
「この鎧は返すの?」
シア・レはムス・デテに話しているので、確認してくれていると思う。
「鎧はキラーウルフの皮で出来ており、ムス・デテさんが作った物なので差し上げるそうです。
ムス・デテさんは皮の加工と薬草採取も得意ですよ」
胸に手を当ててお辞儀をすると返してきた。
それよりも王城に仕えるだけあって、凄い人ばかりなんだと感心している。
時間があったら、皮の加工と薬草採取も教えてもらいたい。
城下は思っていた以上に整っており、露店がなく、都会感を醸し出している。
通り過ぎる人はドレスに近いワンピースの女性と長袖のシャツにズボン、腰に剣とマジックバックを付けている人が多い。
商店は道具屋と服屋、飲食店が多く、武器を売っているお店は数件しかない様に思う。
その中でも砂糖がついていない揚げドーナツみたいのが売っていて、見ていると“欲しいですか?”と言われた。
城壁の西門を出ると敷物だけが敷いてある露天が並んでいて、モンスターの皮や体の一部、草、鉱石が並んでいる。
「ケンゾさん、ここで物を買わない方がいいです。
ここにある物は街で買い取って貰えなかった粗悪品が多い」
それはもっともだと思う。
森までの道で大きなネズミの“ビック・マウス”と出会ったが、逃げて行くので星なしのモンスターは好戦的ではなく、ほとんどが敵を見ると逃げる事を説明された。
森の入口に見た事のない女神の像があり、ムス・デテが花を供えると一緒にお祈りをしてみる。
女神の像は森の神で身分証を置く場所があるので置いてみると風の神と同じ画面が現れる。
“スキル授与”に触れてもスキル画面が空欄だった。
林道から森へ入ると音がする歩き方だと歩き方から指導されると歩きやすくなった。
ムス・デテがいきなり止まり、手を動かして呼ばれると50m先に10kg以上はある茶色に汚れた白い毛の生き物がいた。
弓を構え、動かないでいると生き物は頭を上げた時にウサギだと分かった。
その瞬間、ムス・デテの弓から矢は放たれて目の後方に刺さるとそのまま倒れる。
ウサギの回収に行くと頭にコブがあり、矢が目の横を貫通していた。
「コブ・ラビットです。
これから森でのルールを教えます。
狩ったモンスターは直ぐにマジックバックに入れて下さい。
血の匂いを嗅いで肉食のモンスターがやって来る事が多いです。
肉食のモンスターは1匹で行動する事はなく、複数で集団行動をしていますのでモンスターが弱くても1人で狩りをしている時は肉食のモンスターから逃げて下さい。
それとコブ・ラビットは皮とコブが売れるので目の少し下を狙う様にして、皮に傷が付かない様にして下さい。
体側に傷を付けると皮は売れなくなりますし、血も多く出るので肉食のモンスターが集まり易くなります。
狙う場所はモンスターで違い、グリーン・フロッグは喉にある鳴き袋と皮は薬の原料で売れるので目の上を狙って下さい。
モンスターによって違うので勉強して下さい」
言っている事に狩人の重みを感じる。
モンスターを倒すだけでなく、少しでもお金にする方法も考えないと趣味で殺しているのと一緒なのかもしれない。
森の中を歩いているとムス・デテは手を上ると動きを止めた。
視線の先にビック・マウスが2匹で餌を食べていて、顔は確認できない。
ムス・デテは右手で腰のナイフを抜き、見える位置で左手の指を立てて動きを止める。
いつでも魔法が打てる用意をしていると1匹が顔を上げ、ムス・デテの指が動いた事を確認すると魔法を唱える。
「ウインドアロー」
風の矢は一瞬でビック・マウスの頭に当たると倒れ、それに気付いたもう1匹が顔を上げると次の風の矢を撃ち込んだ。
2匹のビック・マウスをマジックバックに入れると森の奥へ行かない様に横へ移動する。
数分後にコブ・ラビットが現れ、1時間位で水晶が点滅した。
危険な事もなく終わるとビック・マウスが7匹とコブ・ラビットを11匹がマジックバックに入っている。
魔法を外す事がなく、剣はダメなのに魔法は相性が良さそうで嬉しかった。
城に着くとエベトツ語でお礼を言った。
「ムス・デテさん。
シア・レさん、ありがとうございます。」
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