第285話
◇◇◇
そこから場所は変わりレインたちは修理中の王城へ移動する。用意されていた馬車ですぐに到着した。さらに王城に勤める使用人たちに連れられ正装に着替えさせられる。
そしてエリスよりも先にあの時の謁見室へと連れられた。あの時のような人混みはない。貴族たちは貴族たちで行動している。
この場に集ったのはテルセロに拠点を置く一部の貴族、そしてSランク覚醒者も含めた黒龍と聖騎士ギルドのメンバーたちだ。当然アメリアたちも正装で参加している。使用人だからとこの部屋に入るのを断られたら世界は滅んでいたかもしれない。
さらには神覚者レイン、クーデリカと超越者のカトレアもいる。メンバーだけならば一国を相手に戦争できるくらいの強さだ。
「レイン様……こんにちは」
「エレノアさん、こんにちは……そちらは無事だったみたいですね」
テルセロに拠点を置くセレスティア家の令嬢であるエレノアがレインの元へ歩み寄る。
「はい……何度も危ないところはございましたが、レイン様とこの子達が守って下さいました」
そう言ってエレノアは身につけていた魔法石のブレスレットに触れる。エレノアに渡していた傀儡たちもちゃんと役目を果たしたようだ。
「それは良かった」
「ところで今回2人目の神覚者様が現れたという事ですが……レイン様の妹であるエリス様というのは本当ですか?」
「そうですよ」
「そ、そうですか」
「ただエレノアさんの妹のクラフィールちゃん……でいいかな?これからも仲良くしてほしい。エリス様なんて敬称もいらないです」
神覚者になった途端に周囲の対応はかなり変わる。ましてやエリスはレインの妹だ。学園に行っても、何処に行っても敬称を付けられる。これまで通りというわけにはいかない。エリスはその変化に困惑するだろう。
だから学園で最初に友達となったクラフィールにはこれまで通り接してほしいとお願いするつもりだった。
「かしこまりました。あの子にもそう伝えておきます」
「よろし……」
「皆様!大変お待たせ致しました!これより新たに神覚者となられたエリス・エタニア様、ご入場です!」
謁見室の扉の前で執事風の男が大声で叫ぶ。レインの時と同じだ。何となく懐かしい気持ちなる。
重厚な両開きの扉が兵士によって開けられる。そしてそこからエリスが先頭を歩いて入ってきた。そんなエリスを拍手が包み込む。
"あー……右手と右脚が同時に動いてる。緊張し過ぎてカクカクした動きになってるなぁ"
心配でハラハラするレインを尻目にエリスは王女シャーロットの前までやってきた。そして一礼する。その時も立て付けの悪い扉みたいにガクガクしている。本当は今すぐ駆け寄って励ましたいができない。
今日はエリスの晴れ舞台だ。レインが邪魔するべきではない。
「エリス・エタニアさん……よくお越してくださいました。……とても緊張なさっているようですから手短に済ませましょうか」
「ひゃ、ひゃい!!」
エリスは背筋をまっすぐに直立不動となる。このままでは倒れてしまいそうだ。それを察したシャーロットが挨拶など全てをすっ飛ばす。
「ではエリスさん、スキルの方を見せていただけますか?」
「はい!みんな出てきて!」
エリスは右手を高々と掲げる。するとすぐにエリスの後ろに4つの金色の魔法陣が出現し、4体の天使が出現する。その天使を初めて見た会場内の人は騒然となる。
レインの妹であるエリスも召喚スキルを扱う。そしてレインを超える潜在魔力を持つことはすでに知られている。さらにエリスはまだ若く、これからの成長も見込まれる。
つまりレインを遥かに超える神覚者となる事が大いに期待できる。そんな期待を周囲が持つのは必然だった。
「母よ……今度は誰を葬れば……」
「だから葬っちゃだめ!」
「エリスさん……その天使たちは何が出来るのですか?」
シャーロットはエリスに問いかける。レインの傀儡とは違い天使たちは明確な意思を持っている。普通の召喚スキルとは明らかに異なるものだ。
だからそれぞれの天使が出来ることも知っておきたいとシャーロットは考えた。
「貴様……ただの人間が我が母に対して……」
「コラ!オルファノさん!すぐに怒らないの!ねえ……みんなって他に何かできるの?シャーロットさんに説明して」
エリスは天使たちに問いかける。エリスの質問に天使たちは考える。この前の戦闘でそこそこ見せたつもりだったが、エリスには理解されていなかった。
「では私から……私は神軍長『神の癒し』シファーと申します。シャーロット王女よ。私の能力は治癒です。一度だけならば死者であっても蘇生が可能です」
4体の天使の中で一番の常識人であるシファーが頭を下げてシャーロットに挨拶する。そして人の蘇生すら可能というスキルにまたも会場は騒然となる。
「私は『神の盾』イゼラエル。能力は反射を付与した盾を使役するものだ。私への攻撃は数倍の威力となって跳ね返される……と言えば分かりやすいでしょう」
「俺は『神の力』アギアだ。能力は粉砕。拳にそれを乗せて相手を粉々にするだけだ」
「くっ……私は『神の炎』オルファノだ。能力は炎だ」
「炎だけなの?」
「だけ?!」
エリスが素朴な疑問を向ける。他の天使たちと比べてオルファノは炎が能力だと言った。要はなんか弱くね?ということだ。それを察したオルファノは泣きそうな顔になる。
「い、今はそれだけですが、本当の力を取り戻せばきっと……」
「ご、ごめんね!泣かないで」
「な、泣いてなどおりません!」
一時、騒然となった会場もそんなやり取りを見て静かになった。そしてそれを確認したシャーロットがエリスに声を掛ける。
「エリスさん、ありがとうございます。天を廻る者たちを召喚するスキル……エリスさんの称号はこうしましょう。『天廻の神覚者』と。お兄様のレイン様と共にこの国だけでなく世界を導く者となってください」
「は、はい!」
シャーロットはエリスの元まで歩み寄り、その手を両手で包んで称号を発表した。『天廻の神覚者』――それがエリスの得た称号だ。『傀儡の神覚者』よりずっといい感じで羨ましくなる。
新たな神覚者の誕生に会場も拍手で包まれた。迫り来る厄災を前に神覚者は1人でも多い方がいい。そんな気持ちも込められていた。
そして……。
「レインさん」
「ニーナさん?どうしました?」
「2〜3日後には各国の代表者がここに集まります」
「え?早くないですか?まだ数日は掛かると思ってたのに……」
「それほどまでに世界は助けを求めているということでしょう。しかも使者ではなく全て国王や皇帝、神覚者に巨大ギルドのマスターが来る予定との事です」
「すごい人ばっかりですね」
「みんなすがるような思いでここに向かっているんです。レインさんから……世界最強の神覚者から、「大丈夫」という一言が聞きたくて……」
「そうですか」
しかしレインがこれから伝える事はその言葉とは真逆のことだ。それでも伝えねばならない。何が起こるのかを。
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