第276話
「まあお前がいいならそれでいいけど……さて、シエルたちも来たみたいだな」
レインは振り返り、こちらに気付かれないようにゆっくり空を移動したシエルを見た。あれで気付かれないと思っていたのがとても微笑ましい。
「なんでバレたの?」
驚かせたかったシエルは残念そうにレインの元までやってくる。そしてレインと同じように白魔の頭の上に着地した。
「お、おお!……すごい!ドラゴンの頭に乗ったのなんて初めてだ!」
しかしシエルはすぐに白魔の方に夢中になった。エスパーダでは山に籠ってモンスターの研究をしていると言っていたのをレインは思い出す。
レインの傀儡は元々はモンスターだった。白魔や天使たちはアルティが昔使役していたからレインが討伐したモンスターではないが、同じようなものだ。
「ドラゴンってシエルでも見た事ないのか?」
ドラゴンという存在は誰でも知っている。ドラゴンの肉だってかなり高額だが普通に売っている。だからダンジョン内に普通にいるものだと思っていたが、シエルの反応を見るに違うのかもしれない。
「いや?何回もあるよ?でもドラゴンって破壊の化身って呼ばれてて性格は獰猛かつ凶暴!見るもの全てに襲いかかるとんでもない種族なんだよ!
でもレインさんが使役しているこのドラゴンはとても大人しくしているんだ!」
「………………そうですか」
シエルは燃えるヘリオス首都、炎陽都を前に興奮した様子で話す。自分が知らない、または詳しくないモンスターを前にするとこうなるようだ。
「ねえ!これ4体くらいいるんだよね!」
「……そうだな」
レインの背後には他にも3体の龍王がいる。レインの命令を待つように控えている。1体は空を飛べないから地上からレインを見上げている。他の2体もレインより高い位置にならないように高さを調整しながら羽ばたいている。
「1体ほしッ」
「やるか!」
「お前ら……何してるんだ?」
レインとシエルの会話に入り込む者がいた。ここまで来ているのは超越者だけだ。その中で空を飛べるのは2人しかいない。口調的には男だから1人しかいない。
「メルセル……だっけ?」
「ああ……でお前らは何してるんだ?ここは敵首都の前だぞ?さっさと攻め滅ぼそうぜ」
「いやもうほぼ滅んでるよ。生存者も絶望的だ。とりあえずあと何人か超越者が来たら行こうか。モンスターはいるから掃討しよう」
シエルが急に真面目になる。雰囲気の高低差がおかしい。真面目になると一気に超越者1位になったという実力が垣間見える気がする。
「了解」
「分かった」
メルセルも人の命令なんかに従わないみたいな雰囲気を出しているが、真面目なシエルにはちゃんと従うようだ。
「…………来たね」
「そうだな」
そしてレインとシエルがほぼ同時に反応する。シエルもレインと同レベルの察知能力があるようだ。メルセルは全然反応できていない。同じ超越者でも近付いて来ている魔力の察知能力にはかなり差がある。
「お待たせしました」
と、カトレアが空を飛んで近くの森からやってきた。これで3人となる。
「まあこれで遠距離のメルセルと後方のカトレアでしょ?近接のレインさんもいるからいい感じのパーティーになったね!行こうか!」
「贅沢なパーティーですわね。大国でもこのメンバーを雇おうとしたら財政破綻しますね」
「とりあえず行くのか?アッセンディア……お前がいるとすぐに話題が逸れるんだよ。余計なこと話すな」
「メルセル、私がいつ話題を逸らしたので」
「いくよー!」
とシエルが話題をぶった斬って突撃した。それにメルセルも続く。こんな時にカトレアと2人で取り残されたくないレインも傀儡に命令を出す。
「アスティア……お前は空から生存者を探せ。敵も倒せよ?ヴァルゼルたちも召喚。地上から敵を殲滅しろ」
「かしこまりました」
アスティアと無数の天使たちが首都へ向けて飛翔する。それと同時にレインの足元に広がる大地が黒色に染まっていく。ヴァルゼルは召喚されるのを待ち侘びていたかのように勢いよく飛び出した。
そしてレインの命令を遂行する為に地上を歩く傀儡たちを引き連れてヘリオスの首都へと突撃していった。
レインもカトレアに何かされる前に白魔に命令してヘリオス首都へと飛んでいった。
◇◇◇
「めちゃくちゃだな。本当に生き残った人は誰もいないのか?」
レインは一部の傀儡を率いてヘリオス首都を駆け足で進む。そして周囲の状況になんとも言えない感情を持った。
「化け物……いないな。みんな先に突撃したシエルとメルセルの方に行ったのか。アスティアとヴァルゼルの方にも行ってるみたいだな」
化け物はやはり1番近くにいる生物を見境なく追いかけて攻撃する。だから少し遅れて首都へ入ったレインに襲いかかる化け物はいない。レインはずっと周囲を念入りに確認しながら進んだ。
「本当にめちゃくちゃだ」
しかし無事な建物が何一つ残っていない。相当な人口の首都だったのだろう。多くの亡骸が山となっている。レインが中央平原でやった光景にも似ている。ただあの時と違うのは、その亡骸には子供も老人も男性も女性も関係ないということだ。
レインは立ち止まり足元に落ちていた血のついた人形を拾う。子供用の可愛らしい人形だ。昔エリスにも似たような物を買った記憶がある。
「これが魔王か。あんな感じのアルティだって魔王だったから他の魔王も少しくらいは良い部分があるかもって心の何処かでは思ってたんだけどなぁ」
「何1人でぶつぶつ呟いてんだ?」
「メルセル?」
レインの後ろにメルセルが着地した。あの少しカッコいいと思える黒い冥翼を展開している。
「いや……よくもまあこんなひどい事ができるもんだなってね」
「はあ?他の国のもっと罪もない普通に暮らしてただけの人をいきなり襲った国の国民だ。コイツらも知らなかったと言えばそれまでだが、世界から見れば自業自得だと言われるだろうよ。
中途半端な力を得る為に理解の及ばない何かに手を出して兵士も覚醒者も全員があんな姿になった。惨めなもんだ」
「それは少し言い過ぎだよ、メルセル?そこで母親と一緒に潰されてしまった子供はそんな事は考えもしなかっただろう。今日のご飯は?明日は何をして遊ぶ?そんな日常しか考えていないはずさ。もしこの国の罪を問うなら上層部だろうね」
さらにシエルも合流した。カトレアの魔力がさらに遠くから向かって来ている。
「もうあのモンスターを全部討伐したのか?」
「いや?まだ残ってるよ?ここは広いからね。でもレインさんの召喚した駒に群がってるから危なくて近付けないんだよ。
だから僕たちはあそこ……敵首都の宮殿に行こう。もしヘリオスの国家元首やそれに連なる上級将校がいたら殺さず捕縛するように言われてる。カトレアが来たらみんなで行こうか」
「本当は殺してやりたいけどな」
「その通りだ。それでも殺しちゃダメだよ?あー……でも痛め付けることは禁止されてないからね。どうせ抵抗するだろうし、見つけたら適度にボコボコにしよう。人間って手足が無くなってもちゃんと生きていけるからね」
「おお、そうだな。アッセンディアもすぐに追いつくだろ。先に行ってるぞ」
そう言ってシエルとメルセルは笑みを浮かべながら宮殿の方へ歩いて行った。
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