第15話 イメージ

 コンビニが燃えている光景の横で訓練が始まった。


 昨日と同じ様に【ウインドアロー】の風の矢を木の人形に当てると、ルエデトとシア・レが近寄ってきた。


「もう少し魔力を練った方がいい。

 今のままだと攻撃が100%当たっていない」


 シア・レはルエデトの言っている事を訳しているが分からなかった。


 ルエデトが隣に置いてあった輪が付いている的へ魔法を唱えると、自分の風の矢よりも鋭い風を感じる矢を放った。

 ルエデトは自慢そうにエベツト語と大きなジェスチャーで理論を教えているが大まかにしか伝わらない。

 でも、白い靄を回転させるイメージを持つ事で強くなるらしい。


 イメージ、イメージ。


 白い靄が回転して、より細い矢の様になるイメージ…


「ウインドアロー」


 白い靄は回転を行い、確実に細く集結している。


 “風に巻き込まれて、抑えきれない”


 手の中の白い靄が細くなるにつれ、手を巻き込み始める。

 気を抜いた瞬間に手から線状になった風の矢が大きく城壁の外へ飛んで行った。

 後ろにいたルエデトが拍手をしている。

 説明された原理は当たっていたんだと思うけど予想以上に手が震えて、狙いが定まらない。


「エルテ、エルテ」

 

 ルエデトがもう一回と叫んでいる。


「ウインドアロー」


 また、同じ様に白い靄の回転させると同時に手が大きく引っ張られる。

 ダメだと思った瞬間に右側から的に一直線に伸びたルエデトの手が見える。

 手の中の白い靄の回転が中心に入っていく様に集まると、軽くなり、輪の的へ飛んで行った。


 イメージは2つ必要だった。

 白い靄が回転するイメージと飛んでいくイメージが合わさる事で成り立っているんだ。

 2つのイメージがないと上手くいかない事に気付かされた。


 次からは的の輪の中に飛んでいく様になり、木の人形を打つように言われると風の矢が当たり、頭が赤色に光る。

 そのまま、魔力が2割を切るまで風の矢を撃ち続けた。


 次に昨日の剣の半分の長さの短剣の練習が始まった。

 短剣と言っても、2ℓのペットボトルよりも重く感じる。

 昨日と同じ様に剣を振るのかと思っていたら、力がないので突きを教えてもらっう。

 ひたすら木の人形に剣を突くと昨日の切り付けた時よりも手にくる振動が少ないからやり易い。

 でも、木の人形は白い光しか放たないし、全然揺れもしない。


 それよりもルエデトは後ろでシア・レと話していて、興味がないらしい。


 弓の訓練に移ると的の輪の中に矢を撃ち込む様に指示された。

 昨日は的の高さまで届かなかったが1時間位で的の高さまで届く様になり、3本に1本は入る様になった。

 ルエデトは笑いながら全部打つ様に言うとシア・レと話している。


 弓の訓練の最後にルエデトが3本の矢を持ち、1本を弓に構える次々と早撃ちを見せてきた。

 3本とも的の輪の中を通り、たぶんこれをしないと認められないのだと分かった。


 最後に再び魔法の練習を始めたが、最悪だった。

 ルエデトは木の人形に触れると逃げ回る様に左右に動き出す。

 この木の人形は動くのだった。


「木の人形に魔法を撃って下さい」


 シア・レは普通に言うが動いている物に当てるなんて、無理でしょうと思っているとルエデトが横で魔法を唱える。

 風の矢は木の人形にいない方に飛んでいるが木の人形の距離が残り3分の1位になった時に大きく曲がって、木の人形に当たった。

 矢の軌道はイメージで変えれるって事なのか、木の人形に当たるイメージをしたから当たったのか分からない。

 次に真上に風の矢を放つと大きく曲がり、木の人形に向かっていく。

 風の矢は木の人形の肩の部分に当たった。


 あ、矢の軌道を変えている。

 木の人形に当たるイメージをしているのならば、同じ場所に当たるはずだから、軌道の変化だ。


 軌道を変えるのは難しそうだったから【ウインドアロー】の速度を速く出来るか試したかった。

 イメージを同時に3つする。

 白い靄の回転が一つに纏まっていくイメージ、木の人形へ真っ直ぐ飛んでいくイメージに放ってから瞬間で届くイメージを付け加えた。


「マジックアロー」


 思っていた通りに風の矢は今までよりも3倍以上早く飛び、右脇を掠めて壁に当たった。


 成功だ。


 このイメージを固定させる様に練習すると動いている木の人形に当たる様になった。

 次にスピードは考えずに右曲げや左曲げをしてみると人形の手間や奥を通り過ぎて、距離感がつかめない。

 相手との距離感の把握はどうしているのだろうと聞いたが、説明が感覚的過ぎるので悩むしかなかった。



 食堂へ行くとユウキが食事をしている。

 カナとユウミ、メグミの3人は見当たらない。


「他の人は?」


 ユウキの前に座ると笑っている。


「最後のコンビニのお弁当を食べて、女子会をしていますよ。


 ケンゾウさんは?」


「普通かな。

 残っているパンと総菜をあげようか?

 冷凍食品もあげるよ」


 おにぎりを3個食べただけで他の物は残っている。

 残してあるおにぎりとお弁当は手元に残しておきたかったから包装されている総菜とパンなら渡しても問題がないと思う。

 冷凍食品も温め方が分からないから手付かずのまま腐るのはもったいないので渡してもいいと思う。


「カナが喜びます。

 ここの料理が口に合わないらしくて…


 訓練は順調ですか?」


 訓練の話が出たから問題があったのだろうか?


「順調じゃないよ。

 剣が重過ぎるから振れなくて、短剣で訓練をしている。


 ユウキは?」


 少し半笑いになって、小さなため息を付いた。


「剣でしています。

 なかなか辛いですよね。


 カナは色々と試していますが、武器を持って戦うのは無理かな。

 力がないから…」


 カナは身体が細く、体育会系でないから戦いに向いていない事は分かっていたが、自分の身ぐらい守れる様にならないと今後の生活も辛くなるかなと思う。


「これからどうするつもりですか?」


「お金を稼いでおきたいのでダンジョンを目指します。

 近くに練習用のダンジョンがあるらしく、宝石以外はもらえると話してました。

 あと、城に商人が来るので買取も大丈夫です」


 驚いた顔をしている。

 何も知らないと思うと、シア・レは優秀な世話役なんだなって思う。


「お金は必要ですか?」


 ユウキが少し悩んでいる様子に見える。


「城を出されると部屋を借りるとしてもいくらか分からないから金貨50枚でどれくらい生活できるか心配でね。

 手っ取り早く稼ぐ方法はダンジョンみたいだから、早めに慣れておいた方がいいと思っています」


「カナがな…」


 より深く悩んでいる様に見える。


「焦る事はないよ。

 今は1つ1つ考えていこう」

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