第325話






「嫌だよ。お前が死ねよ……でどうな、の、よ!!」


 アルティは言葉に合わせて巨大な炎の塊をラデルに向けて投げ付ける。加えて地面から先端の尖った石の礫が無数に出現し、ラデルとその周囲にいる屍の軍勢に襲いかかった。


 しかしその魔法は全て煙のように消えてしまった。その光景にアルティだけでなく、アスティアたちまで動きを止める。


「何をしたの?」


「本当にお前は質問ばかりだな。まあいい……教えてやろう。ただスキル〈厭世〉を使っただけだ」


 ラデルはニヤリと笑みを浮かべながら後ろで手を組んで答えた。その間も屍の軍勢は地面から這い出てきている。既にレインが所有する傀儡の軍団の総数に迫る勢いだ。


「そんな訳ないだろ……それはオディウムのスキルでそのオディウムはそこで死んでるだろ」


 アルティの視線はラデルの足元で膝をついたまま死んでいるオディウムへと向けられる。魔法を無効化の〈厭世〉はオディウムのみが使用できるスキルでラデルが使えるはずがない。


「まあ……死んではいるな。ただコイツを殺したのは私の毒だ。だからこうやって……復活させる事もできる」


 ラデルが指先から紫色の雫を垂らした。その雫はオディウムの頭に当たる。するとすぐにオディウムの身体が一度だけ大きく跳ねた後、立ち上がった。


「嘘だろ?」


「本当だ。ただ本人は死んでいるから意識はない。私の命令に絶対服従になった元魔王といったところだな。魔王としてのスキルも使えない。使えるのは魔法くらいだが、兵士としては問題ないだろう?」


「ラデル……アンタ、その〈厭世〉といい、殺した奴を復活させて兵士にする〈傀儡〉に似たようなスキルといい……お前は何者だ?もはや魔王を超越した存在になってないか?」


「それが私の目的だからな……とりあえず話を聞いてくれる気にはなったのかな?お前にとっても悪い話ではッ」


 アルティを見ていたラデルの後方から飛んできた炎の塊が炸裂し、周囲に炎熱と爆風をもたらした。その魔法を放ったのはアスティアだった。


「危ないなぁ……お前は私の軍団を相手にしていろ」


 アスティアの攻撃魔法はオディウムの防御魔法によって防がれた。そしてアスティアの周囲に大量のアンデットが出現した。


「お前の話は基本的に胡散臭いからな。聞くだけ無駄ってやつだ」


「…………そうか、ならばこうしようか」


 ラデルは手を1回だけ叩いた。するとそこに立っていたオディウムが消えた。


「何処へやった?」


「言わなくても分かるだろう?私の話を聞き、私の要望を受け入れるならここへ戻してやろう。今度は今し方送った雑魚巨人とは訳が違うぞ?スキルはなくしたが、圧倒的な魔力と魔法を行使できる存在だ。言わばお前と同種の力を持つ元魔王を送った。

 いくら女神の関係者といっても犠牲なしであれと戦う事はできない。それに…………おっと……ふはは……今、全ての魔王がこの地に降り立ったようだぞ?颶風ぐふうの魔王に狂戮の魔王、煉獄の魔王が集った。さらにもう間も無く天界の門も開くだろう!」


「お前……本当に何をやろうとしている!貴様の目的は何だ!」


「目的か?……魔神の復活だ」

 


◇◇◇



「巨人たちは……復活しそうにないし、完全に倒したね。もうモンスターがいないなら帰ろうかな?」


 エリスは周囲を確認する。金色の炎に包まれた巨人の亡骸と側で控える天使しか見えない。一瞬で倒したおかげで周囲の人々が避難する時間もないくらいだった。もうこの際巨人なんて来ていなかったと言っても信じてくれそうだ。


「はい、周囲に悪しき魔力の気配は感じられません。あとは人間の兵士たちに任せてもよろしいかと思います」


「…………いや、まだ駄目だね。こっちに何かが転移されてくるよ。オルファノさん……本気でやろう」


 エリスはいつもの穏やかな表情とは打って変わり眉を顰めて空を見る。


「エリス様?」


「来たよ!」


 オルファノはエリスが指差す先に視線を移す。その先には白い神官服を着た白銀の長い髪を靡かせた性別が判断できない人間が1人だけ浮いていた。右手には自身と同じ背丈の長杖を持っている。


 ただただ無表情でこちら側を見ている。ピクリとも表情を動かさず瞬きすらしない。まるで生気が感じられないとオルファノは思った。


「あれは……人間……でしょうか?しかし放たれる魔力も……」


「オルファノさん!あれは敵!早く倒さないと」


「〈降星、万物を滅すエトワール・デモリス〉」


 その者は小さく魔法を詠唱した。その声にも生気はなくただポツリと呟いただけだ。しかしその直後ここら周辺全てを破壊し尽くせるほどの巨大な岩が炎を纏い降り注ぐ。それが1発でも街に落ちれば大惨事となる事は誰の目にも明らかだった。


「イゼラエル、私の元へ」


 エリスはその炎を纏った岩の雨に対処する為に〈神の盾〉イゼラエルの名前を呼ぶ。するとすぐにエリスの側に魔法陣が出現し、1人の天使が召喚された。


「エリス様……神の盾イゼラエル、召喚に応じ馳せさん」


「そんなのいいからあれを防いで!私の魔力もどんどん使って!」


「ハッ!〈神壁〉」


 イゼラエルの手のひらから青い半球状の盾が召喚される。それは一気に広がっていき街全体を包み込んだ。


 そして空から降り注ぐ無数の炎の岩石は、その盾に命中する。


 

 

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