第288話
全世界が利害を捨て協力し、対処するという流れを断ち切る者も当然いる。その言葉が叫ばれ会議場は一気に静まり返る。騒然としたり静寂となったり忙しい会議室だ。そしてその叫んだ男へ視線が集中する。
「そうですか。では退室を」
ただレインは淡々している。協力しないと言った者をわざわざ説得する必要はない。勝手にやると言うのなら勝手にやってくれればいい。こちらからは干渉するつもりはない。ただ邪魔をしないのなら……ではあるが。
「皆さまもそれでいいのですか!確かに巨大なダンジョンは出現してますが、それが一気に崩壊?想像を絶する数のモンスターが溢れ出す?魔王?そして対抗策と言っている防衛線もイグニスを中心に作るときた。
誰がどう考えてもイグニスに利益しかない話だ!さっきの話が嘘でも真実でも実行されればイグニスにとって利益しかない!誰がこんな話を信じると言うんだ!あの者の言葉は詐欺師となんら変わりなッ」
その男が言い切る前だった。レインの後ろに控えていたはずのアスティアがその男の後ろに立っていた。転移魔法を用いた移動はレインであっても察知が遅れる。
アスティアはレインを絶対の主君としている。その主君を詐欺師と愚弄した男はアスティアにとっては敵も同然だった。生かす価値のない有象無象の一欠片に過ぎない。
叫んでいた男もアスティアに気付いた。アスティアは身長が2メートルを優に超える漆黒の大天使だ。目の前に立たれるだけでも普通の人間なら萎縮する。
アスティアは背中に背負う大剣を引き抜いて振り上げ、レインが制止する間も無く振り下ろした。
「あ……あ……」
しかしアスティアの大剣はその男の目の前で止まった。その男は座っていた顔中から汗を噴き出し椅子から崩れ落ちた。
「召喚された兵士が……転移魔法だと?」
ここでもアスティアが転移魔法を使う事に対する驚愕の声が上がる。
「我が王を侮辱する事は誰であろうと許さん。貴様は……北部同盟の事務総長だな?ダンジョン崩壊前に死にたくないのであれば早急にこの部屋から退室しろ。そして2度と我らの前に姿を見せるな。もし現れたのなら次はその頭蓋を粉々に砕いてやる」
アスティアは大剣をもう一度振り上げる。アスティアならば言葉の通り本当に殺すだろう。そしてそれを止める者、止められる者はいない。
既に北の大陸に位置する十数ヶ国からなる世界最大の軍事同盟――通称、北部同盟以外の国家はほぼ全てレインに賛同している。反対しているのは北部同盟を代表して参加した事務総長だけだ。
「くっ……後悔することになりますよ!我々は我々だけで自分の国と同盟国を守ってみせましょう!」
そう捨て台詞を吐いた男とその男の関係者が一斉に退室した。北部同盟は全世界の約3分の1が加盟している。その同盟の事務総長が退室すればほとんどがそれに追従する。
だが、これで反対する声はなくなった。ここに残ったのはレインの意見に賛同する者たちだ。
「ここに残ったみなさんは私たちの作戦に協力してくれる……という事でいいですか?」
「「「……………………」」」
会場は無言の肯定で包まれる。中には強く頷く者たちもいた。これで世界の3分の2が味方となった。
◇◇◇
「では次にどこにどのような要塞防衛線を構築するかの会議を行います。どのように構築するかはある程度、案として資料にまとめてあります。それを見ながらイグニス王国の意見として説明致します」
そこから場所が変わった。そこには各国を統治する者たちのみが集められた。あの場所では人数が多過ぎてまともな話し合いは出来ないと判断したからだ。大国と中小国を統治する者たち35名ほどだ。
これから行われる話し合いはより詳細なものとなる。北部同盟以外の人間を全て要塞防衛線の内部に収容する必要がある。民間人は国ごとに、兵士や覚醒者はそのスキルに応じて統合しなければならない。
さらに地形や交通面なども考えて物資の配置を決定し、国境も今だけは消す必要がある。
敵が来るまで1年しかない。それまでの間に全てを決め、全ての準備を完了しなければならない。こんな初期の話し合いくらいはスムーズに行ってほしいとレインは願う。
知識の足りないレインに代わり、ここから先はシャーロットとニーナが協力して話す。
「まずは要塞線の中心地ですが、それはイグニス第2都市のテルセロを予定しております。そこを中心とし周囲に国ごとの簡易拠点を建設していきます。
その簡易拠点から最低でも50km以上離れた地点を防衛戦の外側とします。防壁は一番外側に最も強固な物を建築し、可能であれば二重、三重と構築出来ればと考えています。
防壁の外側にも対モンスター用の魔法トラップや落とし穴、モンスターを誘導し効果的に殲滅する為のキルゾーンの設定なども行います。
要塞防衛線ということもあり、防壁間には兵士と覚醒者専用の城塞都市もいくつか建設します。そこに物資の備蓄も行う予定です」
シャーロットは淡々と資料と参加した国を統治する者たちの顔を交互に見ながら話し続ける。
反論もあるだろうが、とりあえず黙って聞けという雰囲気がシャーロットから漂う。その雰囲気だけで僅か20代の女性が老齢な皇帝たちを黙らせている。
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