第272話
傀儡たちの突撃を見送ったレインは母親の顔を覗き込んで声をかける。
「大丈夫ですか?話せますか?」
「み、水を……下さいません…か?」
やはりかなり消耗している。レインと傀儡がいきなり到着した事がトドメを刺した感は否めないが、会話も出来ているし見たところ怪我もしていないようだ。
ただずっと走り続けて、助けが来たと分かって肉体的にも精神的にも限界が来たようだ。
レインは収納していた水の袋を3つ取り出す。そしてその内の1つを母親の口元へ持って行った。
少女2人はそれをただ黙って見ていた。1番消耗している母親より先に飲まないようにしている。それを悟ったレインはすぐに残りの袋を子供たちの前へ差し出した。
「………………あの、お兄さん…えっと……」
しかし飲んで良いのか、飲んだら怒られるのではないかと思った子供たちは目の前に差し出された水とレインを何度も交互に見る。
「沢山あるから好きなだけ飲んで良いよ。あのモンスターは俺たちが倒すから今はゆっくり休んだらいい」
レインの言葉を受けて少女2人は勢いよく水を口の中へ流し込んだ。かなりの量が入っている袋だったが一度も口を離す事なくほとんど飲んでしまった。それほど喉が渇いていたのだろう。
「まだ欲しい?遠慮しなくていいよ」
レインは母親にゆっくりを水を飲ませながら子供へ優しく問いかける。自分の顔が怖いと評判になっているのは知っている。
大人でも近付きづらいのだから少女が相手だと余計に怖い思いをさせる。だから口調だけでも優しくしないといけない。とりあえずエリスに向けるような表情を意識していく。
「そうか。とりあえず状況を教えて欲しい。とりあえず家持って来たから中で休もう。ここは日陰もない草原だから暑いしね」
「…………家?」
少女が聞き返す。その質問にレインは微笑み返す。そして近くの開けた平らな場所を指差して収納スキルを使って家を取り出す。家というより小屋だが。
魔王となった事で収納スキルの入り口が大きくなった。そのおかげで数人が寝泊まり出来る程度の簡易住居なら持ち運べるようになった。
そもそもレインは色々と神経質なのでベッドじゃないとちゃんと眠れない。本当は枕が変わるのもちょっと嫌だ。さらに私生活において近くに知らない人がいるだけでも嫌だからこのように閉じ篭れる場所を持ち歩いている。
「す、すごい」
傀儡と化け物が戦っている場所から距離を開けた位置に家を召喚した。少女の1人、妹の方が呟く。人は本当に驚く時はこんな感じの感想しか出てこない。
レインはまだ立ち上がれない母親を抱えて持ち上げる。しかし、それと同時に護衛の大天使2体が別の方向へ槍を向けて警戒する。
「天使……1体は下がって子どもたちを守れ。お前は……何が来てるのか分かってから攻撃しろよ?味方だったら気不味くなる。俺はこの人を守るよ」
レインは片腕で母親の肩を抱いた。脚に力が入りにくいようですぐに倒れそうになる。それをレインは必死で支えてもう片方の手で剣を握る。
「もう少しだけ頑張って下さい。俺の服でも腕でも掴んで立って下さい」
「は、はい……ありがとうございます」
そう母親は力なく答えた。親として子供達を必死に守ろうとして全てを使い果たしてしまった。でも地面に倒れ込んだままだと今こちらへ向かって来ている魔力を放つ存在から守り切れないかもしれない。
「………………あー、アイツか」
しかし警戒する必要はなかった。そいつは空を飛んで来た。雲の合間から物凄い速度でレインの方へ急降下する。そして目の前にゆっくり着地した。その時、周囲に優しい暖かい風が吹いた。
「あれ?レインさん来てたんだね。じゃあ僕の出番はないかなぁ?」
「シエル……いや助かったよ。傀儡と協力してアイツらを殲滅してくれないか。俺はこの人たちを休ませるよ」
「生存者だね、間に合って良かったよ。……で、モンスターの方は了解した。その人たちは頼んだよ」
そう言ってシエルは風を纏って飛んで行った。『天空の神覚者』という名前の通り風を操れるみたいだ。ただおそらくそれだけじゃない。本当にそれだけならカトレアよりも強いとは思えない。
ただ今はそんな事を考えている場合ではない。この親子を守り、後方からそのうちやってくる部隊へ引き継がないといけない。常に行動を共には出来ない。
「とにかく中に入りましょう。君たちは歩けるかい?」
レインは再度母親を抱える。子供達はレインの質問に強く頷いて立ち上がった。ただ不安なのかレインが着ている服の裾を摘む。そんな3人を連れて簡易住居の中へと入った。
「……天使1体は外で、もう1体は中へ入れ。こっちに攻撃が飛んで来たら敵味方の関係なく防御しろ。お前はこの親子を死んでも守れ。今は俺よりこの3人の命を優先しろ」
天使たちはその命令に返事はしないがすぐに行動で示す。今も白魔が暴れている所と住居の間に天使が立ち、もう1体はレインがスムーズに入れるように扉を開ける。
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