第301話
その声に合わせるようにレインもスキルを発動する。レインが連れてきたのは当然主力である天使たちだ。傀儡長アスティアを筆頭とした熾天使、大天使と天使たちからなる2万体の天使だ。さらに3体の龍王もいる。
ヴァルゼルたち地上戦力1万体はカトレアの方へ行っている。魔法戦を得意とするカトレアは接近戦に弱い。だからそちらの方に行かせた。龍王白魔だけは魔法が扱えるという理由でそちらに行ってもらった。
残りの2万体の傀儡たちも各防衛線の拠点に配置させている。何か起これば囮として使えるようにした。少しでも死傷者を減らすための措置だ。もし足りなければ現地調達だ。
レインのスキルの特性は殺害したモンスターを傀儡にすること。時間を稼げば稼ぐほどほぼ際限なく戦力を増強できる。この絶望的な状況で時間だけが唯一人類の味方となった。
大地の裂け目に発生したダンジョンにヒビが入る。この場に似つかわしくないガラスが割れるような音が響く。
「来るぞ!!総員!崩壊と同時に魔法を叩き込め!この防壁に近付かせるな!」
「「「了解!!」」」
どんなモンスターが溢れ出てくるか分からない。そんなのをいちいち確認などしていられない。あそこから出てくるのは全て敵だ。確実に殺さなければならない。
そしてその時は来た。地面が一度激しく揺れ、ダンジョンが崩壊する。抑え込まれていた黒い魔力が空へ向かって噴き出す。
その魔力の波に乗るようにモンスターが一斉に出現する。数km先に突然、漆黒の壁が出来上がったのかと思うような勢いで奴らが出てきた。
「モンスターは悪魔種と推定!魔法攻撃を開始せよ!!」
覚醒者たちをまとめる指揮官が叫ぶ。地面から一気に出現したのは悪魔であると叫び、攻撃開始の合図を出した。モンスターの出方などいちいち探っている場合ではない。
レインたちの横に並ぶ覚醒者と後方に控えていた覚醒者たちが一斉に漆黒の壁に向けて魔法を放った。その魔法に風の魔法を扱える者が魔法を上乗せして射程を延ばす。
この方法では射程は延びるが精度はかなり悪くなる。しかし狙う必要はない。それほどの数の悪魔が出現した。正確に命中させるために接近させるなど言っていられない程の数が押し寄せてくるのが分かり切った状態でそんな悠長な事は出来ない。
「レインさん……まだ行ってはダメですよ?この魔法攻撃が終わってからが私たちの出番ですからね?」
「分かってるよ。……でもあれが悪魔だってよく分かったな」
巨大ダンジョンと防壁の距離はかなり離れている。近過ぎるとほぼ意味がない。レインでも視認が難しい距離をレインよりもランクが低い覚醒者たちはしっかりと認識しているようだった。
「あの者は〈観察〉や〈遠視〉のスキルがあるようですね。私も持ってますが、奴らが悪魔であるのは間違いないでしょう。だって黒いですし。ただ数が多いだけで今のところは下級悪魔……と中級悪魔が混じっている程度です……かね。
ただそれだけとは思えません。そのうち上級悪魔や悪魔の騎士、軍団を指揮する総裁級、公爵級、悪魔の王すら出てくる可能性もあります」
「そんな沢山の種類よく覚えられるな。……もうそろそろ着弾するな……で、ちなみにどの悪魔がどれくらいのランクに相当するんだ?」
「下級悪魔はFランクの覚醒者が数人で倒せます。Dランクならば楽に倒せるでしょう。上級悪魔はCランクが数人必要です」
「上級なのにCランクでいいの?」
「はい、上級までは数が凄まじく多い中での階級なのでそこまで当てになりません。上級くらいから言葉を話すタイプも出てきますが、警戒が必要なのは悪魔の騎士からで、一気に個体数も減りますが強さも段違いに上がります。
悪魔の騎士を安全に討伐するにはAランク1人とBランク数人が必要です。我々はそこまで気にしなくてもいいかもしれませんけどね。ただ最高位の悪魔の王になると神覚者のパーティーが必要になるでしょう」
「…………まあ何とかなるさ」
「覚えるのと考えるのを諦めましたね?まあいいです。どうせ全て倒さなければならないんです。種類なんていちいち覚える必要はありませんね。魔法攻撃も着弾しますね。……ではそろそろ代わります。どうかこの子をよろしくお願いしますね」
「任せろ」
「…………は?別に守らなくていいぞ?」
桃色の魔力だったクーデリカから紅蓮の魔力が一気に溢れ出す。これがルーデリアに変わった事を示すものだ。
「お前って勝手に突っ込みそうだからな。横で並んで行くぞ。……いや近過ぎたら俺も一緒に両断されそうだからちょっと離れよう。雑魚は防壁に行かせてもいいだろうけど、強そうなのはちゃんと殺せよ?」
「勝手にしろ……あと指図するな。それくらい理解してる」
「というわけだ。阿頼耶は俺たちの背中を守ってくれよ?頼んだぞ?」
「お任せください!この命に変え……いえ全身全霊で遂行いたします!」
命に変えても……この言葉は使わないようにした。誰が生き残れるか分からない最後の戦争。だからこそ自らを犠牲にするような言葉は慎むようにした。
「よろしく」
「はい!」
3人は覚悟を決めた。ルーデリアは斧と長剣を取り出し、レインと阿頼耶も両手に剣を持つ。そして1回目の魔法攻撃が終わると同時に防壁の上から飛び降りた。
「神覚者様が突撃なされた!各員は左右に攻撃を集中させよ!絶対に間違って当てるなよ!神覚者様が正面に集中出来るように援護せよ!」
司令官の男の指示でレインたちの頭上を飛んでいた魔法が綺麗に分かれていく。完璧に統制が取れた動きだった。その分かれた魔法攻撃の合間を縫うように傀儡たちもレインに追従する。
ダンジョンから溢れ出した悪魔は翼を持つタイプと地上を闊歩するタイプがいた。空の悪魔はレインたちには対応が難しい。
だから天使たちに叩き落としてもらい、可能ならばレインがトドメを刺し傀儡にする作戦でいく予定だ。ただ闇雲に傀儡にしても意味がない。選別は必要だ。その辺はアスティアが上手くやってくれるだろうとレインは期待していた。
「ゲヒャヒャッ!!ようやく呪縛ガ解かれた!アノ憎き神を葬ル前ニ下等な人間ドモで腹ごシラエだ!野郎ドモ!いげゃッ!!」
ダンジョンから飛び出し、先頭を走っていた言葉を話す悪魔は正面から突っ込んできたレインの蹴りを顔面に受ける。悪魔の頭はボールを蹴り上げた時のように遠くへ飛んでいき、激しく痙攣する身体だけがその場に残った。
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