第6話 神託の儀

 異世界に来て、2日目になった。

 木の窓の隙間から朝日が漏れる光が見慣れない部屋を浮かび上がらせ、夢でない事を教えている。

 窓を開けるとレンガの壁と床しか見えず、鳥の声さえしない。

 そんな中で普通に寝れた自分が不思議でしょうがない。


 ベットの上で昨日の事を書いた自分用のノートを見返していると鐘の音がしたから部屋を出るとシア・レが立っている。

 踏み込んだ話も出来ずに食堂へ行くと、ユウキとカナが席に座って待っていた。

 メニューは野菜や肉が変わっただけで同じ様な料理が並んでいて、皿に取ってもらうとユウキとカナの正面に座る。

 昨日の晩に元の世界の戻り方と1年後の旅立ちの儀式に関する事を書いた交換ノートを渡すと2人は直ぐに内容を確認している。

 ユウキよりもカナの方が真剣に見ている。


「ケンゾウさん、ここに書かれている事は事実ですか?」


 先に口を開いたのはユウキだった。


「きっと、真実だと思う。

 これから情報を集めて、確認を行うつもりです」


 カナの顔が曇った。

 帰る為にダンジョンに入る事が絶対条件であり、ダンジョンに入っても帰る為のゲートがあるとは限らない。

 ダンジョン自体がどんな物か分かっていないが、武術や魔法の訓練があるくらいだからモンスターとの戦闘を理解したのだろうか。

 理解できたなら、不安から希望が揺らぐ事がない様に望んだ。

 46歳のオヤジなら2、3年やってみてダメならあきらめる事もできるが、高校生なら60年間以上の異世界生活は辛す過ぎるだろう。


「別な戻り方があるかもしれないから根気強く探しましょう」


 ユウキはカナの顔を覗き込むように見ると背中を摩った。

 ユウキとカナを見ると1人で過ごしてきた自分を否定したくなる気持ちで押し潰されそうになっている。

 それからはユウキとカナの身の上話を聞きながら食事を進めた。



 食堂に人が居なくなるとシェルエティアが入ってきて、礼拝堂へ移動した。

 礼拝堂に女性2人組が来ており、女神像の前にいる。

 昨日とは違い、素直に従っている様に見える。


「神託の儀を始めます。

 魔銀のカードをお渡しますので、それを平和の神トトス神の神伝台に乗せて、祈って下さい。」


 シェルエティアが3人にカードを渡すとユウキの横に立った。

 ユウキとカナの顔を見ると不安そうに見え、ここは先に行くべきだと感じると足が動いた。


「先に行くね」


 目の前にある三叉の槍を持った女性の像の前に立つとシア・レは右横に立った。

 像の前にカードの大きさと同じ窪みのある台が神伝台だと分かり、カードを置いてみる。


「お祈りの形はおまかせします。

 自分の名前を神にお伝え下さい」


 シア・レが言うとおりに目の前で手を合わせた。


“木田賢三です。

よろしくお願いします。”


心の中で唱えると空中にゲームでよく見る画面が出てきた。


【木田賢三 46歳 地球

  職業:勇者 レベル:1

 生命値 96  魔力値 92

 基礎攻撃力 61 基礎防御力 33

 筋力 37

 耐久力 21

 俊敏力 24

 知力 48

 集中力 48

 経験値 0 スキルポイント 220

 スキル 強奪 0/0p】


 画面にステータスが表示されている事が分かり、指で触れてみると画面上で止まる。

 指を離すとステータス画面の左側に違う小さな画面が出た。


【書き込み

 レベルアップ

 スキル授与

 クラスアップ

 貢ぐ】


 【書き込み】を押すと小さな画面が消えて、カードが優しい光で包まれる。

 カードを持ち上げるとステータス画面が消え、カードにアルファベットの大文字と似た文字が並んでいた。


「ケンゾさん、置いていないと神託が消えます」


 シア・レの声で急いでカードを戻すとステータス画面が出てきて、ステータス画面から小さな画面を出しすと違う項目に触れてみる。


 【レベルアップ】を押すと“必要経験値100p不足”と、小さな画面に変わり、消えた。


 【スキル授与】を押すと別な小さな画面に変わった。


【言語理解 50p

 身体強化 5p

 魔力回復 5p】


 言語理解は50pか…

 220pのスキルポイントが高い数値なのか分からないし、ゲームあるあるの大量スキルポイントを使うと必要になった時にスキルポイントがない事を考えて止める事にする。

 ここは何かスキルを取って、仕組みを調べないといけないので【身体強化】の項目を押す。

 “1分間の身体能力を5%上昇 はい/いいえ”と書かれた画面に変わり、“はい”を押すと画面が消える。

 【魔力回復】は“5分間、魔力回復速度を10%上昇 はい/いいえ”と書かれていたので、このスキルも取得する。


 【クラスアップ】を押すと“未達成”の画面に変わり、消えた。


 【貢ぐ】を押すと“貢ぎ物がありません”の画面に変わり、消えた。


 ステータス画面を確認すると【スキルポイント 210】になって、10pの減少が確認できた。

 【スキル 強奪 0/0p:身体強化 0/0p:魔力回復 0/0p】となっており、今取得したスキルが追加されていた。


「身体強化」


 小さな声で呟くとステータス画面に変化があり、身体的に変化は感じられい。

 でも、魔力値が92→87になっていて、5pが消費されている。

 持久力の数字の後ろに+3上の数字が付いて、【身体強化 0/1p】に変化している。

 ゲームの世界を考えるとスキルや魔法は使うと経験値が上がり、レベルアップするはずだ。


 興味があった【強奪】を押すと“奪うスキル”の説明文が出てきただけだったので、どんなスキルなのか分からなかった。


 次に火の神に移動して、カードを台に置くと小さな画面だけが現れた。


【スキル授与

 クラスアップ

 貢ぐ】


 【スキル授与】を押すと“ファイヤーアロー 5p”の表示に変わり、文字が光っていないから適正でない事が分かる。

 【クラスアップ】と【貢ぐ】はトトス神と一緒で小さな画面が出ると消えた。

 水の神と光の神も文字が光っておらず、風の神は“ウインドアロー 3p”と“ウインドガード 6p”が2つとも文字が光っていたので出ていた取得した。

 お金の神は“調薬 30p”の文字が現れて、光っていた。

 “調薬”に触れると、“効能を付加したり、高めたりできる”と表示された。

 何が作れるか分からないし、スキルポイントは大切にしたいから保留にする。

 必要そうなら旅立ちの儀までに取得すればいいしね。

 それにしても風の神に相性がいいのは分かったが、お金の神とも相性がいいのか微妙だな。


 この城の人に聞いても本当の事を話してくれているのだろうか?

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