第344話
「私の目的は神であっても止められない。ではさらばだ」
ラデルは自身の背後に
「無駄だ」
しかし神々の魔法も聖剣の輝きもラデルが指を鳴らすだけで消えてしまった。
「「何?!」」
「魔王は魔神より1つの強大な力を与えられている。お前たち神々もそれは同じ。だが今の私はほぼ全ての魔王の力を持っている。貴様らが束になって掛かれば苦戦するだろうがたった3人の神如きで私を止める事は出来んよ……〈毒撃の飛礫〉」
ラデルの腕は紫色の筒のような形状に変化する。まるでアルルの力を見ているようだった。そしてそこから緑色の先端が尖った石が高速で射出された。
「私が調合した毒だ。神でも対処を誤れば死ぬぞ?」
その石は知恵の神目掛けて向かっていく。知恵の神は魔法で防壁を作り防ごうとする。
「魔法は使えんぞ?」
しかし知恵の神が展開した防壁はバラバラになって砕けた。ラデルが認識した魔法は全て破壊されてしまう。知恵の神に毒の飛礫が命中しようとした時だった。剣の神の聖剣が間に入り込み毒の飛礫を真上に弾き飛ばした。
「ほぉ……見事だ。これで私はさらに上位の存在へと生まれ変わる。では数百年後にまた会おう……次は貴様ら含め全ての世界を終焉に導こう」
そう言い残しラデルは
「待て!!」
炎の神が叫ぶが既に遅い。ラデルはその場から完全に消えてしまった。
「この世界のどこにも気配を感じない……魔界へ帰ったのか?」
「クソ……私としたことが魔法で不覚を取るなど……」
神々が何やら話し始める。そんな時、天空の王城の扉から大きな何かが壊れる音が響く。そして重厚な両扉が完全に開いた。
「少し遅かったですね」
知恵の神が見上げるとそこから天使たちが飛び出して来た。さらに続けて5人の強大な魔力を持つ者たちも歩み出て来た。
その5人は周囲の状況を確認し、すぐにレインたちがいる防壁の上まで舞い降りてくる。
「遅れました……魔王の気配を感じませんが……何が起きましたか?」
1番最初に舞い降りてきた水色の髪を持つ女性が知恵の神に問いかける。
「メルクーア……魔王は全て討伐されました。しかし少々厄介な事が……」
と、神たちが小さな声で話し始める。自分たちが結局助かったのかそいでないのか判断が付かない人類はただその神の相談を見守る。しかしレインは違った。
「アルル姉さん!」
「…………お姉ちゃんだと何度言ったら…………今姉さんって呼んでくれたね」
アルティに膝枕されるように仰向けで倒れたアルルにレインは駆け寄る。ラデルに何か黒い球を破壊されていた。知性のないレインだってそれが破壊されてはいけない物だと理解している。
「アルティ!回復魔法とか使えないのか?!俺の魔力も全部使ってくれていい!」
しかしアルティは何も言わない。ただ悲しそうな表情を浮かべてアルルの頭を撫でている。
「レイン……私はもうダメなんだよ。魔王なんて呼ばれてたけど、そうなる前はただのスライムだった。身体の中にある核が破壊されたらそれで終わり。1番弱い雑魚だったけど……アルスお姉さまが助けてくれて……それで鍛えて鍛えて6人目の魔王になれた。でも核が壊されたら死ぬのは変わらない……今話せてるのは魔王だから」
「………………嘘だろ」
「そんな悲しそうな顔しないで……短い間だったけど……本当に弟が出来たみたいで楽しかったよ」
「………………………………」
俯き何も話せなくなってしまったレインの頭をアルルは優しく撫でる。
「レインはカッコいいんだから髪型もちゃんとしないとね?そんなボサボサだとダサいよ?戦ってる時もオシャレには気を使わないと」
「………………………なあ」
「ん?」
「アルルはまだ生きてるんだよな?」
「え?なに?早く死ねってこと?道連れにされたいの?」
