第313話






◇◇◇

 


「緊急事態です!!」


「ああああッ!!!何が?!何?!」


 黒のゲート前とその周辺で悪魔を狩り続け、傀儡を増やし続けているレインの耳元に装着した通信機からいきなり声が響き渡る。この声はシルフィーだ。


 レインにとって悪魔の討伐は作業になりかけていてある意味油断していた。ここに来る前に通信機を耳に付けていたのを忘れていた。


「レインさん!そこから南側に12kmの地点!防壁が突破され、膨大な数のモンスターが侵入しました!その中に1人圧倒的な強さを持つ個体がおり……おそらく魔王かと……それにレダスさんが…………い、いえ今はヴァルグレイ将軍率いるヴァイナー王国軍が対応にあたっていますが、劣勢を強いられています!救援は可能でしょうか?」


「魔王だと?何でそんなところに……分かっ……返事は出来ないんだったな。地面に○印でも……」


 その時だった。レインたちの頭上で防御魔法を展開しながら攻撃魔法で援護をしていた熾天使が消し飛んだ。熾天使はアスティアや龍王に次ぐ傀儡の最高戦力の1つだ。


「阿頼耶……ここから南に12kmくらいの地点にある防壁が突破されたようだ。

 元々その辺には傀儡を配置してるはずだが、そこまで強い奴らじゃない。それに魔王もいる可能性が高い。

 アスティアと熾天使たちを付けるからお前が救援に行け。無理だと判断したら傀儡たちを囮にして即座に撤退しろ」


 レインは既に復活し終えた熾天使たちに命令を出す。阿頼耶と天使の速度なら数分で到着できるはずだ。


 本来ならばレイン、または超越者クラスが行かなければならない。しかし今はここを離れられない理由が出来てしまった。


「し、しかし……」


「行け!!」


「ハッ!!すぐに片付けて戻って来ます!それまで……どうかご無事で!」


 そう言い残し阿頼耶は姿を消した。その後すぐに熾天使たちもその方向へと飛んでいく。レインの周囲にいるのは追加で傀儡にした悪魔の騎士たちと無数に積み上がる悪魔の亡骸だけとなった。


 "アスティア……聞こえていたな?南側へ移動しろ。阿頼耶とオーウェンたちを全力で援護しろ。ここら辺の防壁は覚醒者たちに任せることにしよう。ここからは俺にも余裕はなくなる。いいな?阿頼耶たちを必ず生かせ"


 "承知致しました"


 アスティアへ短い命令を与えた後、その存在はレインの前へと降り立った。


「そこそこ時間も経ってるのにどうして悪魔たちが人間如きの砦を突破できていないのかと思ったら……君が原因だったんだね」


「…………なんだ、もう出てきたのか」


 レインの前には複数の、それもこれまで出てきた悪魔の中でも最も強靭な悪魔の騎士たちが護衛に付いた1人の少女が現れた。黒く長い髪を耳より下の位置で2つ結びにしている赤い瞳を持つ女の子だ。


 当然普通の少女ではない。神覚者に匹敵するような魔力を放つ護衛も凄まじいが、何より警戒すべきなのは少女本人の魔力だ。レインと同じ漆黒の魔力が溢れ出し、周囲の風景すら黒く染めていく。


 魔王――この少女こそがこの黒のゲートから出てくる最強の存在だった。


「まあ私は戦争なんてどうでもいいし、私を勝手に敬って、勝手についてくる配下なんて要らないし、死のうが、どうなろうが知った事じゃない。

 私は自由気ままに生活できるなら何でもいいんだけどね。だからここに来るつもりはなかったんだ。

 でも……」


 レインの視界から少女が消えた。そして次の瞬間には拳を強く握った少女がレインの眼前まで接近し拳撃を放つ直前だった。それをレインは剣で受け止める。


「ぐぅ……」


 その腕が吹き飛ぶかと思うほどの強い衝撃を前にレインは呻く。


「どうして君からあの方と同じ魔力を感じるの?それにその武器もあの方と同じ……ねえ?君は何者?あの方はどこにいるの?こんな戦争なんかに興味はないけど、あの方に会えるなら話は別。

 教えてくれるまでは殺さないけど、教えるまでは痛め付けるよ。全ての人間を殺さないと会えないなら今すぐにでも実行するから」


「あ、あの方?」


 たった1度の拳撃でレインの全身は悲鳴を上げる。防御ではなく回避すべきだったと思わざるを得ないほどの一撃だった。


「うん……私を救ってくれた大切な御方。早くあの方の居場所を教えて。知っているんでしょう?」


「レイン!!」


 淡々と会話する2人の間に声が轟く。ルーデリアが斧を振り下ろしながら少女の頭を狙って落下してきた。その斧が繰り出す一撃の突風はレインを無理やり移動させるほどだった。


 少女が受けた一撃は周囲の大地を大きく削り砕いた。その地面は大きく沈み少女の姿は見えなくなった。


 しかしあの攻撃で倒せる訳がない。ルーデリアから放たれている紅蓮の魔力すら飲み込もうとする漆黒の魔力が今も砕かれた地面から溢れ出ている事がその証明となる。


「なに……あなた?懐かしい魔力だけど……貴女に用はない。逃げるなら追わないし、邪魔するなら殺すよ?私の目的は1つだけだから」


 少女はルーデリアの斧を片手で受け止めた。ルーデリアの方を見る事もなく淡々と警告する。しかしルーデリアという女性はそれを聞いておいそれと逃げるようなタイプではない。いや本当に。

 

「私が何のためにここに来たと思っている!魔王を殺す為だよ!」


「ふーん……そう?なら死んでくれる?〈形態変化:巨腕〉」

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