第295話




 レインたちの前に並ぶ天使は頭を下げる。敵意はないと判断したレインは武器をしまった。ここでシエルやカトレアたちも合流し、全ての龍王や傀儡の天使たちも集合する。万が一この天使たちが攻撃を再開しても一瞬で殺せるように傀儡たちに最大限の警戒を命令をする。


「お前たちは何者だ?とりあえずエリスに怪我させた奴だけは殺すから前に出ろ。話はそれからだ」


「お兄ちゃん!ダメ!私は自分の転んだの!この人たちが家の中に出てきたからビックリして転んで机の角でゴンってなったの!」


「ならいきなり出てきたコイツらが悪いだろ?」


 レインがしまった刀剣が数本再び背後に召喚され浮遊する。その刀剣の切先は全て黄金の鎧を着用している天使に向けられている。今のレインなら手を使わずに刀剣を高速で操って攻撃できる。


「でもこの人たちは私を治療しようとしてくれてたんだよ!だから殺すなんて怖い事言っちゃダメ!」


 エリスはレインの手を引っ張って制止する。レインはこの天使たちに対して誤解していると必死に伝えようとする。


「エリスさん、とにかくその傷を治しましょう」


 合流したカトレアがしゃがみ視線を合わせてからエリスの頬に触れ、魔法を発動する。淡い緑色の光がエリスの頭部を包み込む。するとエリスの額から流れていた血はすぐに消えていき、裂けたような痛々しい傷もすぐに治っていった。


「カトレアさん……ありがとう」


「これくらいお安い御用です。……レインさんも落ち着いてください。このダンジョンは特殊ダンジョンの中でも特に異質だと思います。この者たちならば何か知っているのではありませんか?」


 カトレアは警戒しつつもこちらを黙って見ていた天使たちに視線を向ける。


「はい、我々はあなた方にこれから迫り来る危機を伝える為にここに来ました。一定の強さを持つ者がゲートを通過した際にここに飛ぶように奴らのゲートに細工を施しました。いきなり姿を現し驚かせてしまったことは謝罪致します」


 中央に立つ黄金の天使が再度頭を下げる。他の天使たちも同じように頭を下げている。先程レインが思い切り蹴飛ばした天使も無事だったようで戻ってきている。


「それはもう良いよ。こっちこそ話も聞かないで攻撃して悪かった。それで……迫る危機っていうのは魔王たちの事じゃないのか?すごいダンジョンが何個か出てきたけど……」


「さすがです、魔を統べる者よ。既に知っておられるのであれば警告の必要はございませんね」


「それよりお前ら何者だ?」


「はい、我々は神より遣わされた神軍兵です。そして魔を統べる者が仰った魔王の勢力が進軍を開始致しました。彼らは我々の世界である天界ではなく、あなた方人類が住む地上界を戦場に選びました。

 ご存知かもしれませんが、彼らは我々との戦争を再開する前に邪魔となる人類の絶滅を行うと画策しております」


 黄金の天使が淡々と話す。レインたちはその話を受け止める。既にレインが各国の代表者の前で話したことだからだ。


「何でここでやるんだろうね。そっちで勝手にやってくれればいいのにさ」


 シエルが至極当然な疑問を天使に投げ掛ける。神の軍を相手にしてもいつもと変わらない調子だった。


「風の寵愛を受けし者よ。その質問の答えは簡単です。

 彼らの世界である魔界は魔の者の為に構築された世界、そして我らの世界である天界は光の者の為に構築された世界なのです。

 そして地上界はそのどちらも受け入れる事が可能な世界と言えばご理解いただけると思います」


「なるほどね」


 "なるほど?…………全然分からん"


「で、やっぱり魔王たちの目的ってその3つの世界を制覇するって事なのか?」


「表向きはそうなっております。しかし彼らは殺戮の為に創造された存在です。戦いの為ならば自らの肉体すら顧みない破壊の化身です。故に戦う事ができるのならば目的は関係ありません。戦い、殺戮する為に目的を作り上げている……そのような者たちです」


「マジで……どうしようもない奴ばっかりだ……な」


 レインは呆れてしまう。しかし今や自分もそんな魔王たちと同じ領域にいることを思い出す。先ほども怒りで自分をコントロール出来なかった。魔王への悪口は若干自分にも刺さる事を自覚した。


「人類の力のみでは彼らに対抗するのは極めて困難です。故に我らが主である神々は軍を出発させました。間も無く空に天界の城が出現します。なのでそこへの攻撃は控えられますようお願い申し上げます」


「すごい!じゃあ神様の軍隊も僕たちに協力してくれるって事だよね!」


 シエルの言葉に他の覚醒者たちも笑みを浮かべる。人類だけでなく神の軍隊が味方となれば心強いなんてもんじゃない。しかし1人だけ冷静な人がいた。


「そ、それは……間に合うの?」


 エリスがそう問いかける。その質問は覚醒者たちから笑みを奪っていった。


「……かつての女神の子よ。我らの主はかつての大戦で大きな傷を負いました。その後、傷を癒す為に天界に戻る事となったのです。

 その際に3つの世界の行き来を禁ずる結界を張ったのです。彼らはそれを長い年月をかけ自力で破壊したようですが、その結界を構築した我らが主であってもその結界を解くのには時間を有します」

 

 

 


 

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