第337話





「〈上位雷撃グレーターライトニング〉!」


 突如別の方向から飛んできた雷撃がオディウムが展開した防壁の隙間を縫って杖を持つ手に直撃した。これにより魔法の発動は無理やり中止させられた。全てを両断する白い光の斬撃は空気に溶けるように消えていった。


「…………今の雷撃は」


「レインさん!」


 竜の頭に乗っているレインのすぐに横にカトレアが転移して来た。先程の雷撃もカトレアが放ったものだった。


「カトレア?!どうしてここに?」


「オーウェンさんたちを連れて撤退中だったのですが、アルティさんから念話で呼ばれたので急いで転移してきたんです。……ただこれはどういう状況ですか?アルティさんからもとりあえずレインがヤバいから来て!と言われただけで何も分からず……」


 カトレアが言い切る前にオディウムはまた魔法の槍を複数飛ばしてきた。あの切断魔法を使わないという事は一度発動すると放ったかどうかは関係なく次の発動までに時間が掛かるようだ。


「〈魔法防壁マジックシールド〉」


 そんなオディウムの攻撃をカトレアは防壁魔法を用いて受け止める。しかしオディウムの時のように吸収されず、龍王白魔のように叩き落とす事もできず、押し込まれそうになる。


 死んでいても魔王だ。カトレアほどの魔道士の力でもその攻撃を跳ね返す事は容易ではなかった。


「〈嵐撃ストームショット〉!」


 だが、さらにオディウムの下から突き上げるように巻き起こった竜巻によりその魔法の槍は砕かれた。そしてそのままオディウムは風の壁によって囲まれる。今動ける人物でこのような竜巻を起こせるのは1人しかいない。


 レインのたちの背後から頭上を飛び越えてやって来たのはシエルだった。


「カトレア!今そこで暴れている2人は魔王だけどこっちの味方になった!浮遊能力を持っている僕たちのやる事はそこにいる1番弱い魔王を抑え込む事!いやもう倒す!

 僕たちが抜けた事で前線が押し込まれてるってシルフィーから連絡があった。ここを守り切ったとしても全方位から迫って来てるモンスターを何とかしないとどの道被害は大きくなる一方だ。

 僕たち超越者が3人もいるんだ。1番弱いって言われてる魔王くらい何とかしないと国民に顔向できないよ!」


「…………3人?」


「そうですね!レインさん!レインさんが1番攻撃力があります。私とシエルで隙を作ります。これ以上無駄な被害を出す訳にはいきません!」


「りょ、了解」


 カトレアは小さく連続で転移を使い、シエルは風を纏ってオディウムへと向かう。それと同時にオディウムはシエルが放った竜巻を杖を一振りするだけで掻き消した。


「うわっ…もう出てきた!カトレア!合わせて!」


「はい!」


「「〈上位暴嵐グレーターストーム〉」」


 シエルとカトレアが同時に竜巻を放つ。オディウムは自身を覆うように防壁を動かして展開するが、そもそもその竜巻はオディウム本体を狙っていない。防壁を避けるように形を変えながらオディウムを取り囲んだ。


「よし……俺がッ」


「もう少し待って下さい」


「……え?」


 2人の風魔法で視界を遮る。そしてレインが突っ込む作戦だと思って突撃しようとしたがそういう事ではないらしい。こんな時まで自分の理解力のなさに驚く。


「ここにいる超越者は私たちだけではありません。その者のスキルを命中させる事が出来れば地上に落とす事が出来ます。そうすれば浮遊能力のない神覚者も参戦できます」


「なるほど」


 "良かった……メルセルの事みんな覚えてないのかと思った"


