第342話





◇◇◇



「……来た」


 防壁の上で魔王たちの攻撃の余波から街を守っていたエリスがポツリと呟いた。その言葉にエリスを護衛していた覚醒者たちは疑問の表情を浮かべる。


「エリスちゃん……どうしたの?」


 横にいたオルガが問いかける。エリスの周囲にいる者たちのほとんどがエリスの言葉の意味を理解出来ていない。理解出来ているのはルーデリアくらいだろう。


「来た……来たよ!やっと来た!」


「何が来たの?」


「あれ!」


 エリスは空を指差した。その方向を全員が見上げた。



◇◇◇



「………………何故だ」


 ノクタニスが自身の周囲と空を覆うように展開した炎の塊が全て両断された。アルティよりも速く、強く、鋭い剣撃だった。


 ノクタニスは自身の炎を斬り裂いた者を知っているようだった。そして何故その者がここにいるのか理解出来ていなかった。


「貴殿が新たな支配の魔王レイン・エタニア殿で間違いないか?」


 そしてレインの背後を取るような形で純白の翼を持つ全身鎧の聖騎士が浮遊していた。


 "レイン……もう大丈夫だ。身体も返すからね。また身体を作るのに少し時間がかかるからそれまではレインの中で見てるからね"

 

「…………おお…戻った……で、あーそうだけど?俺がレインだ」


 アルティがレインに身体を返したことで浮遊魔法の効果が切れる。その前にレインは盾を足場代わりに召喚する。


「そうか……私は剣の神エスパーダ…貴殿と貴殿の妹君のおかげで予想よりも早く扉を開ける事が出来た……礼を言う。そして魔王の中で最も厄介な煉獄の魔王をここまで弱らせてくれたことに関しても感謝しよう。あとは我々に任せてほしい」


 聖騎士風の天使は持っていた剣を鞘に収め、深く頭を下げる。ノクタニスを目の前にしてこの行動。それはノクタニスのプライドを一気に沸騰させた。


「弱らせただと?!剣の神如きがいい気になるな!!貴様のその鎧と聖剣も俺の炎で焼き尽くしてくれる!!」


 ノクタニスは剣の神エスパーダと名乗っていた聖騎士に向かって最大級の炎の息吹ブレスを放った。しかしその炎の息吹ブレスは操られるように右側へと方向を変える。


「何?!」


 その炎の先には別の男がいた。赤く燃える髪を持つ青年がニヤリと笑いながら浮遊していた。その青年がノクタニスが放った炎を奪い取った。


「やっぱりお前の炎には芸術性のかけらもないな。もうお前の炎は、この炎の神イグニスには通用しない。数千年前の大戦の時のように配下を盾にして逃げる事も出来ないぞ?さっさと諦めた方がいいんじゃない?」


「貴様ら如き!俺の敵ではない!!」


 ノクタニスの全身から噴き出す炎の色が黒く変わる。アルルでさえ焼いた漆黒の炎だ。ノクタニスを中心に黒い炎が大地を侵食していく。


「君がレインだね……俺の後ろにいなよ?炎からなら守ってあげられる。君たち人間だけで本当に良くやったよ。でももう大丈夫だ。ここからは俺たち神軍が代わるからね」


 炎の神イグニスは空へ手を掲げた。すると空全体を金色の光が覆う。そしてテルセロの中央上空に浮遊していた巨大な王城の扉がゆっくり開いているのが確認出来た。


 その扉の隙間から白銀の全身鎧を着用し、剣や槍を持った天使たちが一斉に飛び出してきた。そしてその天使たちは全方向へと群れを成して飛んでいく。


「そうか……神の軍勢が到着したのか……」


 "アルティが倒すもんだとばかりと思ってたよ"


 "別にそれでもいいけど……時間かかるだろうし、被害もとんでもないことになりそうだからね。今はここに人類の主戦力が集中しちゃってる。もう天使たちが向かったから何とかなるだろうけど前線は大変だと思うよ?魔王たちよりも会話も通じない襲う事しか脳のない連中の方が何倍も厄介だ"


「そうだ……我々が神の世界とこの世界の断絶した鍵を破壊する間、貴殿の妹君が反対側からも同じ事をしてくれていた。さらに君とあの煉獄の魔王がぶつかり合う事で起きた膨大な魔力の波がその鍵へ大きな負荷を掛けたのだ」


「だけどまだ完全には扉は開いていないんだよ。でも神3人と天使たちくらいなら通れるくらいの隙間は空いた。だから最も戦闘に長けている剣の神と炎の神がここに来た。他の神もすぐに駆けつけるよ」


 剣の神と炎の神はレインの疑問に全て答えてくれる。目の前に怒りで身を震わせるノクタニスがいるのにも関わらずだ。


「俺の前で呑気にお喋りだと!その余裕がいつまで続くのか見ものだ!!」


 ノクタニスは口に黒い炎を集める。さらに翼の先にも同様に黒い炎の塊を複数展開した。


「剣の神頼むよ?」


「分かっている」


 その言葉を残し剣の神は聖剣を鞘から引き抜いた。そして空中を駆けるようにノクタニスへ突撃していった。


「お前……じゃない神様は行かなくていいのか?……行かなくていいんですか?」


「無理しなくていいよ。俺の役目は君を守る事だ。同じ炎を操る者同士の戦いはお互いの炎を吸収し合ってるだけで不毛だからね」


「そう?であと1人は誰が来たんだ?今3人の神が来たって言ってなかったか?」


「私ですよ、支配の魔王」


 また背後から声を掛けられた。神々は一旦人の背後を取らないといけないようだ。振り返るとそこにはメガネをかけた女性が浮遊している。


「こんにちは……支配の魔王、私は知恵の神サージェス…………やはり貴方からは知性の欠片も感じませんね。妹さんの方がよっぽど優秀です」


「……神の中に敵混じってません?」

 


 


 

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