第294話
◇◇◇
「ねえ……本当にモンスターいないよ?どうなってんの?」
シエルがそう呟く。あれからオーウェンとエリスの勉強会は家の中で続いている。オルガにその家の警護を任せて機動力のあるレイン、カトレア、シリウスの3人が空を飛べる龍王の背に乗って周囲を散策する。シエルは自分で飛んだ方が速いからそうしてもらっている。
そこから2人1組で周辺をウロウロしてモンスターを捜索している。モンスターが分かれば系統も分かるし、ボスがどんな奴かも予想が出来るらしい。どんな奴らか理解できれば対策も可能らしく、せめてどんなモンスターかだけでも確認したいらしい。
全てレインには難しい話だから任せている。そろそろそういう話も参加しないといけない事は分かっている。分かってはいるが、理解できない話を聞き続けられるほど頭の方の体力がない。だから途中で意識が抜けてしまっている所もあって、その話題について意見を聞かれると詰む。だったら最初から分からないから何をして欲しいのか言ってくれた方が楽だ。
が、しかし……。
「本当に見つからないんだけど!このまま見つからないなんて事になったら僕たち帰れないよ!」
「うるさいなぁ……とりあえずこの辺全部吹き飛ばせばそのうち出てくるだろ。白魔……今度はあの辺にブレスだ。放て」
龍王白魔はレインが指差した方向に頭を向ける。そして魔力を口元に集め、即座にブレスを放った。黒と白が混ざり合う自身の身体の色と同じ色のブレスだ。普通の炎と何が違うのかは知らない。
白魔の放ったブレスは変わらず続く砂の大地に命中し大爆発を起こす。その爆発で舞い上がった砂が空を覆い尽くし辺り一面を夜へと変えていく。
「何か……いたか?暗くてよく見えない」
「僕も」
「とりあえず次はあの辺だな。ほら放て」
こうやってレインは手当たり次第にブレスを放ち続ける。レインの横で控える天使たちも龍王のブレスが命中していない場所に向かって破壊魔法を放っている。レインの視線の先には焼け焦げた黒い大地が広がっていく。
その時、レインたちの後方からもズドンッ――と大きな振動が起きる。
「カトレアか?」
「そうだね。鐘の音が鳴ってたからあの強い天使でも召喚したんじゃない?カトレアって我慢するの苦手な性格だから天使召喚して手っ取り早く終わらせようとしてるね」
「まあそこには俺も賛成だ。こんな所でダラダラしてる暇はないんだ。今度はあそこと……あそことあそこにブレス。本気でやれよ。全部吹き飛ばせ」
龍王がもう一度ブレスを放とうとした時だった。その龍王だけでなくレインとシエルも同時に、新たに出現した魔力に反応する。その魔力はエリスたちの方からいきなり出現し、今の漂っている。
レインは心臓を締め付けられるような感覚を覚えた。まさかエリスたちがいる場所の地下に潜んでいた?オーウェンとオルガがいるとはいえ不意打ちに対応出来るだろうか。レインはシエルの呼びかけも無視し、龍王の頭を足場にして全力で蹴って飛んだ。
そこまで離れていなかったおかげですぐに着いた。レインが着地した衝撃で周囲に砂が舞い上がる。新たに出現した魔力の正体はそこにいた。そいつの前にいたエリスは尻餅をつき、そのエリスの前にオーウェンとオルガの2人が守るように立ちはだかっている。
エリスを守ろうとしているオーウェンたちには感謝の言葉もないほどだ。
そんなエリスたちの前にいるのはレインも見たことのある奴だ。しかし色が違う。
白銀の鎧を身に纏い、純白の翼を背負い、鎧と同じ白銀の槍を持っている天使が8体、その中央には武器を持っていない黄金の鎧を身に付けた一際強い魔力を持つ天使がいた。その黄金の天使はエリスに手を伸ばそうとしていた。
「エリス!!」
「お、お兄ちゃん?!」
レインの呼びかけに振り返ったエリスの顔を見てレインは身体を震わせる。何があったのかは分からない。
しかしエリスの額から流れている赤い血を見たレインは我を忘れるほどの怒りを覚え、刀剣を強く握りしめる。
「お前らぁ!!エリスに何しやがったぁ!!!」
レインは中央に立っていた黄金の天使に斬りかかる。天使たちは全身鎧を着ていて顔は見えない。が、レインの動きに黄金の天使は反応できていないように見える。なら好都合だとレインは遠慮なく天使を斬り殺そうとする。
しかし白銀の天使が間に入り込み黄金の天使を守る動きをする。槍を構えてレインの一撃を受け止めた。
「邪魔をするなぁ!!!」
レインはすぐに距離を取り、天使が持つ槍に全力の蹴りを入れる。天使の持つ槍は大きく歪み、蹴りはそのまま天使の腹部を捉えた。
その天使は後ろに大きく吹き飛ぶ。その光景を見た他の天使たちは慌てたように槍の切先をレインへ向ける。
と、同時に天使たちの後方に龍王白魔と獄炎が到着した。カトレアの方に行っていた熾天使2体も合流し、天使たちを取り囲む。
エリスたちをここから避難させたら全力のブレスでこの場所ごと消し飛ばしてやる。
レインは黄金の天使を殺すためにもう1度斬りかかろうとする。誰がエリスを傷付けたのかは知らないが、天使たちのボスは絶対に金色の奴だ。配下の天使がやったのだしてもボスに責任を取らせればいい。だが、どうせ皆殺しにするのだからどっちにしろ関係ない。
レインが強く地面を蹴って再度天使に斬りかかる。しかし今度は白銀の天使たちは迎撃しようとしない。
その行動にレインは違和感を覚える。が、邪魔しないのなら好都合だとそのまま斬りかかる。
しかし……。
「魔を統べる者よ!お待ち下さい!!」
「お兄ちゃん!やめて!!」
黄金の天使が突然喋り出し、両手を前に突き出してレインの動きを制止しようとする。エリスもそれに続く。天使の命乞いなど無視するつもりしかなかったが、エリスの言葉には耳を貸さないといけない。
そう感じたレインは黄金の天使の眼前でギリギリで刃を止めた。
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