第287話
「……何でしょう?」
「その要塞防衛線……というのを完成させれば人類は生き残れますか?」
ここで生き残れると言えたならどれだけ良かっただろうか。嘘でもそう言えたなら賛同する国も一気に増えたかもしれない。ただレインにはそれが言えなかった。
「絶対はありません。ただ私が要塞防衛線の中にいる人類は命を賭けて守ります。あなた方ならもう知ってるかもしれませんが……私は敵ならば容赦はしないが、味方ならば守ります」
レインは右手を上げる動作をした。するとステージ上、レインの横に控えるように傀儡たちが召喚された。召喚されたのはアスティア、ヴァルゼルと3体の熾天使だ。膝をつき頭を深く下げている。人間サイズでは1番強い傀儡だ。当然放たれる魔力も神覚者を凌駕する強さを持っている。
「私に協力するならこの兵士たちは貴方の背中を守る強力な味方となります。知っている人の方が多いかもしれませんね。皆さんが不死の軍団と呼ぶ存在です。
今召喚しているのはあくまで一部でしかありません。私はこの他にも5万体近い兵士を召喚できます」
5万を超える不死の軍団――この言葉に会議場はまた騒然となる。もはや覚醒者個人が持つ戦力ではない。レイン1人で一国を滅ぼせる戦力となっている。
「じゃあ決まりだよね!」
オルガは笑顔で隣に座るメルクーア国王に視線を向けた。
「うむ」
そう簡単な返事を述べてメルクーアの一団が立ち上がる。そして国王が代表して声を上げた。
「我々メルクーア王国はイグニス王国とレイン・エタニア殿に全面協力させていただく。我が国の覚醒者と兵士の全てを貴方と貴国に預けよう!」
「メルクーア国王!よろしいのですか?!自国の領土を手放すのですぞ?!」
そう宣言したメルクーア国王の下の列に座っていた男が振り返りメルクーア国王に問いかける。
「なるほど……ならば貴方は自国の覚醒者のみに戦わせるというのですか?あのSランクダンジョンとそしてそれを遥かに超える魔力を放つ巨大ダンジョンに数百人かそこらの覚醒者と兵士だけで立ち向かえると?
それに領土を手放す?永遠に手放す訳ではない。全てが片付いてからまたその地に戻れば良いのだ。建物などまた建てればいい。領土、資産、地位のようなつまらない物とつまらないプライドで自国を滅ぼすような愚かな王にはなりたくない!」
メルクーア国王の言葉にその場の全員が黙った。領土を放棄するのは永遠ではない。あくまでモンスターの侵攻から世界を守るまでの間だけだ。
「あーあー!先に言われてしまったよ!」
今度は先頭に座っていた別の男が声を上げて立ち上がった。その声は聞き覚えしかない声だった。
「レインさんがどんな演説をするのか楽しみで敢えて黙ってたよ。……僕たちの意見は最初から一致してる。僕たち超越者はレインさんへの協力は惜しまない。僕たちも一緒に戦わせてほしい。
レインさんの力がないと生き残る事は出来ないと知っているからね」
「なっ?!超越者が……エスパーダ帝国が賛同したのか?!……超越者シエル・フィドクラム殿!あの話を信じられると言うのですか?!」
「別に何もないならそれでいいさ。また自分の家に帰ればいい……それだけの話だ。でも今レインさんが言った話を裏付けるように5箇所残っているSランクダンジョンが同時に崩壊する予兆が観測されてる。
そこに巨大ダンジョンも同時に崩壊したらどうやっても勝てない。同時に崩壊しなかったとしても、そもそもあのレベルのダンジョンに勝てる気がしない。ならこの世界で最も勝てる可能性を持っている人と一緒に戦うのが1番いいでしょ?僕はまだ死にたくないからね」
「その通りだ。レイン・エタニア殿……我々エスパーダ帝国は我が帝国の全戦力を貴殿の指揮下に預けるとこの場で宣言しよう。
人類滅亡が間近に迫っている中で、皇帝の地位、土地、権利や資産など不要だ。もし死んでしまえばそれら全ては塵でしかない。そういった物は我々が生き残って初めて意味を成すのだ。
まずは生き残る事のみに注力する。それの何がおかしいと言うのかね?」
「エスパーダ帝国皇帝までもが賛同したのか?!」
大国メルクーアが協力を表明しただけでも騒然となる会議場だが、大国の中でも最大最強の兵力を持つエスパーダ帝国も協力を表明した。これだけでもレインの言うことの信憑性がさらに出てくる。
「もちろん我々も協力させていただく」
「出遅れたが私たちもだ。全ての覚醒者をレイン殿に預けよう」
騒然となる会議場でさらに別の声が上がった。そこにはレインが見知った顔があった。
「ハイレン国王ハインラート殿にヴァイナー王国軍オーウェン・ヴァルグレイ将軍……という事はヴァイナー王国軍も協力するのか」
8大国……今はヘリオスが消滅した為、7大国となった。その内の4カ国がレインに賛同した。
その後は一気に協力を表明する国が急増する。残りの大国である大地の国ヴォーデンに知恵の国サージェスもだ。さらに聞いたことも何処にあるのかも分からない中小国もだ。中小国に関してはもはや選択の余地もない。
しかし全ての人間の意見が一致するとは限らない。人間なのだから当然考え方も違う。
「我々はそのような話は信じない!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます