第302話
その光景に防壁に向かって突き進んでいた悪魔たちの動きが鈍る。そこに間髪入れず傀儡の天使たちの魔法攻撃が雨のように降り注いだ。
「ナンだコイつは?!」
その言葉を発した別の悪魔もレインの周囲を追従するように浮遊する刀剣に斬り裂かれた。この一手だけで十数体の下級悪魔が死んだ。
「〈傀儡〉……で、傀儡召喚」
そしてその十数体の悪魔が傀儡となった。姿も大きく変わらない。人間の子供のような背丈、真っ黒な影に包まれたような色の肉体、小さな捻れた2本のツノ、表情の見えない漆黒の頭部からは赤い瞳が覗いている。武器も持っている個体もいれば、鋭い爪を突き出している個体もいる。
傀儡の兵士―天使の対となる傀儡の兵士―悪魔が加わっていく。アルティが作ったレインを鍛え、魔王を継承するための儀式が終わっているせいで、これまで視界に浮かび上がっていた説明が出てこない。
だから正確に何体の傀儡が加わったのかまでは分からない。でもアスティアが全て管理してくれているから後で聞ける。今はとにかく敵を減らし、こちら側の傀儡を増やす事のみに集中する。
◇◇◇
レインが黒の
場所はテルセロの西側に位置する元大地の国『ヴォーデン』の領土だった場所だ。巨大な山と昔からある謎の巨石に挟まれた幅数百メートルの渓谷に防衛線が敷かれていた。
渓谷の先にはレインたちが対峙したものと同じような巨大なダンジョンの入り口があった。白い魔力が渦を巻き、青白い雷がバチバチと音を立てている。
先程から噴出している魔力の量がどんどん増えている。ここも間も無く崩壊し、その内部からモンスターが大量に解き放たれるだろう。
そんなダンジョンを防壁の上からボーッと眺めている者がいた。
「…………白…と言うことは……アイツが出てくるんだろうなぁ……はぁー……嫌だなぁ」
「アルティさん?先程から何をぶつぶつ言っているのですか?気分が滅入るんですけど?」
防壁に座り、足をプラプラさせながら何かを小声で呟き続けるアルティにカトレアが問いかける。ここに配置された超越者はカトレアだった。同じくそのカトレアに匹敵する謎の魔道士ということでアルティもここに配置された。
「いや……なんか嫌な感じがするなぁってね。私たちの他に強い奴はいないのかい?」
「レインさんが派遣して下さった傀儡が1万体おりますが?」
「それは別で。アイツらは命令に服従し過ぎてるから肝心な所で優柔効かないんだよね。人間なら色々と空気を読んで判断してくれるじゃん?」
「それはそうですね。こちら側の戦力はSランク覚醒者が15名ほどAランク以下の魔法系覚醒が数十名おりますね。あと『雷斧の神覚者』と『翠嵐の神覚者』の2人もここに配置されてますね。
他の高ランクの覚醒者や兵士たちは後方の開けた平原にある要塞都市にて我々が突破された際の援護として待機してますね」
「ふーん……称号は大層な感じだね。彼らが役に立ってくれればいいんだけどね」
「2人とも女性です」
「え?!それ本と」
「ご報告申し上げます!」
2人の何の気ない会話に伝令役の兵士が割って入る。2人の前に膝をつき頭を深く下げて声を張り上げた。
「どうしました?」
「黒の
黒の
「了解しました。後方の支援部隊にも覚悟を決めるように伝えなさい」
「ハッ!」
2人は物凄い速度で防壁の階段を駆け降りる兵士の背中を見送った。
「レインさんの相手は悪魔ですか。悪魔の騎士や公爵なら問題ないでしょうが、悪魔の王クラスが混ざっていると面倒ですね」
「………………悪魔……か」
「どうしたんですか?」
黒の
「いやっ……いやぁー……とにかくここを早く終わらせてレインの所へ行こう」
アルティは立ち上がりダンジョンの方を見た。それと同時にダンジョンの方からガラスが割れる音がした。他の全てのダンジョンと同じだ。
「そうですね。ではさっさと終わらせましょうか」
早く終わらせてレインの元へ行く――この言葉にはカトレアも納得する。そして崩壊を始めたダンジョンに手のひらを向けた。
「ダンジョンが崩壊します!!総員!戦闘準備!合図で攻撃魔法を叩き込め!!」
「「了解!!」」
覚醒者たちの覚悟に呼応するかのようにバリンッ!――と大きな音を立ててダンジョンが崩壊した。
そして周囲に影を落とす巨大なモンスターがダンジョンの奥から列を成して歩いて来た。
「きょ、巨人だ!モンスターは巨人族だ!作戦通り魔法を叩き込め!近付かれたらこんな防壁なんて簡単に破壊されてしまう!攻撃開始!!」
防壁の上に並んだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます