第275話
「……という感じなんだ。俺が斬り刻むから核を確実に壊してくれよ?」
「核を……確実?」
「何?」
「何でもありません!……じゃあお願…来てるよ?」
「え?」
レインがシエルに向けた視線を前に戻す。そこには既に拳を強く握り拳撃をもう間も無く放とうとする所だった。レインの傀儡の騎士のような鎧を着ているが、剣や盾などは持っていない。
化け物(騎士形態)はレインの顔面目掛けて拳を放った。レインはそれを両手で受け止める。物凄い衝撃と突風がレインの後方に吹き荒れ、ついさっきまでソフィーたちといた小屋を吹き飛ばした。
「そーら!!」
シエルが横から風を纏った蹴りを化け物に向けて放とうとする。化け物はすぐに後ろへ下がろうとするが出来ない。レインが拳をガッチリと掴んで離さない。
シエルの蹴りは化け物の腹部へ直撃する。本来ならそれで吹き飛ぶはずだが、レインが両手を離さない。そして全力で踏ん張っているせいでシエルの蹴りの衝撃を逃すことも出来ない。
化け物の身体はその衝撃に耐えられず腕が肩から引き千切れた。化け物は地面をボールのように転がっていった。
「白魔……ブレス!天使たちも一斉攻撃!」
レインの命令を受けた天使たちと龍王が上空から炎のブレスと様々な属性の魔法攻撃を地面を転がる化け物に放った。化け物にそれを避ける術はなくほぼ全てが直撃し、大爆発を起こした。
「はい、これで死んだな。やっぱり斬り刻むより完全に消し飛ばした方が楽だしいいだろ」
「あんな高出力の魔法をそんなポンポン撃てないよ?カトレアだって無理だと思うけどね」
「みんなでやれば余裕だッ」
爆発で起きた粉塵の中から化け物が飛び出してきた。化け物はレインを最も警戒すべき敵だと断定して拳をレインに向けた。
「……って生きてんのかよ」
しかしその拳はレインには当たらない。レインは身体の角度を変えるだけでその攻撃を回避する。
次はレインではなくシエルが化け物の腕に触れる。すると化け物の腕が風の刃により輪切りにされる。そしてすぐにレインの蹴りが化け物の腹部に命中し、化け物の身体は上下に分裂した。
「うわぉ!すごい威力の蹴りだね!」
「お前は下半身切り刻んでくれ。上半身の方は俺がやる」
「了解!!」
レインは上半身を思い切り蹴り上げる。数十メートル上空まで吹っ飛ばされた先には口に巨大な火の塊を溜めた龍王がいた。化け物が自分の目の前まで来たところで龍王白魔は炎のブレスを放った。
そしてシエルは両手に風を集めて化け物の下半身に一気に放った。2つの小さくも高密度の竜巻が地面ごと下半身部分を抉り飛ばす。そこには底が見えない幅数メートルの穴が出現した。
「はーい!終わりー!」
「思ったより強くないぞ?何でこんなに殴られたんだ?」
確かに合体し細くなり騎士風の見た目になった化け物は強くなった。が、神覚者……それも超越者の中でも1位と呼ばれる覚醒者が殴られてぶっ飛ばされるような強さは感じない。
「え?……いやぁ…僕って普段は山に篭ってモンスターの研究をしてるんだよ。本当はアイツらも捕らえて実験したいんだよ?まあ皇帝から全て討伐するように命令されてるから仕方ないんだけどね。
で、そんな奴らがいきなり僕たちに適応する為に目の前で進化したんだ。捕えるのはダメでもどんな感じに強くなったのかくらいは自分の身体で確かめてもいいじゃないかなぁってね」
「だからわざと殴られたのか?」
「うん!1発目は譲ってやるよ!……みたいな強者感を出したら思ったより強くてぶっ飛ばされちゃったよ」
「お前って結構バカなんだな」
「何で親近感湧いてるような顔してるの?一応、帝国最高峰の学園を首席で卒業してるよ?レインさんは?」
「じゃあ俺は本来のルートに戻るから!お疲れ!」
と言ってレインは白魔の頭の上に飛び乗る。そしてシエルの返事を待たずに他の天使たちと共に飛び去った。
「聞いちゃダメな事だったんだね。そっちも無事でいてくれよ?ヘリオスの首都でまた会おう」
1人残されたシエルは一言だけ呟き、来た時と同じように空を飛んで本来のルートへと戻っていった。
◇◇◇
「王よ。お待ちしておりました。すでに敵性勢力の殲滅は完了しております」
レインがアスティアたちに追いついた時には元は化け物だったであろう黒い砂が大量に地面に散乱していた。レインの魔力もほとんど削られていない。アスティア指示の元、傀儡たちもほとんど破壊される事なく敵を倒し尽くした。
「ご苦労さん……で、ヘリオスの首都はどこ?流石にこんな平原な訳ないよな?」
「その通りです。おそらくはこの先に見える巨大な城塞都市がそうなのだと思います。すでに天使たちに偵察させておりますので、しばらくお待ち下さい」
「本当に有能だな。とりあえず近くまでは移動しよう。……他の超越者たちはどんな感じなんだろ」
レインは白魔の頭に乗ったまま移動を開始する。傀儡たちもレインの後ろを追従する。アスティアのみがレインと肩を並べていた。
「強い魔力を持つ者もほとんどがかなり接近しております。……何より敵性勢力が徐々に弱くなっているようです」
「はい?弱くなってる?こっちにいる奴らは街で暴れたのより再生能力が凄いんじゃなかった?」
「最初だけだったようです。しかし……このヘリオスという国家はもはや滅亡していると言っていいでしょう。生存者は絶望的です」
「…………見たら分かるよ」
レインたちはすぐにヘリオスの首都『炎陽都』まで来た。上空から見るヘリオスの首都は瓦礫の山となっていた。無事な建物を探す方が難しいくらいだ。
奴らはモンスターとは違う。人を食う事はせずただ巨大な腕で叩き潰している。レインは視力が高い。見たくない物も見えてしまう。
家族だったであろう人たちが手を繋いだまま……という光景もたくさん見られた。
「クソ……魔王ラデル、アルティが言ってた通りとんでもない奴だな」
「はい、ラデルは毒の研究の為ならば誰であろうと犠牲にします。自らを慕って付いてきた配下でも関係ありません。そもそも奴は自分とそれ以外という考え方しか出来ず、他の者の顔が理解できないのです」
「……それはそれで悲しい奴だな。なんでそんなに詳しいんだ?」
「かつての大戦でも有名な話でしたので。あの時は全ての魔王は味方でした。神の軍こそが敵でしたので、会話をするくらいの余裕はございましたので……」
「多分……これからその魔王たちと戦うことになるけどお前はいいのか?」
「過去は関係ございません。過去が味方であったとしても現在が敵ならば敵です。ご命令されれば容赦なく王の殲滅いたします」
アスティアは正面をまっすぐ見ながらそう言い放った。
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