第340話
"おい!アルティ!今のどういう意味だ!"
「うるっさいなぁ!別にそんな大袈裟な事じゃないよ。私たちなら大丈夫なんだから黙って見ててくれ!」
"いやそういう訳にはいかないだろ!"
「アルス……お前その魔術がどれだけ危険な物か知らないのか?肉体を捨てて精神だけとなり他者に乗り移るのは魔王や神であっても一つ間違えば容易に死ぬぞ」
ノクタニスはさっきまでと打って変わって冷静さを残した口調で話す。ただ眉間のシワは深いままだから怒っている事に変わりはない。ノクタニスにとって危険極まりない行為をしているアルティを憐んでいるようにも見えた。
「アルス……今からでも遅くはない。俺の手を取れ……こちら側へ戻ってこい」
"いいかいレイン?確かに私がやったのは危ない行為だ。今のレインには1つの身体に2つの精神が入り込んでる状態だ。これはまずあり得ない事なんだよ"
"そうなのか?"
「……何を迷う必要がある?お前は俺の手を取るだけでいい。これまでの罪を全て許そう」
"もう1つの精神を受け入れる側に僅かでも疑念があれば弾かれる。入り込んだとしても、相手の心境に悪い変化があれば同じく弾かれる。
そして肉体を持たない精神だけの存在は神だろうが、魔王だろうがガラス玉のようにかなり脆いんだ。簡単な攻撃で傷付き、死んでしまう"
"でも俺はアルティに対して疑いなんか持たないぞ?"
"だから私たちは大丈夫なんだよ。レインは私を疑わないし、私もレインを信頼してる。だからこの禁忌の魔術を簡単に扱えるんだ。これまでは反動も大きかったけど、今のレインなら反動も少なく済むと思う"
「…………我々に争う理由はない。我々の真の敵は人間ではない、神々とその軍勢だ。邪魔となる人間と裏切り者であるお前を先に倒し、ここで神々を迎え討つつもりだったが気が変わった」
"ならいいけど。というかさっきからそこの魔王がずっと何か話してるぞ?"
ノクタニスが何か話している事は気付いていた。しかしアルティが真剣に話しているのもあってほとんど聞いていなかった。アルティに関しては言うまでもない。
「…………あ?」
レインの言葉を受けてようやくアルティもノクタニスの方を見た。
「アルス……貴様の衰える事を知らぬ魔法の才は神々を滅ぼす為に使われるべきだ。私とお前がいれば神々の殲滅など容易く出来るだろう。
私の手を掴め。私と共に来い。お前が望むのなら人間への被害も最小限となるよう考慮しよう。我が兵士たちの攻撃もやめさせよう。
神々の軍勢を殲滅したなら大人しく魔界へ帰ろう。人間たちにも手を出さないと誓ってもいい。こちら側へ来い。我々魔の者と人間たちの平和のためだ」
"…………何言ってんだ?"
ノクタニスは笑みを浮かべて手を差し出した。貼り付けた仮面のような薄気味悪い笑みを浮かべている。
今まで述べていた言葉の全てが嘘で、人間のことなど微塵も考えていないとレインでも理解できる。レインの目の前にいる魔王ノクタニスの望みは神をの滅ぼす事だけで、それに伴う犠牲の事など全く考えていない。
「は?キモすぎるだろ。お前の手なんか誰が握るかよ。寝言は死んでから言えよ。マジで死ねよ、トカゲ野郎が……丸焼きにして捨ててやろうか」
アルティはノクタニスの手を全力で叩いた。パァンッ!――という音が空気の振動と共に周囲に響き渡る。人間が同じように叩かれたら腕ごと飛んでいっただろう。
「…………そうか…せめてもの情けだったが、お前がそのつもりなら覚悟しろ。もう話す必要もなッ」
ノクタニスが言い切る前だった。アルティの拳がノクタニスの顔面に命中する。まだ会話の途中だったが、アルティには関係ない。殴りやすそうだったから殴っただけだ。
だがノクタニスの様子がおかしい。これまでなら吹っ飛んだだろうし、かなりのダメージも与えられたはずだった。しかし今は違う。アルティの拳を顔面で受け止めるようにその場に留まっている。
「もういい……神は俺だけで殲滅する。他の魔王など必要ない。お前も人類も裏切り者も魔王に値しない者も全て焼き尽くしてやる」
ノクタニスの顔の一部、アルティに殴られた部分だけが赤い鱗が浮かび上がり変化している。
そして一気に身体の形を変えて、ここに来た時と同じ巨大な赤龍の姿となった。
「もういい……人間と近しい姿となっていたのは人間どもの絶望の叫びをより近くで聞けるからだ。だがもうどうでもいい。動きを制限される人間の姿よりもこの方がずっとやりやすい」
巨大な赤龍となったノクタニスは身体を回転させて巨大な尻尾をアルティへ叩き付けようとする。アルティは転移で回避する。
「……ちっ…熱いなぁ」
赤龍の鱗を殴ったアルティの手は焼かれたように黒ずみ煙も出ていた。
"すごい痛そうだな……身体が戻ったら痛くなるの俺じゃない?"
「我慢しなさい……さてとあの舐めた姿の時に倒し切りたかったけどやっぱり無理だったか」
"どうするんだ?やっぱり俺とアルティ、アルルも入れた3人で戦った方がいいんじゃないか?"
「要らない……アンタは私の戦いから学ぶ事だけ考えな。これからが本番だ。街への被害だけ出さないように立ち回らないといけないのが面倒だな。転移できればいいんだが……」
"あんなデカい物を転移させるのは流石に難しいもんな"
「出来ない訳じゃない。ただアイツに触れた後に転移先を設定しないといけない。今の私でもアイツに触れ続けるのは無理……」
その時、アルティの視界を覆いつくような炎の壁が迫ってきた。ノクタニスが浮遊していたアルティ目掛けて炎の
その
"あれが街に行ったら終わるぞ!"
「その為に避難させてんだろ。もう行くぞ!」
アルティは片手に大剣をもう片方に槍を持つ。さらに背後にも無数の近接武器を召喚した。続けて漆黒の魔力を解放する。ノクタニスも本来の姿に戻り、アルティも本気だ。全力の魔王同士が再びぶつかり合う。
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