アルルは撫でていたレインの頭を鷲掴みにする。ただもう手の形を変化することも出来ないし、力も弱くなっているのか痛くもない。
「違う!違うよ!……もう死ぬしかないのなら俺がトドメを刺してやる。そうすればこのまま死ぬなんて事にはならないよな?アルルは強いんだから意思だって残るだろ?」
「レイン……何を言ってるの?」
「レイン、アンタまさかアルルを傀儡にしようっての?」
「傀儡の条件は俺の手で殺すことだ。アルルは核を破壊されてもう死ぬしかないんだろ?でもまだ生きている。だったら俺が殺して傀儡にすればずっと一緒にいられるだろ?」
「………………そうか、ならアンタの好きにしな」
「アルル姉さん……いいか?」
「うん、いいよ……じゃあ分かりやすく弱点でも作ろうかな…………これを破壊したら私は完全に死ぬよ」
アルルは空いているもう片方の手から黒い光の球を創り出した。
「魔力を集めて核を簡単に作ってみた。やるなら早くしてね?そう何時間も生きてはいられないから」
「分かった」
レインは短剣を召喚して構える。もう躊躇する必要はない。アルルを助けられる可能性があるとすればこの方法しかない。
しかし……。
「それを認めるわけにはいかない」
剣の神の聖剣がレインの首元へ向けられた。他の神々も話し合いをやめ、こちらを見ていた。
「…………なんでだ?アルルはもう魔王じゃない。お前らにとやかく言われる筋合いはない」
「そこではない。我々が危惧しているのは貴殿1人の力があまりにも大きくなりすぎる事だ。そこの元魔王はこれまでの貴殿の行いに対する褒美として見逃すが……現魔王だった者を不死の傀儡にする事は許さぬ」
レインは剣の神を睨め付けた。本来ならアルティも殺すが、レインの行動に免じて許してやると言っている。
あの時、特殊ダンジョンで接触してきた天使たちと言っている事が違う。
つまり利用するだけ利用して魔王たちを討伐した後は自分たちの命に手が届きそうな力を持つ者は消しておきたい……そういう考えなのだろう。
「…………レイン、やめときなよ?……残念だけど、私が全盛期の頃だったとしても集結した万全の八大神とその兵士全軍は相手に出来ない。一瞬で殺されてしまう」
と流石のアルティもこの状態では戦う選択肢は取れないようだ。
「…………私の事はいいから……レインは自分のことを考えてね」
アルルも消え入りそうな声で話す。もう諦めてしまったような口調だ。でもレインは諦めきれなかった。足りない頭で必死に考えた。
"その時は――を呼ぶように!"
どこかで聞いた声を思い出す。戦いに必死で忘れていた。あの場所であの人に言われたことを。
"すごいね……まさか私の想像を超えるなんて驚きだよ。…………自分でも意外って顔してるね……やはり人間は面白いなぁ!もっと早く気付くべきだったよ。
え?早く帰りたいって?まあまあ待ちなさいよ。レインに追加のご褒美を上げないとね!私をここまで楽しませてくれたささやかなお礼だ。……なに!遠慮する事はないぞ!
簡単に説明しようかな……いいかい?この力は生涯で一度しか使えない。だから使う時は慎重にね?
もし自分がどう頑張っても、周りの誰の力を借りてもどうしようもないくらいの理不尽に襲われ、それでもどうしてもレインが譲れないのならこの力を使うんだ。その時だけは世界の全てがレインの思い通りになるよ。その力が必要になった時はこう言いなさい"
レインは立ち上がった。剣の神もそれに合わせて聖剣の切先を持ち上げる。他の神々も自身に魔力を込め始めた。上空で待機していた天使たちも武器を構える。まさかに一触即発の状態だった。
そのような状況でレインは一言だけ呟いた。
「…………〈魔神さん降臨〉」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます