第321話
「かつての王よ。このような輩と話をする必要はありません。間も無く私の配下たちも到着します。奴はオディウムよりは強いかもしれませんが戦闘タイプの魔王ではないし、今は単騎です。故に我々だけでも十分に対処可能です」
アスティアは装備していた阿頼耶を手放した。阿頼耶はすぐに人の姿に変化する。
「ご主人様以外の者に使われるなど……不愉快極まりないが……魔王の一角を葬ったのは良しとしようか。だが2度目はないぞ」
阿頼耶は怒りにもとれる表情を浮かべる。レイン以外の者に使われる事は主人であるレインへの裏切り行為に等しいと考えていた。
しかしそれのおかげで魔王を大きな損害もなく殺害できたというのも事実。だからこそ複雑な心境だった。
「あれは奴の能力を思えば仕方のない事だ。今はそんな事は重要ではない。目の前の敵に集中しろ」
アスティアは阿頼耶の文句も受け流す。目の前にいるのは別の魔王だ。そしてこの戦争に興味を持っておらず、別の目的を持っている。どう考えても碌な事にならないのは確かだ。
「……全くお前たちも話を聞かないのか?いや……私の目的を達成するためには……アルス…お前の力が必要だと思えなくもないかもしれないかも……だ」
「どっちなんだよ……お前のその遠回しな言い方もマジで嫌いだよ?今も進行形でどんどん嫌いになってるからね?」
「お前になんぞ好かれたくはない。もし今お前が好意を抱いてる相手がいるのなら……その相手は本当に気の毒だと思うよ。レイン……という男だったな?
お前のような奴と行動を共にしているのなら、さぞ気遣いが出来る優しい男なのだろうな。お前と違って」
「へぇ……お前に希死念慮があったなんて知らなかったよ。アイツと私……主に私を愚弄する奴は許さないよ?」
アルティは魔力を溜めていく。その影響で周囲が大きく揺れ動く。
「お前のそのとりあえず相手を殺してから話をしましょう……みたいなスタンスは変えた方がいいな。ではこうしようか」
ラデルは両手で大きく一回拍手をした。パンと乾いた音が周囲に響く。
「なんだ?」
「私は蛇疫の魔法だ……毒と病を司り、細菌や昆虫、爬虫類など毒を持つありとあらゆる生物を使役する。その中には生物の脳に寄生し行動を支配する事もできる。
ちなみに生死は問わない。そして私はそこそこ魔法も使えるのだよ」
ラデルがその言葉を言い切ると周囲で死んでいたはずの巨人たちがいきなり立ち上がる。ただ肌の所々が薄黒く変色し、血管が浮き出ている。表情に生気はなく小さく痙攣している。武装した高貴さすら感じさせる姿をしていた巨人の兵士たちは、思わず目を逸らしたくなるような姿に変わり果てていた。
「とりあえずコイツら……えーと6体だな?お前たち人間の本拠地……テ、テル…あー……名前は忘れた…そこへ送ろう。
これで傀儡の兵士たちはそこへ行かねばならないだろう?そうすれば少しは話が出来るのではないかと思ってね?」
ラデルはもう一度手を叩く。するとすぐに復活した6体の巨人たちは姿を消した。
「さてこれで話をッ」
ズドンッ――とラデルの立っていた位置とその周辺が大爆発を起こした。周囲にまだ倒れていたオディウムの配下だった兵士たちはその爆風で吹き飛ぶか、爆発によって拡散した黒い炎に焼かれて塵となっていった。
「……〈溶解の毒壁〉」
しかしラデルは無事だった。周囲に張った赤いドロドロとした毒の壁で爆発から身を守っていた。
「おい……私の話を聞いてなかったのか?アスティアとアルティよ。お前たちが守っている人間の本拠地に送ったのだぞ?ただの巨人ではなく私の毒によって寄生され強化した巨人だ。
脳を弄り限界を無理やり突破させた事で自身の身体が崩壊するのも厭わずに暴れ回る存在となっているんだぞ?早く行かなくていいのか?」
「別に興味ねえんだよ……どうせ知ってるんだろうが、こっちの本拠地には魔王の対極にいる存在がいんだよ。強化された巨人だろうが何だろうが、魔王配下のモンスター如きが相手になるような存在じゃねえ」
「なんだと?それは……あー……アイツの妹か。しかし奴は扉を開いてからまだここの世界で1年しか経っていないだろう?魔王配下のモンスターと正面から戦えるのかな?人間の成長は我々とは違うのだぞ?
私も一応数年間は1つの国を支配したからな。人間の成長速度くらいはある程度把握しておるつもりだ。どうなのだ?」
「教えるわけないだろ?もうお前が言う事全てに興味がないんだよ。ただお前如きが私の前に出てきたって事は話があんだろ?聞いてやるよ!私を倒せたらの話だけどな!!」
「このクソ女が……まあ良いだろう。ここまでコケにされて笑っていられるほど私も温厚ではない。
どんな毒で、どんな苦痛で、どのような最期を迎えたい?それくらいの希望は聞いてやろう。そして私の配下をお前の亡骸に寄生させてその力を貰うとしよう」
「は?マジでキモイな」
「一旦話は終わりだ。我が元へ集え……屍の軍勢よ」
ラデルの周囲に武装したアンデットの集団や寄生されたような見た目の獣が大量に召喚された。
「相変わらず悪趣味なスキルだな……アスティア!阿頼耶!しっかりついてこいよ!」
さらに2人の魔王は同時に黒色と緑色の魔法陣を無数に展開する。アスティアと阿頼耶も武器を抜き、天使たちも集まってきた。そして激突した。その大地の振動は遠く離れたテルセロの地まで轟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます