第303話
すぐにドンッ!――と大地が揺れるような衝撃が起きる。この場所で列を成す巨人が避けられる隙間はない。全ての魔法が最前列を歩く巨人に直撃した。
「やった……か?」
「攻撃を続けろ!あれぐらいの攻撃で巨人をやれるものか!次は氷雪系だ!放て!!」
司令官の覚醒者が言う通り、すぐに舞い上がる土煙を巨人たちは突破してきた。最前列の巨人は怪我こそしているが、ゆっくり再生しながら突き進む。
覚醒者たちは次に氷雪系と雷の魔法を放つ。これもすぐに強い振動と共に爆発音を響かせる。それでも巨人は止まらない。速度を落とすことも無い。
「クソ……最前列すら倒せないだと?まだ後ろに武装した奴にゴーレム、サイクロプスとダンジョンにいる巨人種系モンスターが全部並んでるんだぞ!攻撃を続けろ!!」
SランクとAランク覚醒者の魔法攻撃では最前列の巨人に血を流させる事しか出来ない。今後も続ければいつかは倒せるかもしれない。しかしそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
巨人は渓谷の横幅いっぱいに6列で並んでいる。その後ろには今もずっとダンジョンから巨人が列を成して歩いている。武装しているさらに上位の巨人たちの数も増え続けている。最前列の非武装の巨人すら倒せていない。
覚醒者たちは自分が生き残れる未来を一切想像出来ないままありったけの魔力を込めて魔法を放とうとした。
その時、防壁上に並ぶ覚醒者たちの真横を白い雷撃と黒い雷撃が通過した。その2つの雷撃は渦を巻きながら突き進み最前列を歩く巨人の頭を消し飛ばした。
「ただの巨人に狼狽えるな!数が多いだけでダンジョンでよく見かけるモンスターだ!恐れる必要はない!!巨人は雷系統に弱い!扱える者はタイミングを合わせて放ちなさい!」
雷撃を放ったのはアルティとカトレアだ。そしてカトレアは誰も聞いた事がないような声色で叫ぶ。無数の巨人たちを前に恐怖で心が膝をつきそうになっていた覚醒者たちを奮い立たせる為だった。
巨人は確かに強い。Aランクダンジョンのボスとして君臨するモンスターだ。それが群れを成して迫っている。しかし群れているだけで巨人に変わりはない。確実に1体1体倒せばいい。
「アンタいい事言うね。じゃあさっさと殲滅するよ!」
アルティはもう一度黒い雷撃を放つ。それに合わせてカトレアも白い雷撃を放ち、周囲にいた覚醒者たちも各々が扱える雷系統の攻撃魔法を放った。
◇◇◇
「他の所はもう戦闘が始まってるみたいだね」
「そうだな」
他の場所と同じように作られた防壁の上にシエルとメルセルが立っている。2人とも空中での高速戦闘が得意という点でまとめられた。
そしてシエルとメルセルの遥か前方に見える青い
「あ……やっぱり来たね」
「合図出すぞ?」
メルセルは黒い翼を展開し、上空にその一部を飛ばした。その羽は一定の高さまで上昇すると爆発し、黒い光を周囲に落とした。
それがダンジョン崩壊の合図だった。これを受けた覚醒者たちは攻撃準備を始める。あそこから味方が出てくる事はあり得ない。他のダンジョン同様、崩壊し、モンスターが確認され次第一斉に攻撃を開始する。
その時、バリンッ!――と甲高い音、ガラスのコップを落としたかのような音が響き渡った。
「来るぞ!」
覚醒者の1人が叫んだ。
「総員!攻撃用意!」
覚醒者たちをまとめる司令官が背後に並ぶ覚醒者たちに指示を出す。攻撃魔法は放物線を描き巨大ダンジョンと地面の境目を狙って放たれようとしている。
「待て!!敵は空だ!」
青い
地上を歩くモンスターは全く見当たらない。モンスターは他の巨大ダンジョンと同様に空を様々な色で埋め尽くしていく。そしてそれらを迎え撃つ覚醒者たちには絶望の表情が広がっていく。
空を飛べる覚醒者がそもそも少ない。浮遊=魔法使いだ。ほとんどの覚醒者はその両方を高い水準で扱うことは出来ない。優秀な魔法使いであっても空を飛ぶモンスターを狙い撃つのは至難の技だ。
しかし空を高速で飛ぶモンスターの多くが鉤爪による近接戦と魔法やブレスによる遠距離攻撃を使い分ける。
この時点で戦力差だけでなく相性も最悪だと多くの覚醒者が悟ることとなった。
「何だよ……空飛ぶだけの奴じゃないか。俺が先に行くからシエルは勝手に絶望して負けを確信してる馬鹿どもを叩き起こしてこい」
「了解ー」
メルセルはシエルと短い会話を交わし飛び立った。メルセルは一瞬の間に翼を有翼種モンスターに近付いた。そしてモンスターが反応する前に冥翼の羽を大量に放った。
その黒い羽はモンスターが反応できない速度で命中する。すると羽が命中したモンスターは一気に地上へ落下した。
「俺の翼はそれ自体が重力を持ってんだ。1発でも当たれば空飛ぶ奴はバランスを崩して飛べなくなる。どんどん落として効率よく狩ってやるよ。お前ら!さっさと魔法を叩き込め!」
「「了解!!」」
メルセルの声に反応した覚醒者たちは一斉に魔法攻撃を再開した。空を飛ぶ事で得られる最大の力を失った有翼のモンスターは、その魔法攻撃を前に何も出来なかった。
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