第297話
「クソ!ダンジョンの入り口も無くなってる!どうしたら」
「レインさん落ち着いてください!ダンジョンが消滅したなら内部で生きている者は必ず外に弾き出されます。ここではない別の場所に飛ばされた可能性もあります。とにかく近くから探しましょう!」
エリスがいなくなった事に狼狽えたレインをカトレアが宥める。既にシエルたちもエリスを探す為に動き出そうとしている所だった。
「そ、そうだな。傀儡の一部も使って探すぞ。俺はあっちの方から探して行くから見つけたら教えてくれ!」
「何を探すの?」
「エリスだよ!話聞いてなかったのか?!」
「ご、ごめんなさい!でも私はここにいるよ?」
「………………はい?」
今まさにそれぞれの方向へ向けて駆け出そうとしていたレインたちの間にエリスが立っていた。何故みんながこんなに慌てているのか分からないといった表情を浮かべてキョトンとしている。
「エリス……良かった。エリスだけ出てきてないと思って慌てて探そうとしてたんだ」
「そうなの?ごめんなさい……あの天使さんと少しお話をしていたの。私にも出来ることがあるって教えてくれたの!」
「出来ること?一体何を教えられたんだ?」
「それは……今は内緒!でも私も含めて誰も傷付かない事だから!お兄ちゃんにはお兄ちゃんにしか出来ない事があるんでしょ?私しか出来ない事が私にも出来たの!」
エリスは瞳を輝かせ興奮気味に話す。何か余計な事をあの天使に吹き込まれたのかもしれない。でもこのエリスの笑顔は本物だった。自分にしか出来ない事があるというものに憧れていた面もあったエリスはいつも以上に嬉しそうだった。
この笑顔を曇らせてまで否定する事は出来ない。落ち込むエリスの姿なんて見たくなかった。
「……分かった。ただ絶対に1人で動いちゃダメだからな?ステラでもいいし、カトレアとかでもいいから街の外に出るなら大人と一緒に行動する事!」
「はい!でもお家でできる事だから大丈夫だよ!」
レインの話にエリスは手を上げて元気よく返事をする。そして天使に言われた出来る事というのは家でやる事らしい。外を出歩かないのなら多少は安心だとレインは胸を撫で下ろす。
「なら帰ろうか。まだまだやる事はいっぱいあるからな」
「うん!私も頑張るよ!」
◇◇◇
「レイン様!レイン様!!空に光り輝く城が出てきてます!!」
レインたちがテルセロに到着した時だった。街の入り口にシャーロットと数十人の兵士たちが待っていた。そしてレインが帰ってきたと気付いたシャーロットが開口一番そんな事を言い出した。
「あー……あれは神様の軍勢なので気にしないでください。そのうち沢山の天使が降りてくると思いますよ」
「か、神の軍勢?沢山の天使?……気にするなと言われましても……あの……その……厳しいと言いますか……」
「シャーロットさん、僕たちがエリスちゃんの訓練のために入ったダンジョンが特殊ダンジョンでした。そこにいたので神の使いを名乗る天使たちで、あの城の事とこれからの戦争について警告を受けました。
まあほとんどレインさんが話していた事と同じですね。元々信じていたけど、さらに信憑性が増したって感じですね」
シエルは何が起きたのかを端的に分かりやすくシャーロットに説明した。
"お前……そんな頭いい会話できるのか?お前は俺と同じタイプだと信じてたのに……"
「……レインさん、物凄く失礼な事考えてない?」
「お前って頭いい部類の人間だったんだな。俺と同じタイプだって信じてたのに……残念だよ」
「本当に知らないよ」
「という事は神々の軍隊が私たちの味方をしてくれるという事ですか?!」
「味方はしてくれると思います。でもどうやっても魔王たちの侵攻が開始される時には間に合わない。最低でも数十日長ければ数年も人間だけで戦わないといけない。
それに神様を完全に信用するっていうのも危ないと思う。僕たちはやるべき事をやらないと」
「承知致しました。神々の件も他の者たちに伝えておきます。余計な混乱を招かないように配慮しながら伝えねばなりませんね」
「その辺の説明はお願いします」
レインが言えるのはこれくらいだ。シエルが全て説明してくれたおかげで乗り切れた。
「じゃあ僕たちもとりあえず帰るね。準備してダンジョンに魔法石取りに行かないといけないし。でもまた助けが必要なら言ってよ」
「ああ……ありがとう」
ここでレインはシエルたちと別れて帰路につく。色々あって疲れた。特にエリスがいないと思って焦った時の精神的疲労が尋常じゃない。
色々やる事が残ってるが、とりあえず寝たい……そんなことしか考えられなくなっていた。
「おかえりなさい、ご飯も出来てますよ。………何かありましたか?」
家にはすぐに到着する。いつものようにアメリアが出迎えてくれた。そしたレインの様子を見て、すぐに異変を察知し何かあったのかと聞いてくる。もはやアメリアの前で隠し事は出来そうにない。
「色々あったんだよ。カトレアから聞いてくれ」
「かしこまりました」
「あと明日からもダンジョン回らないといけないから朝起こしてくれる?……で、ダンジョンに家忘れたからまた同じようなの探しててほしいんだ」
「家忘れたんですか?!」
「うっかりしちゃって」
「うっかりで1億もする家を忘れないでください。でも色々あったなら仕方ないですね。明日の朝起こすのと家の件は了解しました。
レインさん、今日もお疲れ様でした。無事に帰って来てくれただけでも本当に良かったです。明日もどうかご無事で……」
アメリアはレインの手を握ってそう話す。魔王たちの侵攻が始まる事が分かってからアメリアは遠慮しなくなっている。だが、カトレアもアメリアに関しては何も言わない。
「ああ、頑張るよ。カトレアもよろしくな」
「はい、もちろんです」
魔王侵攻まで残り1年もない。この幸せを守るためにダンジョンの攻略と防壁の建設を急がないといけない。明日からも、これからもずっと忙しくなりそうだ。
そんな忙しい毎日を過ごしていると1年という歳月は瞬き1つする間に過ぎ去ってしまう。
――――1年後――――
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