「なら俺も撹乱に協力しようか……嵐雪行け!」


 龍王嵐雪は名前の通り風と氷属性を操れるドラゴンだが、物凄く皮膚が冷たいし、常に風を纏っているせいで寒すぎて近付きたくないドラゴンだ。


 だがこういう状況ならばかなりの助けになるはずだと思いレインは2人の援護に龍王嵐雪を送ろうとする。


「それも待ってください。風の壁に穴を設けてメルセルを送り込みます。レインさんの兵士とはそこまでの連携が出来ないので地上に落としてから攻撃を加えて下さい」


「あ……はい」


 "白魔はみんなの援護してて……他の龍王は待機で……"


 やっぱりレインはこんな時でも大して役に立たない。連携どころか会話もちゃんとしてこなかった弊害がこんな時にもやってくる。


 そんな時、風の壁が消し飛んだ。中にいたオディウムが魔法を使い2人が発動さた風の魔法をまた掻き消した。


「やはり人間は愚かだ……そんな大声で作戦を話せば誰だって聞こえる。この風の対策をしてくれと宣伝しているような行為は慎むべきだったな」


「知ってるよ。狙いはその邪魔な防壁を広げさせる事だったからさ」


 シエルは全身に風を纏いながら拳撃を放つ。オディウムは全身を覆うように複数の防壁を展開している。複数の防壁がまとまっているとアルティやアルルでないと破壊できない。


 だからシエルたちは全方向から風の壁で囲う事で防壁を広く薄く展開させる事で打ち破れるまで強度を下げようとする作戦だった。


 シエルたちの狙い通り、シエルがぶつかっているオディウムの防壁はピシピシとヒビが入っていく。しかしオディウムは防壁を瞬時に移動できる。ただヒビが入った事で焦ったのかかなりの数の防壁を移動させてシエルを弾き飛ばす。


「そんな愚かな人間にヒビ入れられただけで焦って防壁の配置を疎かにするなんてな。愚かなのはお前の方だったな」


 オディウムはそれでも全方向からの攻撃に対応できるように防壁を張り巡らせていた。しかしシエルの攻撃により足元に展開していた防壁が完全になくなった。


 そこからメルセルが〈冥翼〉の黒い翼を大量に放つ。一撃でも命中すれば翼自体が放つ重力により浮遊する事が難しくなる。


 そんな黒い翼をメルセルは撃ちまくる。そこそこの速度で発射される黒い翼はオディウムが転移という手段を取る前に脚に命中した。


 するとすぐにオディウムは空中でバランスを崩す。バランスが崩れた事で防壁の展開も崩れ始める。その隙間を狙ってメルセルはオディウムにどれだけ命中しているのか確認もせずとにかく撃ちまくった。


 オディウムは脚だけで数発、背中や腕にも数十発の〈冥翼〉の翼を受けて地上へと降下していく。そんなオディウムを見たレインは足場竜の頭から飛び降りる。


「あいつを地上に叩き落とす!俺は魔法が使えないからみんな頼むぞ!」


「レインさん!お願いします!」


 今度はカトレアも止めなかった。オディウムは浮遊出来ずに地上へ近付いているがまだバランスをギリギリで保っている。このまま地上へ降りられると反撃に遭う可能性が高い。だからレインが突っ込み地上へ叩き落とす。


 レインは久しぶりに戦鎚を取り出して振り上げる。レインの接近に気付いているオディウムは落下しながら防壁をレインの前面に展開する。


 レインは気にせず戦鎚を両手で持って振り下ろす。周囲に突風が吹き荒れるほどの一撃にオディウムはその防壁ごと地上へ叩き落とされる。


 バランスが取れず周囲から絶えず攻撃を受け続けているオディウムはレインの攻撃を完璧に受け止める事は出来なかった。


「今だ!!魔法を使える奴は全員!全力の魔法をアイツに叩き込め!!」


 その声を聞き取った周囲にいた覚醒者たちはランクに関係なく全力の一撃を放つ。カトレアにシエル、防壁上からはアリアにオルガもいる。護衛で来たAランクの覚醒者たちもオディウムが落下した場所に向けて魔法を放つ。


 

 


 

 

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