第339話
「……え?ああ、いいよ?」
「ふふ……だから私はあんたの事が好きなんだ」
アルティから謎の告白を受けた。その直後アルティの身体は消えて黒い水晶のような塊になった。そしてそれはレインの身体の中へと消えていく。
"よっしゃー!!いくぞー!!"
「…………う、うるさい」
"あ……間違えた……ちょっと「……変わって!」
"この感じ久しぶりだな……でも俺の身体なんか使って意味あるのか?むしろ弱くなってないか?"
「甘いね!それはアンタが人間の域を卒業してなかったからだ。今は魔王の域に両足が付いたくらいだけど、魔力も身体もちゃんと魔王規格になってる。なのにレインが雑魚なのは使い方をちゃんと理解してないからだ!」
"……雑魚"
自分の意思ではなく、自分の声で自分の悪口を言うのは変な気分になる。
「アルルにも同じような事言われてそうだけど、アンタは力の使い方をもっと知る必要があるんだ。レインは今生まれたばかりで私たちは生まれてから数千、数万年この力を扱って来ている。レインにどれだけ才能があろうと、どれだけ本気で鍛えようが追いつくのは難しい。だって魔王たちも生きてるからね」
"じゃあ……これまでは何のための特訓だったんだよ"
「アンタを死なせない為、あとは人類が絶望しないように最強の1人を鍛え上げて希望とすることかな。まあ色々理由を付けて言ってたけどそれが大きいね」
"そうか……でも人類は人類で守らないといけないんじゃないの?いつもアルティと今回はアルルに助けてもらってる。こんな事ばかりでいいのかって思うんだけど……"
「それも私にしてみればくだらない。出来る奴がやればいい。魔王だって別にレインが命を賭してまで戦うような相手じゃない。まあ家族の仇とかなら話は変わるけど、別にそうじゃないなら倒せる奴が倒すんだ。なんで相手を倒せるくらい強い奴が味方にいるのに、それを無視して自分がーってなるのがよく分からん。
さて……あのトカゲも気付いたね。レイン……日々勉強だ。私の本気を自分の身体で感じ取って吸収しろ」
"…………アルティ"
空中でアルティを見つける為に周囲を見回していたノクタニスが地上を見た。そして視線が合うとすぐに気付いた。アルティはレインという人間の中に入り込んでいると。
「血迷ったか!支配の魔王!!人間の影の中に入り込んで隠れようが俺の目からは逃れられんぞ!その人間ごと消し炭にしてくれる!!」
ノクタニスは右手に巨大な火の塊を創り出す。そしてそれを全力で投擲しようとする。
「お前ら!俺がアイツをぶっ飛ばすから街へ被害が出ないように防壁張るか、死なないように離れてろ!」
アルティはレインの声で高らかに叫ぶ。口調もレインっぽくなっている。いきなり女性口調になられても困るから助かるが、そんな事よりレインの言葉なら人類軍はすぐに動く。
「レイン……行くよ……攻撃魔法も強化魔法もガンガン使っていくからね。これが真なる魔王だ」
アルティは防壁を強く蹴ってノクタニスへ突撃する。元々の脚力に強化魔法を付与、さらに浮遊魔法を加えて超加速する。しかしノクタニスはその動きに合わせて別の炎の塊を複数召喚して投擲しようとする。
レインの身体能力にアルティの魔法が加わったところでノクタニスに追えないほどの速度にはならない。
"ど、どうするん……"
「ぐはぁっ!」
「んなもんが当たるかぁ!!」
しかし次の瞬間、アルティの拳はノクタニスの顔面を捉えていた。さらに加速したとかそういうレベルの速さではない。レインは当然ノクタニスにすら反応できていなかった。
「……転移だと?……人間如きが…小癪な真似を」
「はっ!まだ人間だと思ってんのかよ!同じサイズになったせいで脳みそまで縮んだのかよ!羽付トカゲが!」
アルティは大剣を召喚する。それを殴られた事で怯んだノクタニスの首を狙って振り下ろす。
しかしその大剣はノクタニスが持っていた炎剣で止められる。さらに剣と剣がぶつかった瞬間、アルティが持つ大剣の方に炎が流れてきた。その炎はアルティの大剣を徐々に融解していく。
アルティは大剣を手放して少しだけ距離を取ったと思ったら空中を蹴ってノクタニスへと向かう。次は大剣ではなく双剣だった。アルティはノクタニスが防ぐ間も無く手数で攻める。もう当たり前のように浮遊魔法を駆使している。
踏ん張りがきかず大した威力を出せなかったレインとは違い、アルティは一撃一撃が重く鋭い剣撃だ。
ノクタニスは1本の炎剣だけで凌いでいる。しかしアルティの猛攻により肩や腕に斬り傷を増やしていく。
「そんなものが俺に効くか!!」
ノクタニスは周囲に炎を再度拡散させる。刀身の短い双剣を使っていたアルティは直撃するはずだった。しかしアルティは転移を用いて後退し、炎をやり過ごした後すぐに接近してまた攻撃を開始する。
ノクタニスが動けばそれに合わせて転移するを繰り返す。ノクタニスの傷はどんどん増えていき、アルティは無傷だ。ノクタニスは誰の目にも明らかなほどイライラしている。
そうするとさらに動きが短調となりアルティの攻撃がより命中しやすくなっている。決して正面からやり合わず、一撃離脱と言葉を用いた挑発を繰り返し続ける。
アルティの戦闘スタイルは褒められたものではない。しかしこれは戦争だ。人間同士の戦闘ならばそれなりの規則は必要で、現に大国間協定なんてものもあった。
だが相手が規則無用のモンスターの親玉ならばこちらも同じように立ち回る。それがアルティのやり方だった。
「あああああッ!!!絶対に殺してやるぞ!!」
「そんな風に叫べば当たると思ってんの?相変わらず平和な頭だな」
アルティはノクタニスの炎剣を回避して双剣の片方を脚に突き刺す。ノクタニスが頭を屈めたところで、アルティの上段蹴りが側頭部を捉える。ほんの一瞬だけ意識を飛ばしたノクタニスを見たアルティはさらに続ける。
「一瞬でも今の私にとってはゆっくり追撃できるくらいの余裕があるんだよ」
そう言いながらアルティはノクタニスの脳天目掛けて踵を落とす。それもまともに受けたノクタニスは地上に向かって高速で墜落する。
しかしノクタニスはその途中で体勢を立て直し、飛翔してアルティの元へと突撃する。だがノクタニスは反撃をやめ空中で静止してこちらに話しかけ始めた。
「……人間でありながらその身体能力、徹底した一撃離脱の太刀筋に、その誰彼構わずイライラさせる挑発の口調……貴様アルスだな」
「まだ気付いてなかったのか?」
「貴様……人間如きのために死ぬのか?それは禁忌の魔術だぞ?」
"……え?"
ノクタニスの言葉にレインは言葉を失った。
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