第314話
少女がそう呟いた後、その少女の右腕が信じられないくらい黒く肥大化する。ルーデリアの斧を握り潰せるくらいに巨大化した右腕はそのままルーデリアを振り回して地面に叩き付けた。
「ガハッ!」
突然のことで反応が遅れたルーデリアは地面に叩き付けられ背中を強打する。視界がチカチカし、全身が痺れ、呼吸が止まる。
「はい、さようなら」
少女は巨大になった腕を振り上げてルーデリアを叩き潰そうとする。当然そんな事をさせる訳にはいかないレインはルーデリアを背にして剣を構える。
少女はレインが間に入り込んだ事には気付いているが、それでも気にせずに腕を振り下ろした。
「ぐぁ…………ル、ルーデリア……早く…離れろ」
見た目以上の重さにレインは苦悶の表情を浮かべる。少女の腕を受け止めた手脚が悲鳴を上げる。
「びっくりした……私が力を抜かなかったら一緒に潰れてたよ?とりあえず君が急いで離れなよ。そこにいたら一緒に潰れて死んじゃうよ?君にはまだ用があるから殺したくないんだよね」
「ふざけんな。俺にとっては仲間なんだよ」
「ふーん……でも私には関係ないね。〈形態変化:斬爪〉」
今度は少女の左手から数十cmほどになる鋭利な爪が生えた。黒い靄のような魔力を纏った爪は真っ直ぐレインの腹部を狙って突き動かされる。
その鋭利な爪はルーデリアが巨大な斧を面で受け止める。しかし、その突きの威力には2人とも耐えきれず後ろに吹き飛ばされた。
2人はもつれ合うように地面を転がり、やがて止まる。エリスと大差ないような少女から放たれる一撃で神覚者2人がこの有り様だ。
魔王とはそれほどまでに強大だった。この光景を他の覚醒者たちが見られるような場所で戦っていなかった事だけが幸いだと言えよう。普通に士気に関わるからだ。
「なんて
「ああ……とりあえず近えからそこを退け!」
「ぐぇっ!」
ルーデリアにそこそこな力で蹴られた。レインはもう一度地面を転がる。確かにカトレアが暴走した時くらいの距離まで顔が近付いていたが、今のは不可抗力ではないだろうか?レインは解さない気持ちを持ちながら追加で受けた余計なダメージを耐える。
「仲が良いのはいいことだと思うよ?でも私からすれば鬱陶しいね。とりあえずそこの女は殺してしまおう……あー、でも君は動けないように両足を潰しておくね」
いつの間にかレインの目の前に立っていた少女が身体の大きなに見合わない巨腕を振り上げていた。そしてすぐに振り下ろされるが、命中の直前でその巨腕に長剣が突き刺さる。ルーデリアが長剣を投擲してレインを守ろうとした。
「邪魔しないでよ!!〈形態変化:迅脚〉」
少女はレインから放って斧を構えるルーデリアに向けて突撃する。その際に脚が紫色に発光し、さらに速度を上げていた。
「アンタから死ね!!」
少女は地面を抉り飛ばしながら巨腕を下から突き上げる。それを斧で防ぐが、ルーデリアは斧の防御ごと空中に投げ出させれてしまう。
「ぐぅ……力強すぎんだろ!どっからそんな力が出せんだ……よ!!」
ただルーデリアはただではやられない。空中で体勢を整えて少女へ向けて斧を振り下ろした。ズドンッ――と周囲に振動と轟音を響かせる。
「ねぇ痛いよ……私はあの人と話があるんだから抵抗してないで早く死んでよ。こうやってお願いしてるのにどうして死んでくれないの?!」
少女が腕を払うとルーデリアはまた空中へと投げ出される。
「人間ってのはな?お前らみたいに死に関して無頓着じゃないんだよ!」
ルーデリアは諭すように空中で少女に話しかける。ただその言葉が届いているとは思えない。
「そういうことだ」
次はレインが背後から少女の背中を蹴り飛ばそうとすふ。エリスと似た背格好の子供を蹴るのには抵抗があるが、この子は明らかに魔王だ。そんな事は言っていられない。
「〈形態変化:鱗翼〉」
レインの蹴りが命中する直前に黒い鱗が大量に集まって形作られた翼が少女の背中から突き出て来た。その鱗は1枚1枚が剣先の様になっている。こんなものに蹴りを入れれば逆に脚が貫かれる。
それを瞬時に直感で理解したレインは蹴りを止める。そしてすぐに一歩引いて距離を取る。
「ああ……本当にイライラする。君を殺すとあの御方の事が分からないから殺せない。でもお前はさっさと殺したい……邪魔だから。一緒にいるから本気でやると2人とも殺しちゃう。もうやめてよ……イライラするのって疲れるから嫌なんだ」
「お前がやめろってんだよ!!さっさとそこら中にいる悪魔どもを引き連れてあっちの世界に帰れってんだ」
空中にいたルーデリアは落下の勢いを追加してもう一度斧を振るう。今度こそ少女の巨腕を斬り落とすつもりで全力を持って振るった。
「……だからアンタを……アンタをすぐに帰って来れないように本気で遠くにぶっ飛ばしてやる」
少女は肥大化した右腕をさらに硬く握る。そして小さく呟くように詠唱を行った。
「〈形態追加:超巨腕・剛腕・空撃・穿撃〉!!」
「なっ?!」
少女の右腕はもはや十数メートル級巨人のような大きさの腕となる。少女の身体とあまりにも不釣り合いで気色悪さすら感じる。
しかも少女はその腕を軽々と持ち上げて斧を振り下ろしながら落下してくるルーデリア目掛けて突き上げる。
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