第319話
◇◇◇
1つの魔法で大地の一部が吹き飛ぶ。その反撃の攻撃魔法は空気に溶けるように消える。
2人の魔王の戦闘はずっとこれの繰り返しだった。もう少し見ていたいと言うオーウェンのわがままを麻痺の拘束魔法で封じたカトレアたちは早急に要塞を放棄して撤退した。
あんな化け物2人の間に入ったら一瞬で消し炭にされる。アルティを援護しようにもあの魔王オディウムという魔王に魔法やスキルは通用しないとの事。
だったらさっさと逃げて別の戦線へ移動したほうが遥かに効率がいい。
もう魔王同士の攻撃魔法で綺麗な平原は見る影もない。
「これ以上は本当にマズイです。さっさと撤退しますよ!」
カトレアとローフェンはすぐに移動していく。背後の気配でカトレアたちが移動したことを確認したアルティはニヤリと笑って攻撃魔法の連発を一旦やめた。
「何だ?もう諦めたのか?」
「そんな訳ないだろうがよ。あの子達があの要塞から離れてくれないと本気が出せないからなぁ。
とりあえずアンタがあの子達を狙わないように位置取り気を付けてただけさ。ここからが本番だよ」
「本番?頭がおかしくなったのか?……いやそれは元々か。貴様の魔法も傀儡の軍団も全て魔力とスキルに依存している。この俺を前にしてそれらは全て無意味だ。いい加減気付ッ」
オディウムの頭部にゴシャッ――という鈍い音が響く。既に鼻と口から血を流していたオディウムはさらに額からも血を流す。もう顔全体が血だからになっている。
「あーはっはっは!!本当に……あはははっ!!バカすぎる!魔法が無力化されるのは知ってるっての!でも無力化出来るって自分が認識しているか、自分を対象にしている魔法とスキルだけだろ?だったらその辺の石を浮遊させて全力で発射すればいいじゃん!」
アルティは空中で浮遊しながら腹を抱えて大笑いする。涙すら流すほどの大笑いだ。
その反対に魔王オディウムは怒りで身を震わせている。
「その辺の石なんて魔力ないんだからどうやったって視覚に頼らないといけないんだよ?それを自分で封じてるんだから、こうなるのは必然だよね?
……って何震えてんの?血ぃ流し過ぎて寒くなっちゃった?ほら炎をくれてやるよ!〈
アルティの手のひらから黒い炎の竜巻が発生し、オディウムへと突っ込んでいく。空中で放たれたその黒い炎は地上に僅かに残っていた草木を熱波だけで焼き尽くす。
「消えろ」
オディウムがそう一言呟いた。すると黒い炎の竜巻は煙となって消えた。アルティの魔法でもオディウムを前にすれば無力化されてしまう。
「〈
オディウムは再度、燃える巨石の雨を降り注がせた。ただレダスの時とは違い、燃える巨石は広範囲ではなくアルティ目掛けて降り注いでいた。
「チッ……面倒な……」
アルティは転移魔法を使って回避しようとする。しかし転移魔法が発動しない。浮遊していた身体も地面へと落下しようとする。浮遊魔法すら消されてしまう。
「無駄だ。私が認識した魔法は発動しない。もう目を閉じる必要もない。お前はもう魔法を使う事はできない」
魔王オディウムはここまでずっと閉じていた瞳を開いた。アルティの赤い瞳とは異なる強く深い青色の瞳を覗かせる。
「あっそう?じゃあこれで行こうか……な!!」
アルティは地面に向かって超高速で移動する。その後、着地した後さらに要塞がある方向とは別の方向へと移動する。
オディウムは自身を対象にした魔法と認識した魔法を打ち消す。つまり本人を対象にせず、本人が魔法だと認識できなければ無効化されない。
アルティは先程オディウムに飛ばした石の余りを空中で固定する。もちろんオディウムに見えないように隠しながら。そしてそれを足場にして地面へ向けて跳躍した。
あとは元々本人に備わっている驚異的な身体能力による高速移動で降り注ぐ流星を回避する。
「逃さんよ……〈
オディウムは真空の刃を作り出し、アルティへ向けて放つ。魔力によって創成された真空の刃に切断できない物は存在しない。
「本当にウザい魔法ばかり使いやがって……」
"あれは何でも斬っちまう幅の広い斬撃だな。対抗出来るとすれば……同じかそれ以上の魔力を込めた防御魔法くらいだが…………まあ使えないよな"
アルティは迫り来る真空の刃に背を向ける。オディウムの視界の中では魔法が使えない。だから敢えて背中を向けてでも隠しながら発動させるしかなかった。
「確かにお前が魔法を使うにはそれしかない。ただどうするんだ?背を向けた状態で俺の魔法は打ち消せ……」
オディウムの視界はまた大きく歪んだ。先程と同じ方向から突如として黒い何かによってまた殴られた。
完全にアルティに集中していたオディウムはその殴打に対応できず地上へ落下する。この時、オディウムの視界からアルティが外れた。
「いいタイミングだ。〈
このタイミングを狙ってアルティも振り返り、迫り来る真空の刃に防御魔法を発動させる。真空の刃はそのまま空へと弾き飛ばされた。
「かつての主人よ。相変わらず無茶な戦い方をされるのですね。心臓などとうの昔に失ったというのにも関わらず貴女を見ていると心臓が痛くなるような感覚を覚えます」
「何だ……アスティア?レインの配下になってから随分な言いようじゃないか?まあいいや。アンタを足止めしていたモンスターたちはどうしたんだ?全部倒したのか?」
「念話を用いていきなりここに来いと命じられなければまだ戦っておりましたよ。今は配下の天使たちが代わりに戦っております」
「あれ?アンタ……そんな大剣持ってたっけ?」
アルティとアスティアの会話を遮るように竜巻が空と大地を包み込む。その竜巻はアルティ、アスティア共に回避できた。
「私が隙を作りますので、うまく奴を殺してください」
アスティアは要望を端的にアルティに伝え、魔王オディウムに向けて突撃する。そんなアスティアをオディウムは紺碧の瞳で捉えていた。
「全く……どいつもこいつも俺の顔を狙いやがって……傀儡統括アスティア……またもや俺の邪魔をしやがって……俺の前では傀儡など何の意味も成さないと理解していないのか?」
オディウムはアルティに対して〈厭世〉のスキルを発動する。魔法とスキルを無効化する〈厭世〉は〈傀儡〉のスキルも対象となる。アスティアはアルティが使役する傀儡の軍団を統括する兵士だった。
アルティの〈傀儡〉を無効化すれば、そのスキルによって創り出されたアスティアの召喚も解除される。
「これで終わりだ。傀儡と魔法のない貴様など……そこらの低俗な悪魔と何ら代わりない。俺の全ての力を持って凄惨に殺して…ブッ?!」
オディウムに向かって突撃していたアスティアは消滅する事なく突き進み、硬く握った拳をオディウムの鼻柱に叩き込んだ。
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