第335話
レインは両手に剣を持つ。さらに後方に複数の刀剣と盾が浮遊する。
「ふぅー……白魔!俺に当てないよういい感じに援護しろ!行くぞ!」
レインは白魔の頭を蹴ってオディウムへ突撃する。浮遊魔法が使えないレインは足場代わりに剣や盾を空中で固定して突き進む。
「………………………………」
オディウムは向かってくるレインを見て魔法を発動する。アルルに使っていた複数の属性からなる無数の魔法槍だ。そして間髪入れずに発射した。
全ての魔法槍がレインへと高速で向かう。しかしそれらの槍はレインに接近する前に展開された防壁によって叩き落とされた。
「いいね…………おら!くたばれ!」
魔法の槍が叩き落とされ、オディウムとの間に何も無くなったのを確認したレインは本気の跳躍を発揮する。レインの急激な加速はオディウムでも追い付けない。
レインの刀剣はボーッと空中で浮遊しているオディウムの首に迫る。
「……〈
しかしレインの剣は防壁によって弾かれる。カトレアよりも遥かに硬い防壁だった。ヒビすら入らない。
"かったぁ……やっぱり地上じゃないから踏み込みが甘かったか"
「って…うお!」
斬撃が弾かれ空中に投げ出されたレインに巨大な口を開けて向かってくるドラゴンが複数いた。龍王よりも小さなドラゴンだが、人間1人くらい丸呑みにするには十分な大きさだ。
「………まあそっちから近付いて来てくれるのは有難い」
レインはドラゴンの口の中にわざと飛び込む。レインを呑み込もうとしたドラゴンは勝ち誇るかのような咆哮を上げようとするがうまく叫べない。口が閉じない。そもそも人間を噛み砕き、呑み込んだ感じがない。そのドラゴンが不思議に感じた瞬間、ドラゴンの頭が細切れにされバラバラになった。
「………くっさいな…………アメリアに怒られそうだ」
レインは盾を頭上と足元に固定してドラゴンの口の中に飛び込んだ。そして操れるだけの刀剣を振り回してドラゴンの頭を斬り飛ばした。
空を飛ぶドラゴンを地上に落とす訳にはいかないから翼を狙えない。手足や尻尾を斬り落としても死なない可能性がある。レインはドラゴンと比べて空中での機動性はかなり劣っている。
だから敢えて自分に食いつかせてからのカウンターで殺す作戦を絞り出した。
「〈傀儡〉」
落下するレインの足場になるように頭をバラバラにされた黒いドラゴンが出現した。
「………………………………」
「なんだ?気に入らないって顔だな」
「………………………………」
その光景を見ていたオディウムは再度魔法の槍を大量に展開する。先程よりも多いが、異なる点はそれだけじゃない。魔法の槍の切先がレインの方を向いていない。
「…………あん?」
「…………………………」
オディウムは一言も話さず槍を全方位に放った。その槍に貫かれて周囲に控えていたドラゴンたちは墜落していく。オディウムは味方であるはずのドラゴンを自らの手で殺害した。
「何して……いや俺の傀儡になる事を避けたのか」
「…………………………」
周囲のドラゴンが全滅したのを確認したオディウムは杖の先に光を集めた。その光はレインへと向けられる。
"何かしてくるな?でも俺の反応速度なら見てから回避出来る。白魔も防御魔法を掛けてくれている。まだ何が起こるのか分からないのに飛び込むのは危ない。アルルもアルティも他の魔王を相手にするので手一杯だ。何としてでも俺がコイツを抑えないと"
「〈
オディウムが集めた白い光は空を走る白い斬撃となってレインの方へと向かってくる。
「白魔ァ!!」
レインの近くにいた龍王白魔はその斬撃とレインの間に入り込み全力の防壁魔法を展開する。それを援護する為にレインもすぐに用意できた盾1つを操って白魔と防壁魔法の間に設置した。さらに追加で複数の刀剣も盾代わりに白魔の前に設置する。
魔王が放った斬撃魔法はこれくらいしないと受け切れないかもしれない。敵の攻撃は全て大袈裟に思った方がいいくらいだ。
何より……。
"俺が避けたらテルセロに落ちる。落ちるのは端の方で倉庫区だから人はそこまで住んではいないはず……それでも人がいる辺りには当たる"
レインが避ければ斬撃が街へと落ちる。オディウムが計算して放ったのかは分からない。ただ今の位置で避けるという選択肢はレインにはない。
「そんな事させる訳ないだろうが……」
"レイン!受けるな!避けろ!!"
頭の中で声が響いた。何度も聞いた事のある声。聞き慣れた声だ。だからこそ疑問を持つより先に身体が動いた。
この声の今みたいな感じのトーンの命令に従わないと今すぐ死ぬか、後でとんでもない目に遭わされる、そのどちらかが確定しているから。
レインは咄嗟に落下する事も気にせず、今し方傀儡にしたドラゴンの頭を蹴って左に飛んだ。その瞬間、テルセロの外れにある倉庫区に巨大な1本の裂け目が出来た。
今の一瞬で白魔の防御魔法もアルティから貰った武具も白魔自身もエリスが張っている防壁魔法も両断された。
レインの足場になっていたドラゴンも当然真っ二つにされている。もうすでに白魔もその足場ドラゴンも復活しているが、レインはそうはいかない。
もし避けていなければレインの身体は縦に割られ、即死していた。
「…………嘘だろ?」
街からは少し遅れて火の手が上がった。何か良くない物に当たってしまったのか、爆発も起きている。おそらく死傷者も出たはずだ。
"レイン……戦争に死者は付き物だ。ゼロにするなんていう綺麗事は言うなよ?考えることも許さない。私が助けてあげたいけど、私はこのトカゲを抑え付けないといけない。
アルルもそよ風と耐久力だけが取り柄の手羽先が相手だからもう少し掛かる。アンタがそれを倒すんだ。今から私が知ってる事を簡単に教えてあげるから……自分で何とかしな!"
ショックを受け落ち込んでいる暇はない。正確にはアルティの説明がガンガン頭の中で響くせいでそんな事を考えられない。とりあえず声のボリュームを落として欲しかったが、それも言っていられないレインは自分の頬を強く叩いた。
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