第282話






「えーと……何かいい案があるのではないのですか?それほどの敵が出てくるのなら対策も考えられていると思ったのですが……」


 シャーロットは引き攣った顔でレインに問いかける。レインがちゃんと作戦を立てた上でそのような話をしてくれたのだとシャーロットは思っていた。まさかその対策が今からだなんて信じたくなかった。


「俺がそんな事まで考えられる頭を持ってると思いますか?もう付き合い長いんですから察してくださいよ」


「なんで少し威張ってるんですか?……真面目にやってください?」


 シャーロットは初めてレインにイラっとした。しかし我が国の……今では世界を代表する神覚者に対して不敬な感情だとすぐに抑え込んだ。


「真面目ですけど?」


「そ、そうですか。では……みんなで考えましょう。しかしそのようなモンスターの大軍に対して我が国の兵力だけで太刀打ち出来るのでしょうか?」


「…………やってみないと分かりません」


「そうですよね。……って待ってください!モンスターの大軍は巨大ダンジョンとSランクダンジョン両方から……と仰いましたね?まさかSランクダンジョンも崩壊するのですか?」


「はい、既に『千里の神覚者』シルフィーが確認しております。現存するすべてのSランクダンジョンに崩壊の予兆が発生しているとの事です」


 カトレアが間に入り説明する。レインよりもカトレアの方が説明が端的でわかりやすい。


「で、あるならば『魔王城』の崩壊も近いという事ですか?!」


「……いえ、そこは俺が攻略したので大丈夫です」


「「「…………え?!?!」」」


 シャーロットとニーナとその他の兵士たちの驚愕の声が重なる。レインが魔王を引き継いでから転移した先が『魔王城』だった。そこにいたアスティアたちを全て屈服させて今に至る。


 もしあのダンジョンを攻略しようとしたのなら数万を超える天使と竜王たちを相手にしないといけなかった。メルクーアの『海魔城』より遥かに難易度が高い。そして魔法石の類は一切なかった。


 つまり魔王継承の儀式を経由せずに挑めば相当な数の死者が出た上で魔法石も獲得できない最悪のダンジョン攻略となっただろう。


「まあ……色々あったんです。魔法石は本当に無くて……中には数万の黒い天使たちがいました。ちなみにコイツがボスみたいな感じです」


 と言いながらレインはアスティアを窓際に召喚する。傀儡長アスティアは身長がやたらデカい。3メートル近い身長に6枚の翼、漆黒の全身鎧を着用している。背中には身長と同じ大剣を装着している。覚醒者でなくてもその秘めた強さを理解出来るだろう。


「王よ、お呼びでしょうか」


「レイン様の兵士は言葉も話せるのですね」


「はい、ただちゃんと会話が可能なのは2体だけですけど。……というかアスティアならいい案が浮かぶんじゃないか?魔王の軍勢にどうやって対抗すればいい?」


「そうですね。まずは何を持って勝利とするのかによります。僅かにでも人類が生き残れば良いのであれば隠れる事をお勧め致します」


 アスティアもアルティと同じ事を言う。それほど魔王たちと正面切って戦うのは避けるべきだという考えだった。


「隠れるなんて事はしない。とりあえずこの国の人たち全員を守りたい。いい作戦はあるか?……あー、無理とかは無しだぞ?」


「シャーロット王女よ、貴女にお聞きしたい」


 アスティアが少し考えてかシャーロットの方を向いた。何故シャーロットの名前まで知っているのだろうか。もしかすると傀儡はレインが召喚していない間もレインの周囲の環境を把握できるのだろうか。そういえばヴァルゼルも『海魔城』の時にソワソワしていたのを思い出した。


「な、何でしょう?」


「この国の兵や覚醒者の総数と民間人の総人口、要塞都市や防壁の設置箇所、河川や山脈などの地形情報を教えていただきたい」


「か、かしこまりました。まず兵士ですが……」


 シャーロットは一緒に連れてきた王立護衛隊の司令官と確認しながらアスティアの質問に答えていく。アスティアはそれを聞きながら少し俯いて考えている。きっとレインには到底理解できない事がアスティアの頭の中で繰り広げられているのだろう。


「やはりモンスターの数が多すぎるのが最大の難点です。我が王のスキルにより時間が経過すればするほどこちらがより強くより有利となります。ただ、そのモンスターを迎撃出来るだけの要塞、防壁、兵士が全く足りません。

 どれだけ防衛陣地を構築したとしてもその合間を縫って突破されてしまうでしょう」


「やはりかなり厳しいみたいだな。まあそりゃそうだよな。ちなみにこの街みたいに国を防壁で囲うっていうのは出来る?」


「それは難しいです」


「………………そうですか」


 試しに出してみたレインの案は速攻でシャーロットによって却下された。もう少し考えたフリでもいいから悩んで欲しかったとレインは思った。


「ち、ちなみに理由とかって……」


「モンスターの攻撃に耐えられるだけの魔法石が足りません。……いえこれは今も出現しているダンジョンから直接回収すれば何とかなりますが……1年でそれらを建設する為の人員が全く足りません。

 全ての兵士と覚醒者を動員しても難しく、それらに人手を回すと国内の治安維持やダンジョン攻略にも影響が……」


 要は人手不足という事だ。防壁の建設に注力すると防壁建設の為の魔法石が足りなくなり、魔法石の方に注力すると建設する為の人員が足りなくなる。


「なるほど……人手…か……」


「はい、今の我が国にはそこまでを賄い切れるだけの人員がおりません」


「それって俺が召喚する傀儡で代用できません?5万体くらいいますけど……どれも中位から高位の覚醒者くらいは強いですし、疲労もないので昼夜問わず働けますが……あと給金とかも必要ないです」


「……え?マジ?!」


 シャーロットの口から聞いた事もない単語が飛び出す。


「……ん?…え?はい……マジです」


 こうしてイグニスの人手不足は一瞬にして解消された。



 

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