第326話






「貴様が何者かは聞かない。エリス様のご計画を邪魔した貴様は万死に値する。自らが放った炎の岩に焼かれて消えよ」


 イゼラエルの〈神壁〉に命中した無数の岩石は全て跳ね返された。そしてその跳ね返された炎を纏った岩石はさらに加速し、誘導されるように魔法を放ったオディウムへ向けて突き進む。


「………………………………」


 しかしオディウムは一言も話さず、ただ向かってくる魔法に対して杖を横に振った。するとイゼラエルが跳ね返した魔法が全て消えた。


「やはり解除したか。弓矢のような物理攻撃なら兎も角魔法攻撃だと発動そのものを解除されてしまえば私のスキルはただの防御魔法となってしまいます」


「イゼラエルさん……大丈夫?オルファノさん!少しだけ時間を稼いで!」


「御意!」


 イゼラエルの盾がいくら万能とはいえあれほどの魔法を連発されればいつかは破られる。エリスの魔力も無限ではないからだ。


 オルファノは全身に金色の炎を纏ってオディウムに突撃する。近接戦特化のオルファノならば魔法戦特化のオディウムとは相性がいい。


「私は問題ありません。…………しかしながらあの威力の魔法を連発されるとエリス様の魔力の方が先に尽きてしまうでしょう。奴はおそらく魔王の一角です。

 ただ生気がなく既に死んでいるようで……人類側の誰かがあの魔王を殺害した後、何者かがその死体を奪い操っているのでないでしょうか」


 とイゼラエルはそう推察した。そして概ね正しい事を言っている。こうした頭の回転の速さも神軍長の特徴と言える。


「いや……私に聞かれても分からないよ。でもそれってお兄ちゃんのスキルと似ているね。だけど姿は全然違う。もしあの人が魔王だとすれば……そんな魔王を倒して操れる存在っていったら」


「同じ魔王の可能性が高いかと」


「うーん……これって神様と魔王の戦争なんだよね?魔王が魔王を倒して操る?もし私たち人間が倒していたらもっと大騒ぎになると思っていたけど、そんな感じもないし……思ったよりも状況が複雑なのかな」


「私には理解できかねます」


「そう?でもあの人をこのまま放っておく訳にもいかないよね。アギアさんも呼んで、オルファノさんたち3人で倒せそう?」


「…………時間を要します。その分だけエリス様のご計画に支障が出ます。アギアはあの場所に配置したままシファーを戻しましょう。そしてオルファノと私で時間を稼ぐ方法がよろしいかと」


 イゼラエルは神妙な面持ちでエリスに進言する。神軍長たちにとってエリスの命令は絶対であり、拒否する事はできない。

 

 だからイゼラエルの意見はエリスの言葉を否定したのと同じ。それを自覚しているからこその表情だった。それほどオルファノが戦っている魔王という存在は強大な者だった。


「2人だけ……か。それは流石に難しいんじゃ……」


 ただ当のエリスは特段気にしない。ただ盲目的に命令に従っていられる方が不安になる。そしてオルファノだけではオディウムを抑えきれない。


 先程からオディウムがオルファノへ向けて放った攻撃魔法の流れ弾が街の方へ飛んでいる。その全てをイゼラエルの盾が迎撃し、跳ね返した所でその魔法が消失しているのを繰り返している。


「…………ん?」


 エリスはこちらに近づいて来る別の何かの存在に気付いた。魔力探知能力はレインには劣るが近くまで来られれば気付ける。要は普通の高ランク覚醒者くらいの探知能力だ。


「エリスちゃん!私たちも戦う!」


「……オルガさん?……それにアリアさんも」


 そこにいたはオルガとアリア、2人の神覚者だった。シファーに治療を施され、目を覚ました後、すぐにここまでやってきた。他にもAランクの覚醒者たちが数人一緒に来ている。


「アイツはお兄ちゃんの仇なんだ!邪魔だけはしないから私も参加させてほしい!」


「私からもお願いします!ここは街全体に水路が敷かれています。ここなら私のスキルも使えます!あの場所で私は全く役に立てなかった。何も出来ず多くの仲間を失ってしまったんです!レダスさんと彼らの仇をとります!」


 オルガとアリアは覚悟を決めてこの場に来ていた。しかしエリスとイゼラエルの表情は暗い。


「オルガさん……本当に戦えるの?シファーさんの能力で傷は治ったかもしれないけど、失った魔力までは戻らない。だからアイツを倒せるだけの魔法を……後どれだけ放てる?

 それにアリアさんのスキルは水を操るっていう凄いスキルだけど……この街の水は今となっては貴重な物資だから、沢山使えないんだよ?」


「私は問題ない!まだまだ戦える!あの時……本当に何が起きたのか分からないままやられちゃったから、魔法もスキルも使えるよ!

 あと……アリアにも私の氷を操ってもらうから大丈夫!この街の水を使い切るような事はしないよ!」


 エリスは見抜いていた。オルガたちが無理をしている事を。いくら傷が回復したといっても魔力までは戻らない。

 そして相手は魔王だ。氷と水に特化した神覚者が加わった所で邪魔にしかならない。今も何とかオディウムを足止めしてくれているオルファノとも相性が悪い。


 だとしても……。



「分かりました。じゃあお願いします。でも2人はここから援護してください。アギア、シファー、私の元へ。何で呼び捨てにしないと呼べないんだろう……不便」


 エリスの呼びかけに応じてすぐに2人の天使は出現する。そしてすぐに状況を確認するように周囲を見渡す。


「状況は分かるよね?アギアさんはオルファノさんを援護して!イゼラエルさんはオルガさん、アリアさんと一緒に街に降ってくる魔法を防いで!シファーさんはあの場所へ戻って門を破壊して!」


「「「御意」」」


 3人の神軍長たちはエリスの言葉に一切の疑問を持たずに即答した。そしてすぐに行動に移す。


 アギアはオルファノの方へ飛び去り、イゼラエルは2人の神覚者を手招きで呼ぶ。シファーは少し目を閉じたかと思ったら、すぐにその場から消えた。


「じゃあ……みんなで協力してアイツを倒すよ!」


 

 


 



 

 


 


 

 


 


 

 


 

 


 

 

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