第286話
◇◇◇
ここはイグニス王国第2都市テルセロ。エリスの任命式からさらに数日が経過した。そのテルセロにある王城内部の中で最も大きい会議場に続々と人々が入場していく。
中央のステージが1番低い位置にあり、そこを中心に階段のような段差となって扇状に机や椅子が並べられている。中央のステージから離れれば離れるほど高くなっていく配置だ。200名以上が着席可能な会議場に空いている椅子は既に見当たらない。
全ての超越者や数多くの神覚者、国家を統治する者が賛同した事で有史以来初めての『全国家連合総会』というものが開催された。
これまでもこうした全国家の総会は開催されようとしていた。しかし大国の罠を疑ったり、超越者という強者に対しての嫌悪などで中小国の首長たちが参加をしなかった。
しかしヘリオスという大国が消滅し、世界を囲うように出現した大地を飲み込むほどの巨大なダンジョン、そしてまだ5箇所残っているSランクダンジョンが同時に崩壊の予兆を示した。
これらは全ての国を統治する者たちを動かすには十分だった。
「招待した国家を代表する全ての者が着席しました」
「ありがとうございます」
各国の代表者たちが会議場の先にあるステージに視線を向ける。そのステージの袖にシャーロットとレインが立っていた。
「私はレイン様の仰ること全てを信じております。これから何が起こるのか……あの巨大ダンジョンの正体を話せば取り乱す国も出てきます。レイン様を罵る愚か者も出てくるかと思いますが……」
「大丈夫です。俺の事を信じられないなら自分たちで勝手にやってくれればいい。俺は俺に味方しない奴らまで守れるほど強くないし、優しくもない。
誰からも賛同を得られないならイグニスとエルセナだけでも守ってみせます」
「レイン様とレイン様の兵士、黒龍そしてイグニス王国軍が立案した要塞防衛線構想ですね」
1カ国の総戦力だけで巨大ダンジョンから押し寄せる無数のモンスターたちを全て撃退する事は困難だ。
よって国家の全てを囲うように城塞都市や防壁、魔法攻撃陣地を設置し、モンスターの侵攻を食い止める。その間にレインが傀儡を増やしながら殲滅していく。
アルティ曰く魔王たちは一部を除いて先頭を歩く奴はいない。基本的に1番最後に出てくる。魔王たちの目的は神の軍を殲滅し、三界制覇を成し遂げる事。
その戦場を人間の住む地上にした。魔王たちはとことん人間を見下している。魔王にとって取るに足らない虫以下の存在である人間を叩き潰すために全力どころか自身が動く事もしない。
それを逆手に取り、魔王たちが出てくる前に魔王の兵力を要塞線で足止めする。そしてレインが各地を移動し、可能な限りこちら側に取り込み全戦力を持って魔王を討つ。それがレインたちの考えた作戦だ。
「そうです。少しでも人類が生き残れる可能性を高める為には1人でも多くの覚醒者……特に神覚者が必要です。俺1人ではかなりの被害を出してしまうかもしれない。だからここで協力者を募ります」
「…………はい、ただ……国土を捨ててまで来てくれる者がいるでしょうか?」
レインたちの作戦は国家を囲うように要塞防衛線を構築する事。協力する国が増えれば、要塞防衛線の総延長距離が延びるが、ただ延びるだけだ。イグニスから遠く離れた国家はその国土を一時的にでも捨ててもらう必要がある。捨てた土地は魔王軍によって蹂躙されるのは確定だ。
貴族などはその土地を国家から得て繁栄してきた長い歴史があり、自らの富と地位を約束する物だ。それらの全てを捨ててまでレインたちに協力するという者がどれだけいるだろうか。それに関しては完全に未知数だった。
これからレインが世界を代表する者たちの前でその事を話す。皇帝、国王、有名ギルドのマスターや神覚者たち、会議場の先頭には超越者たちの姿も見える。普段なら代理の者を寄越すような地位の者たちが全員参加した。
それだけ今この世界で起きている、起きようとしている事に危機感を持っているという事だろう。
「俺は何も強制しません。ただ事実を話して協力するなら俺も一緒に戦うと言うだけです」
「それしか言える事はありませんね。……では私はここでお待ちしております」
「ありがとう」
シャーロットに見送られレインはステージの方へと向かって歩く。レインがステージ上に姿を現すと話し声で騒然としていた会議場は一瞬にして静まりかえる。
「皆さん……今日は集まっていただきありがとうございます。俺……じゃない……私からはただ1つの真実とその真実に対抗する手段を伝えます。私に協力してくれるのであれば私も一緒に戦います」
「戦う?あのダンジョンから何が出てくるというのですか?」
会議場にいる者は自由に発言する事が許されている。レインからすれば発言した者がどの国の誰なのかは全く分からない。ただ質問に淡々と答えるだけだ。
「人類に仇なすモンスターです。それも想像を絶する数のモンスターがあのダンジョンからやってきます。無策で挑めば神覚者が何人集まろうと喰われます。さらにそのモンスターたちの頂点に君臨する魔王と呼ばれる5体の化け物も出てくるでしょう。
魔王は超越者たちでパーティーを組んだとしても1体を相手にできるかどうか微妙なレベルの強さを持っています」
「魔王?!……それは古の大戦に出てくる存在だ。あくまで伝説として語り継がれているだけで本当に存在などしない!」
「存在します。そして魔王はすでに一度地上に来ています。ヘリオスの件は当然覚えていますよね?ヘリオスを滅ぼしたのはその魔王の一角です」
レインの言葉に会議場は騒然となる。かつて神魔大戦で神々が撃退したはずの魔王がまたやってくる。そして一部の魔王はすでに来ていた。
こんな突拍子もない事をいきなり言われて、はいそうですか、と納得できる者は少ない。
「もしレインさんの仰る事が真実だとして……我々はどうすればいいのですか?先程、対抗する手段がある……そう仰いましたね?」
「はい、私が……いえイグニスのみんなで考案したものです。それは………………」
レインは『要塞防衛線』構想を説明した。各国が保有する全ての領土を捨ててイグニスを中心地点とした要塞防衛線を構築する計画だ。
「そ、そんな事が可能だと本当に思っているのですか?!そのような敵が本当に来るのかも分からない中で我々に領土という財産を捨てろ……そう仰っているのですよ!
その魔王とかいう奴らが来るという根拠がないのであれば貴方が我々の領土を奪うためにでっち上げた事だと疑われても仕方ない事ですよ!」
「私の事を信じられないのならそれで結構です。私は私の味方となってくれる人だけを守ります。賛同しないのなら退室してください。時間の無駄です」
「い、いえ……そう思う人もいるかもしれないという話で……わ、私はレインさんの事を信じておりますよ?」
「レインく……さん、いいですか?」
1人の女性が手を上げてレインの名前を呼んだ。レインはその方向に視線を向ける。そしてレインは少しだけ微笑んだ。
そこにいたのはオルガだったから。その横にはレダスもアリアもいる。さらにその隣にはメルクーアの国王(名前は忘れた)もいた。
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