第334話






 レインの頭上にその声は響く。それと同時に黒い影が激突する2人の魔王に向かっていく。


「くっ……ウザ熱い」


「どうした!どうした!狂戮の魔王さんよぉ!俺にあれだけの事を言っておいて実力はその程度かよ!」


 魔王ノクタニスの炎熱はアルルの肉体を燃やす。本来なら回避出来るはずの一撃をアルルは全てその手で受け止めていた。


 それは回避した先がどこもかしこも人類の拠点だからだった。人類の味方をしてくれと頼まれたならそれに応えるのが姉の役目だと本気で考えていたアルルはその身を焦がしながら魔王の炎に耐え続ける。


「このまま我が煉獄の業火で焼かれて消えてしまえ!!そしてその後は貴様が守ろうとした人間共もまとめて消し炭にしてやる!」


「相変わらず……ウザい!!」


 アルルはノクタニスの顎を蹴り上げる。しかし全く動じない。そしてさらに魔王ノクタニスは火力を上げていく。その熱量は周辺に生えている草木を燃やしていく。


「がははは!!貴様の強さは単騎だからこそ最大限に発揮されるのだ!背に余計な荷物を抱えながらだとその強さは半減する。そんな状態で俺を殺す?自惚れるなよ?」


「調子に……乗るな……」


「その態度がいつまでもつか試したい所だが、詰まらない者共を守って本気を出せないお前に興味はない。このまま消えて無くなれ!!」


 ノクタニスの赤い炎は黒い炎へ変貌していく。自身とアルルを包む炎の火力は上がり続け、徐々にアルルの肉体すら燃やしていく。


「ぐぅぅ……ぅぅッ!」


「早く焼け死んでしま…ヴェアァッ!!!」


「お前が死ねや!!弱火羽付トカゲがぁ!!」


 突如として口の悪いアルティに殴られたノクタニスは勢いよく地上へ落下する。さらにアルティは地上に墜落したノクタニスに対して黒い魔法を連続で放つ。


「死ね死ね死ねぇー!!!弱火羽付トカゲェー!!」


 いきなり何処からともなく現れた暴君みたいな女に他の魔王たちは呆気に取られる。

 

「なっ?!支配の魔王!貴様よくも我々をッオゴッ!」


 地上へ向かって破壊魔法を放ちまくるアルティを背後から鉤爪で襲おうとした颶風の魔王カイムの鳩尾をアルルが殴り付ける。


「お姉様の邪魔はしちゃダメ……鶏もどきが割って入れるような戦いじゃないの」


「誰が鶏だ…アグッ!」


 アルルに対して反撃しようとしたカイムはもう一度鳩尾を貫通するくらい殴られる。


「だから邪魔しちゃダメ……大人しくするまでボコボコにするから」


 そこからアルルの超高速の殴打がカイムを襲う。立ち位置的に危ない場所にいたノクタニスはアルティが破壊魔法でボコボコにしている。


 もう背を気にして立ち回る必要がなくなったアルルはようやく本気で戦える。


「ヴッ!アァッ!ウゲッ!ブッ!ガッ!……な、舐める…ゲボッ!ギャッ!」


 カイムは自慢の翼を使った高速戦闘に移ろうとするが、アルルから距離を取れなかった。アルルの脚が鞭のように変化しており、カイムの足に巻き付いていた。距離を取られると厄介なのを知っていたアルルがそれをさせなかった。


「鶏もどきの強みは高速移動……距離を取られるとムカつくから逃さないよ。こうなったらアンタは鶏もどき以下だ。もはや卵だ……いや卵以下だ」


「意味分からんねえ事ッ…ギャッ!グェッ!ブッ!ゲゥッ!」


 アルルが一発殴るたびに空気が振動する。それと同時に空中に赤い血が舞っている。アルルの全力、一発が大地を砕くほどの威力がある殴打を何発も全身に受け続けている。それでも身体の形を残しているのが魔王としての耐久力を証明している。


「なぜ……風が……グェッ!ブッ!操れ……ないん…ギャッ!オゴッ!ブハッ!……だ」


 颶風の魔王カイムはその異名の通り風を操るスキルがあるが、そのスキルを全く使用できていない。カイム本人にもなぜ風を操る事が出来ないのか分からなかった。


「当然だよ。私が殴った時に起こる突風はお前が操れる風より強いんだ。私がお前を殴り続ける限りお前は力を使えない。下から2番目に雑魚なお前が私に勝てるはずないんだよ…………でも」


 カイムをボコボコに殴り続けるアルルの背後には複数の魔法陣を展開したオディウムが狙いを定めていた。


「1番雑魚の魔王と組まれると……ちょっとウザいよね」


「……………………消えろ」


 オディウムは躊躇なく攻撃魔法を連発で放った。今もカイムをボコボコにしているアルルはこの魔法を防ぐ手段がない。全てその背中に受けることになる。


 ズドンッ――と空中で大きな爆発が起こる。しかしそれはアルルに命中したからではなかった。オディウムが魔法を放ったその瞬間にオディウムを包み込む魔法防壁が出現した。その魔法防壁に自身が放った魔法が炸裂し、オディウムは自爆するような形となった。


「…………やっぱり私の弟はそれなりに優秀だね。いつかは私も超えるかもね」


 アルルは後ろを少し見て微笑みを残し、再度目の前にいる血だらけの魔王カイムに拳を振るった。


「いいタイミングだったよ。お前が1番乗りだな」


 オディウムの魔法を防いだのはレインの傀儡、その中でも最精鋭にあたる龍王白魔だった。4体いる龍王の一角にして唯一魔法に特化したドラゴンだ。


 レインはそのドラゴンの背中に乗り、白魔の防御魔法とレインの盾によってオディウムの攻撃を打ち消した。


 しかし人間の味方をするドラゴンが出現した事でさらに動き出す者もいた。ノクタニスが連れて来た竜の軍勢の一部がレインに向かって襲いかかる。


 魔王同士の戦闘の邪魔をしないよう上空で旋回していたが、レインの傀儡が到着したのを見て援護のために降りて来た。


 魔王間では干渉しないという話だったが、事態の緊急性を察した数十頭の竜はオディウムの背後に控える。


「他の龍王たちももうすぐ来そうだな。一体だけ空飛べない奴だからまだ時間かかりそうだけど……コイツらと俺だけで最弱の魔王とドラゴンの群れを相手にする。……それくらいやってみせるさ」


 

 

 

 

 


 


 

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