第341話
◇◇◇
「オラァ!」
アルティは回転しながらノクタニスの首から胴体へ掛けて斬り下ろす。アルティが1回斬るたびに巨大な火花が舞い上がる。
「クソ……硬いな」
アルティの斬撃はまともに命中したはずだが、ノクタニスは怯みもしない。
「今の私は魔力で身体を強化している。お前の攻撃は私にはもう効かん」
ノクタニスは再度口を大きく開けて炎を吐き出そうとする。しかし今度は放つ前にアルティの大剣がノクタニスの頭部に命中する。転移を連続で使用し、狙いを定めさせないように動き回ってから一気に接近する。
「これでもダメか。さっきからこれで沈んだんだがな」
大剣による斬撃でもノクタニスの攻撃を止める事すら出来ない。ノクタニスは口に炎を溜めながら頭を大きく横に振った。
触れるだけで皮膚が焼けるほどの高温を放つノクタニスはその動きだけで周囲を攻撃できる。アルティは何度も転移を用いて回避する。この間も徐々に防壁から遠ざかっていて、街からノクタニスを引き離そうとしていた。
「そういつまでも逃げられると思うなよ?」
ノクタニスはアルティへ向けて
ノクタニスの炎は大地を削り飛ばしながらアルティへと向かう。
「そればっかりだな……攻撃と防御に全てを置いてるから速度がいまいちだな」
アルティは容易く回避する。しかしその炎は大地を焼き、その奥に聳えていた知恵の国サージェス山脈の一部を消し飛ばした。人がいなくなり、もぬけの殻となった街や村も多くが巻き込まれただろう。
アルティは再度転移を使い、ノクタニスの頭部に接近する。そして次は槍をノクタニスの巨大な眼球目掛けて投擲した。全身が強靭な鱗で覆われているノクタニスも眼球までは無防備なはずだ。そこをアルティは狙った。
しかしノクタニスはすぐに目を閉じる。そこに命中した槍は弾かれてしまった。
「小癪な真似を……」
「目を閉じてくれれば何でも良かったんだよ」
アルティはノクタニスの頭部に着地する。しかしすぐに靴の裏から煙が出てくる。このままではすぐに火がつき全身が燃え上がるだらう。
「とりあえず冷やしてやるよ。〈
アルティの足元から黒く光る氷が一斉に全方位に溢れ出した。その氷は勢いよくノクタニスの頭部を包み込み、さらに身体や巨大な翼にも到達する。
ノクタニスが放っていた熱により上昇していた周囲の気温はアルティが放った氷の魔法により低下していく。
「ん?」
アルティはノクタニスを氷漬けにしながら別の事に気付いた。まだアルティの氷が到達していないはずの尻尾の方が少しずつ凍結していた。
「オディウムは完全に死んだか……まあ魔法無効化の能力がなければちょっと強くて頑丈なだけの魔道士だからな。
アルルももう終わってるね。あとは……コイツだけだ。コイツさえ殺せば終わりだ。このまま全身凍らせて粉々に砕いて……」
アルティや氷系統の魔法が使える覚醒者たちはさらに多くの魔力を込めてノクタニスを氷漬けにしようとする。
しかしノクタニスの身体の半分くらいが氷に覆われた所で氷の拡大が止まった。そしてノクタニスの全身から白い煙が上がる。
「やっぱり無理か」
「その程度の攻撃で私を止められると思うな!!」
ノクタニスは叫び周囲に炎を撒き散らかす。氷の魔法で援護していた覚醒者たちもその炎の熱にやられて撤退せざるを得ない。アルティが作り出した黒い氷も溶かされる。そしてノクタニスが顔を出した瞬間に
アルティはこれも転移して回避する。魔法が使えないはずのレインの身体で魔法を連発している。
"本当に……大丈夫なのか?"
「アンタ……私を疑ってるね?」
"そういうわけじゃないけど……やっぱりただ見てるだけなんて……"
「これでいいんだよ。アイツの炎は全てアイツの魔力を消費して作られているんだ」
「ちょこまかと逃げるな!!」
ノクタニスは口に炎を溜めながら翼の先にも複数の炎の塊を召喚する。一つ一つがかなり巨大な炎の塊だ。あれが一つでも街に落ちれば簡単に消し飛ぶ熱量だ。
ノクタニスは浮遊しているアルティの位置を確認して空へ向けて一斉に発射した。複数の炎の塊の速度はその大きさからは想像できない速度でアルティへと向かっていく。
「鬱陶しいな」
目の前に迫る炎に対してアルティは転移を使おうとしない。複数の刀剣を操り、自身の前方に展開する。
"アルティ!転移で避けないと!"
「これは
アルティは刀剣を操り、巨大な炎の塊を一度にすべて両断した。両断された炎は消えていったが、その直後にノクタニスの
回避できないタイミングを狙ったノクタニスの
「このまま焼き殺してくれる!!」
ノクタニスは口から吐き出しながら先程よりもさらに多くの炎を翼の先に展開する。そして今度は翼の先だけでなく空から地上へ向けて降り注ぐような形で炎の塊を召喚した。
転移すれば回避することはできる。ただこれだけの数の炎が地上に落ちれば街だけじゃなくここら一帯に避難してきた人々もすべて死んでしまう。
"おい……アルティ……"
「大丈夫だ……エリスのおかげで思ったより早かったな。言ったろ?強敵は倒せる奴が倒せばいい。命を賭けてギリギリ勝てるか勝てないかみたいな勝負は好きじゃないしあんな奴にやる価値はないんだよ」
アルティは召喚していた武器を消した。そして浮遊は続けるが身体の力を抜いて楽な姿勢をとる。
その光景にノクタニスは動きを止める。ノクタニスは自身の目の前で起きている光景に理解が追いつかない。
「諦めがついたのか?ならばそのままでいろ。一瞬で消し炭に……」
パリン――小さなガラスが割れる音が戦場に響いた。その音が聞こえた者はどれほどいるだろうか。その音を聞けた者たちだけが今している行動を止めた。
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