第289話
「防衛線を構築する為の人員は全て『傀儡の神覚者』レイン・エタニア様が召喚される兵士で補う予定ですが、一部兵士と覚醒者の皆様にも協力を仰ぐ可能性がございます。ただ他の国の皆様は簡易拠点が完成次第、順次国民の避難誘導を行っていただきたいと考えております。
ただ問題は資源です。我が王国からも最大限の鉱石や魔法石を提供致しますが、それでも数が全く足りません。皆様にお願いしたいのは資金と建設用魔法石の提供となります」
「なるほど……まずお聞きするが、なぜイグニスのテルセロを中心とするのだ?その街はそこのレイン殿が住む場所だが、まさかそこに忖度をしたのではあるまいな?
人類を守護する砦の構築ならば我が帝国エスパーダでも可能なのではないか?北部同盟を警戒して建築した要塞もそのまま使えるという利点もある」
発言したのはエスパーダ皇帝ガルシアだった。そして質問内容も至極まともなものだった。
「確かにエスパーダ帝国は世界最強の覚醒者大国です。我々としても最初に案として上がりました。
ただエスパーダ帝国は食料のほぼ全てを他国からの輸入に頼っていますよね?」
「う、うむ……確かにその通りだ」
シャーロットの指摘にエスパーダ皇帝は反論できない。
「敵との決戦は長期間に渡る可能性が高い。武器よりも食料の方が重要です。この世界で広大な穀倉地帯を持っているのは大地の国『ヴォーデン』とエルセナ自治区です。さらにエルセナ周辺には世界で最も広大な『中央平原』もあります。そこも今から手を加えれば来年には田園地帯として活用できます」
「なるほど……中央平原か……。そしてそこにイグニス王国には世界有数の鉱物資源がある。確かにイグニスを中心地とするのが効率的か……」
「はい、さらに言うならば今回出現した巨大ダンジョン及びSランクダンジョン全てから最も遠い場所にあるのが我が国です。我が国に存在していたSランクダンジョン『魔王城』はレイン・エタニア様が単騎で攻略致しました」
「な、なんだと?!」
実際は攻略したというよりは傀儡を手に入れに行ったが正解だ。ただそこまで説明するつもりもないし、説明したって理解は難しい。
だからシャーロットにも攻略完了したとだけ話した。色々あって魔法石の回収は出来なかったが、その分数万の傀儡を得たと話をしてある。
「その話は人類が生き残ってからにしましょう。まずは……」
そこからシャーロットを司会とした話し合いが続く。まずは何処に要塞線を設置するのかだ。
国境に沿う必要がなくなるが、各地の要所は各国の機密となる。それを易々と教えられるはずがない。自国の弱点を他のすべての国家に漏洩するようなものだ。当然難航するかと思えた。
しかしシャーロットの交渉術で易々と突破した。難航するかと思われた要塞線の配置を決めていった。
「ご協力感謝申し上げます」
「世界の存亡が掛かっておるのだ。こんな時まで領土を主張して何になる?それに今は1分1秒が惜しい。ここでの時間の経過は人類滅亡の可能性を高め続けているだけだ」
「ご理解に感謝します。要塞線の内部に避難する人間の総数は1億人前後となるでしょう。
となれば要塞防衛線は最低でも面積約8万㎢、総延長は3,000km以上と途方もないものです。有史以来これほどの要塞線が構築された事はありません。さらにはこれを1年で完成させ、運用可能としなければなりません」
「それが可能なのでしょうか?」
「可能かどうかではありません。やるしかないんです。既に我が国が出せる全ての魔法石を南西方面に輸送中です。ヘリオスに出現した緑色の魔力を放つ
皆さまから援助していただいた魔法石が届き次第、順次建設範囲を広げていきます」
「了解した」
今後の方向性が決まろうとした時だった。レインたちの案に賛同した者だけがここにいる。それでも思うところがある者も必ず出てくるだろう。
「その前に私からレインさんに言いたい事があります!」
レインたちから少し離れた場所に座っていた女性が立ち上がった。レインを睨みつけ、そしてレインに向かって歩き始めた。
「……何でしょうか?」
既に話し合いに置いていかれかけて疲れているレインは機嫌が悪い。返事も愛想ないものとなってしまう。周囲が何事なんだと焦燥感に駆られる中、その女性はそんな周囲を気にも留めずレインの元まで歩いた。
「私はリルマ!貴方が攻め滅ぼしたセダリオン帝国に暮らしていた者です!」
セダリオンという単語に各国の代表者たちは眉を顰める。知っている者は知っているが、知らない人はその言葉に興味を持つ。エルセナ王国とセダリオン帝国の間で起きた戦争。
セダリオン帝国は大国にも届き得る兵力を持っていたはずなのにエルセナ王国によって滅ぼされたという風に広まっていた。
戦争終結後、セダリオンはエルセナに全土併合、そしてそのエルセナからの希望により現在はエルセナ自治区としてイグニス王国の租借地となっている。
「それで?」
「そ、それで……ですって?世界の多くは騙されているかもしれませんが私は騙されない!貴方が帝国に対して攻撃し、兵士を皆殺しにしたんだ!貴方のせいでセダリオンに暮らしていた人たちは一部の地域に移住させられ、兵士を家族を持つ人たちは悲しみに暮れています。
そんな人たちに対して貴方は責任を感じないのですか?貴方はその人たちに対して謝罪しなければならない!大虐殺をしておいて何も罰がないのはおかしいと思いませんか?!」
リルマはレインに対して言い切った。その言葉を受けてレインはゆっくり立ち上がる。
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